魔法少女フリーズ・フルール!

月夜るな

01【不思議な夢】


「……」


 現在時刻はまだ午後2時……14時頃。だというのに、辺りは真っ暗で街灯が付いている。空は黒い雲に覆われ、日の光一つすら通さない。もう昼間と言っても良いのに夜のように暗いのは空を覆っているこの暗雲が原因である。


「……戦えるのは私だけ、か」


 周りを見渡す。

 他の者は一般人を安全に退避させるためにそちらに付きっ切りな状態だ。目の前に居るのはファンタジーとかに出てきそうなドラゴンのような見た目をしたアンノウン……。その身体は黒一色で暗黒。禍々しいオーラを辺りに放っている。


「……」


 少女はドラゴンもどきを睨む。


「(残りの魔力も少ないけど、ここでやらないと……)」


 既に少女は、ここまででの戦闘で結構消耗をしていた。そのため、状況は悪いの一言。

 対するアンノウンは今もまだ建物を壊し続ける。いともたやすく、破壊されていく町……それはそうだろう。このドラゴンのような見た目をしたアンノウンは極めて危険なアンノウンとされているレベル6だ。


 レベル6……アンノウンには全部で6段階の脅威レベルが設けられており、一番下はレベル1、一番上はレベル6となっている。つまり、首都に破壊の限りを尽くしているこのアンノウンは最大脅威レベルに該当する個体である。


 レベル6のアンノウンがどれくらい危険なのか。

 レベル6単体で国一つを滅ぼせてしまうとされているレベルとなる。更に言ってしまえばレベル6が最高という事は、それ以上の力を持っていてもレベル6にしかならないという事だ。上限がない……そこがまた危険と言われる所以だろう。


「……このままじゃ全部壊されちゃう」


 少女は震える手をもう片方の手で抑える。

 このまま放っておけば、いずれは他県にも襲いかかるだろう。そして最終的には国全体を滅ぼしてしまうだろう。これ以上の被害を出すわけには行かない。


「怖い……けど私がやらないと」


 少女に逃げるという選択肢はない。震える手で自分のステッキをしっかり握る。そしてもう一度アンノウンを睨みつける。


「お兄ちゃん、ごめんね。使うしかないかもしれないや」


 少女のその声は、少しだけ震えており、目からは涙が少しだけこぼれていた。

 そんな少女は覚悟を決めた顔をし、ドラゴンもどきをもう一度睨みつけた。そしてステッキを強く握り直し、少女は音速のごとくその場からドラゴンもどきの方へと突撃し、ただ一言。


「――アブソリュート・ゼロ」


 それだけを少女は唱え、そして次の瞬間……世界は白に包まれた。





□□□





「!!」


 朝、目覚まし時計の音で俺は目を覚ます。


「……またあの夢か」


 ベッドから起き上がり、手を頭に当てる。

 ここ最近、変な夢ばかりを見る。そう、ドラゴンのような見た目をしたアンノウンと戦っている少女の夢。そしてその少女はこちらを見てお兄ちゃんと言っていた。


 ……俺には妹は居ないはずなのに。


「一体何だってんだ……」


 今回の夢は今までのものよりもはっきりと思い出せるレベルだ。

 夢というのは、普通目が覚めると同時に記憶から消えるようなものなのだが、消えてないな。特にはっきりとしているのは、目の前で世界が凍り付いたあの光景である。


 その点については思い当たる節があった。


「……首都凍結フリーズ・シティ


 首都凍結フリーズ・シティ……丁度今から5年前の出来事だ。脅威レベル6に相当するアンノウンが出現し、首都を襲った。それだけではなく、その配下だか何だか知らないが複数のレベル4以上のアンノウンも同時に出現。


 今までに見ない大規模なアンノウンが出現だったのだ。


 レベル6がどの程度かといえば、国一つを滅ぼしてしまうほどの脅威とされている。それが数日なのか、数十日なのか……レベル6以上の脅威レベルはないから判断は出来ないが。


 当然やつらは人々を襲ったり建物を壊したりなど暴れるに暴れた。当時の死傷者は余裕で数千万人を超えていたそうだ。


 魔法少女の大規模部隊が送り込まれたが、やはりレベル6……それ以外にも4以上のアンノウンが数えきれないほど出現していた訳だから、魔法少女たちも追い込まれてしまう。一般人以外にも魔法少女たちにも死傷者は結構出たそうだ。


 そんなピンチの中、ある一人の野良の魔法少女が自分の身を犠牲に、被害を抑えるために首都を凍結させた。その時の事は色々な人が見ていたであろう。


 瞬く間に首都の全てが凍り付いたその光景を。建物も、アスファルトも、止まっていた車もアンノウンに壊された物も、宙に浮いた埃もアンノウン自体も、全てが凍り付いたのである。

 猛威を振るっていた全ての元凶であるレベル6のアンノウンさえも凍り付いた。一瞬にして首都は絶対零度の世界へと変貌したのである。


「……」


 思い当たる節はこれ以外はない。

 その犠牲になった野良の魔法少女についても何も分かっていない。凍結した首都は今もまだ絶対零度に閉ざされており、誰も近付けない状態にある。


 というのも、近付いたものすらも凍らせてしまう環境と化してしまっているのだ。空を飛んでもそれは変わらず、既に数機のヘリコプターとかが凍り付いてしまっている。


 乗ってる人がどうなっているかも分からない。助けに行こうとすれば行った者すらも凍ってしまう……そのため、救助も出来ない状態となっているのだ。


 不思議な事に、旧首都……東京と呼ばれていた場所に近付かなければ影響はないのだ。隣接している都道府県が無事であるのが何よりの証拠でもある。


「あの首都凍結を起こした魔法少女なのか?」


 たかが夢の話ではあるけど、それでもやはりここまではっきりと覚えていると気になってしまう。

 仮にそうだとして、何故俺の夢の中に出てくるのか? そしてなぜ俺の事をお兄ちゃんと呼んでいたのか……謎が謎を呼ぶような状態になってしまっているな。


 首都凍結から今年で5年が経過している。

 相変わらず、アンノウンは出現するもののレベル3以下がほとんどであり、魔法少女たちがそれぞれ対応しているので被害はあまり出ていない。平和と言って良いかは分からないが……まあまあ平和なんだろうな。


 そもそもアンノウンとは何なのか。

 アンノウンについては今でもはっきりと分かっていない。初めてアンノウンが確認されたのはおおよそ15年前だ。突然出現したその謎の生命体は、人々や建物を襲ったのである。

 首都凍結の時ほどではないものの、15年前の初めてアンノウンが出現した時もそこそこの死傷者が出てしまっている。


 自衛隊等が駆け付け、対応をしていたがいまいち兵器とかの効果が薄かった。一応効いているみたいではあったらしいが。


 で、そんなアンノウンと同時期に現れたのが魔法少女と呼ばれる存在だ。

 不思議な力で自衛隊が苦戦していたアンノウンをあっさりを倒してしまったそうだ。そんな魔法少女の存在もあり、アンノウンについては対処できるようになった。


 アンノウンと名付けられたその敵対生命体は、その日から出現し始め、現在にまで至っている。


 あの後なんやかんやあって、日本に新たに魔法省と呼ばれる省が設置されたのである。

 魔法少女についてはも謎が多く、どういった条件でなるのかも分からない。ただ分かっているのは魔法少女になるのは10代の少女がほとんどであるという事。

 そして確証がないので何とも言えないが、命の危機とかそういうものが迫った時とかに覚醒するパターンが多いらしい。


「……」


 夢については気になる事が多いけど、今考えても何も分からないな。


「取り敢えず、朝ご飯食べるか……」


 一旦考えるのをやめ、俺は自分の部屋のある二階を後にするのだった。





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