犯行の前夜

岫まりも

1

 少女はまだ死んでいない。


 拷問をはじめて四時間あまり。

 何度目かの失神から目ざめ、うつろな目を向けてくる。


 ベッドに、皮のベルトと鎖で、大の字の形に身体を拘束してある。学校の制服である白いブラウスも、チェックのプリーツスカートも、いまは汗と血と失禁した排泄物でべとべとに汚れ、異臭をはなっている。


 少女の目の前に、包丁を差しだす。

 これから首を切り裂くことを伝える。


 少女は悲しげに顔をゆがめ、イヤイヤをする。

 ガムテープでふさがれた口からは、もはや「ふがふが」という抗議の声さえもあがらない。


 ただ、その黒い目だけが、饒舌じょうぜつに感情をつたえてくる。

 殺される恐怖。やはり助けてもらえないのか、という絶望。あきらめ。そして、ようやく死ねるのだ、という安堵もいくらか混じっている。


 そんな目を見るのは、なんとも楽しい。

 至福のひととき。


 包丁をふりあげ、白いのどを切り裂く。


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