第6話 一人でモンもん!
キスの味ってレモンの味がするとか、ラムネの味がするって書いてあったけど。
でもあれは春香の味なんだよね。
春香の味……でもそれがどんな味なのかは例えようがない。
甘いとか苦いとかそう言うもんじゃない。
ああ、今思い出してもなんだか胸の奥がとても切なくて苦しくなる。
迷い込んだこの森は多分春香の森だろう。
この中にいることがものすごく心地いい。
ずっとこの中でふわふわと漂うたんぽぽの綿毛のような存在になっていたい。
春香に連れてこられたこの森の中で……。
そんなことをずっとお布団の中で想像していた。
ちらりと時計を見るともう、深夜2時を過ぎていた。
枕元に置いてあるスマホを何度も目にしながら、何も応答のないスマホを見てはため息をつく。
「春香メッセージくらい、くれてもいいのになぁ」そんなことをつぶやく。
そんなことを言って、本当は自分から春香にメッセージを送りたくてうずうずしている。でもそんな勇気がないのを全部春香のせいにしている。
いけない子だね。
もうこんな深夜だよ。春香きっと寝ているよね。
いまメッセージなんか送たって、返事は明るくなってからだよ。絶対寝ているよ、ただ迷惑なだけだよ。
……絶対。
私も寝なきゃ。もう起きれなくなちゃう。
……でも。目を閉じれば、またあの感触が唇によみがえってくる。
あ、また来る。体がまた熱くなってくる。このなんとも言えない高揚した気分を今夜は何度も静めている。
いけないとはわかっていても、勝手に体が反応して求めてしまう。
春香のあの香り、サラサラの髪の毛。
唇が重なり合う時に感じる彼女の息遣い。
駄目だよ! また。また自分で自分の体を弄ぶ。
こんなに一晩で何度もするのは初めてだ。きっとこの森には呪いがかけられているんだろう。
この呪いを解くすべを私は多分知っている。
でも、それを行動に移す勇気がないのだ。
高鳴る高揚感が一気に抜けきった時、私は不安と言う呪縛にさいなまれる。
明日。いやすでにもう今日なんだけど、春香とどんな顔で向き合えばいいか。多分、恥ずかしくて、まともに春香の顔なんか見れないと思う。
もし、そんな私を見て春香が、避けているように感じちゃったらどうしよう。
きっと悲しむんだろうな。――――嫌だよそんなの。
春香の悲しむ顔なんか、春香の事苦しめたくなんかないんだよ。
だって――――私も春香と気持ちは一緒なんだもん。
その本当の気持ちはまだはっきりと言葉にしてはいない。でも、もう通じているよね。春香は私のこの気持ちを受け取ってくれている。そうだよ、でなければキス、なんてしないよね。
帰り道ずっと私の手は春香の手を握っていたんだもん。
私の想いも春香には届いているはずだ。だからこそ、まともに春香の顔を見ることだ出来ないという不安にさいなまれるんだろう。
目覚まし時計とスマホのアラームが鳴り響いていた。
はっと、目を覚ますと太もも辺りに感じる冷たさに
「えっ!」
と、毛布を跳ねのけた。
後悔するが、すでに遅し。
その後悔の
あぁ! もうぉ!!
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