第4話 本当に好きになちゃうよ!

柑橘系のこの甘い香り。好き。

春香の香りだ。

春香の体から伝わる温かさが私の体に伝わってくる。


夏服の生地が薄いからだろうか。半袖の制服。

春香の腕の肌が私の腕の肌に触れている。

肌とはだが触れ合う。


他の人の肌。

同性の……春香の肌が私の肌に直接触れている。


温かい。

とても温かいよ春香。

人のぬくもりってこんなにも温かいものなんだ。


妄想の中では味わえないこの胸のドキドキ。本当に自分の体が反応しているのがわかる。

「ねぇ優奈、わかる?」

「な、なにが?」

「なにがって……私今ものすごくドキドキしているんだよ」

そ、そんなこっちがドキドキしすぎて、春香のドキドキなんか感じられないよ。


グイっと春香のやわらかい胸が押し込まれてくる。

変な感触だ。服ごしとは言え、その柔らかな弾力は私の体を次第に熱くさせる。

ああ、はじめてだよ。こんな感触。自分にもついているんだけど、ほかの人のそれも春香の胸が体に触れている感触。

やわらかくて温かいんだおっぱいって。


「寒いの? 優奈の体少し震えているよ」

またブルブルと顔を振ろうとしたけど、しっかりと抱きしめられて、しかも春香の顔がグイっと耳元まで押し込まれていた。


その耳元に彼女の息が、春香の息使いが聞こえてくる。

息、だんだんと激しくなってきているような……。

「は、春香こそ大丈夫なの? なんだか苦しそうだよ」

「う、うん。多分大丈夫」

「そ、そう……」

春香のこの甘い香りと伝わる体温。そして耳元でささやく声。


もうなんだろう。まるで深い物語の森の中に足を踏み込んだような感じがする。

もう抜けきることのできない魔力を持った森。

私はこの森の中でこれからの生涯を過ごさなければいけないのか。抜けきる……。ううん、抜けたくないこの森のもっと奥深くに行ってみたい。そんな思いが次第に強くなっていく自分が存在しつつあった。


ねぇ、春香ぁ、私この先に進んでもいいの?


春香はもう準備出来ているの?


私が一緒に行こうって言えば、あなたは一緒にこの森の奥に進んでくれるの?


「ねぇ……春香」

「ん、どうしたの優奈?」

「いいの? 私、本気になちゃうよ」

「私は―――――本気だよ」

本気って、本当に本当なの? やっぱりこれは冗談でした。私をからかっているだけ?

最後にそんなこと言って、ただ面白がっているだけなんじゃないの……ねぇ春香。


どうなの?


「信じられないの優奈は。私のこの気持ちを受け入れてはくれないのかなぁ」

「で、でもぉ――――こんな私だよ。春奈とは釣り合わないんじゃないんの?」

「釣り合う釣り合わないって何? この好きな気持ちにそんなこと何か関係あるの? 優奈は私の事どう見てんの? 私はどこにでもいる普通の……い、いやなんでもないよ」


春香の表情が一気に曇り、悲しそうな顔つきに変化していく。

「私だってものすごく勇気出して優奈に告白したんだよ。ずっと、ずっと私は優奈の事見ていたんだ。でもこの想いをもう抑えることなんかできなかった。だから……私」

今度は春奈の瞳が潤んでいた。

今にでもぽたりと涙がこぼれ落ちそうな瞼が、じっと私を見つめている。


春香本気なの。

こんな私を本当に愛してくれるの?



だったら私は覚悟を決めないといけないんだよね。



――――――――――春香。

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