第87話 愛乃と知香からいたずら
「ぐっすり眠っているみたいだし平気だよ。それに何も悪いことはしていないもの」
「そ、そうかしら……?」
二人の少女に頬をもてあそばれ、透は困惑した。
しかも、愛乃と知香の甘い吐息が透の耳元にかかり、透を悩ませる。
知香までが透の頬をむにむにとしはじめる。
「それにしても、愛乃さん、他の女子から質問攻めだったわね」
「桜井さんや秋川さんとかクラスの子が、わたしと透くんが婚約者だって噂で広めちゃったみたいだものね。困っちゃう」
「『連城くんとどんな仲なの?』って聞かれて、毎回のろけてたくせに」
「うふふ、みんなわたしのことを羨ましがっているよね」
「全員かはともかく、透って結構モテるみたいだし、嫉妬はされているかもね」
「そうだね。知香さんにもヤキモチ焼かれているかも」
「わ、私は嫉妬したりなんてしないわ。幼馴染で従妹の私のほうが上なんだから」」
「そういうことにしておいてあげる♪」
それからも二人は透の話で盛り上がった。透の好きな食べ物とか、透が読んでいる本とか、透と他の女子の関係とか。
(む、むず痒い……!)
話題が透一色で、とても恥ずかしい。透が寝ていると思って、二人は好き勝手に話している。
「透くんってけっこう筋肉鍛えているんだよね。こないだサウナで裸を見せあったときも……」
「見せあった!? そ、そんなのダメでしょ!?」
「知香さんだって透くんに風呂場で裸を見せたくせに~」
「あ、あれは事故だから」
「今夜、また三人でお風呂に入ってみる?」
このところ、さすがに透は愛乃や知香とは一緒に入浴していなかった。知香が反対するだろうし、透も欲望を抑えられる自信がなかったからだ。
ところが、知香の返事には間があった。考え込んでいるのかもしれない。
「そうね、三人でなら入っても良いわ」
知香の言葉に透は驚いた。眠ったふりをしてなければ「なんで!?」と問いただしていただろう。
それは愛乃も同じだったらしい。
「と、知香さん……? 急にどうしたの?」
「そ、そんなに驚くこと?」
「驚くよ。だって、『ハレンチなことはダメ!』って、こないだまで知香さんは言っていたのに……」
「考えが変わったの。私がちゃんと見張っていればいいんだから」
「そういう問題かな……?」
普段は積極的な愛乃の方が首をかしげている。
知香はふふっと笑った。
「三人っていうのも悪くないなって思ったの。この生活が……私はとても楽しいから。愛乃さんはそう思わない?」
「うん。とっても楽しいよね! 知香さんもそう思ってくれているなら、わたしも嬉しいな」
「ね。ずっとこうしているわけにはいかないかしら」
「え?」
透は相変わらず寝たフリをしていたが、手に汗を握った。
知香はポリアモリー……言ってみれば、透にとってのハーレムを作る計画を愛乃に説明した。
しばらく間があった。
「知香さんは本当にそれでいいの?」
「私はそれが一番良い案だと思っているの。近衛家のことさえなんとかすれば、あとは透と愛乃さん次第。愛乃さんさえ良いと言ってくれれば、誰にとっても悪い話じゃないわ」
「知香さんはどうしてそんなことを提案するの? 幼馴染で従兄で大事な人を、わたしと共有するなんて、本当にできる?」
「できるわ。だって、私はあなたのことも好きだから。も、もちろん、友達としてだけどね!」
「だから、三人でいたい。そういうことなんだ……」
場を沈黙が支配する。
「ダメ、かしら?」
「わたしも知香さんのこと、好きだよ。でも、それは透くんに向ける好きとは別。知香さんだって、『透が好き』と『愛乃さんが好き』は別の好き。そうでしょう?」
「そ、そうだけど……! でも、あなたなら透のそばにいても良いの! 三人でもきっと幸せになれると思うから」
「知香さんも本当は透くんを独り占めしたいんでしょう? でも、誰も傷つけたくないから、そんな提案をしているんだ」
愛乃の言葉に知香は何も言い返せないようだった。
「わたしはね、ときどき思うの。わたしが透くんと出会ったのは最近で、知香さんや桜井さんはずっと前から透くんのことが好きだった。なのに、わたしが透くんの婚約者になるなんて良いのかなって」
愛乃がそんなふうに考えていたのは知らなかった。たしかに知香や明日夏はずっと透のことを好きでいてくれたみたいだ。
愛乃からしてみると、自分が泥棒になったかのように思えるのかもしれない。
「それでも、わたしは透くんのたった一人の、いちばん大事な存在でいたいの。たとえ桜井さんを、知香さんを傷つけても、わたしはそういう選択をすると思うから」
愛乃ははっきりときれいな声でそう言った。
それでも、知香はしばらくして口を開いたようだった。
「そうね。ごめんなさい。変なことを言ったかも」
「ううん。知香さんがわたしと透くんのことを考えてくれて、そういう提案をしてくれたのはわかるから」
「私は愛乃さんにも幸せになってほしい。でも、私にとって透は譲れない存在なの。三人で良いっていうのは、本気。それでも、もし愛乃さんが透を独り占めするっていうなら……全力で奪いに行くから」
「そうこなくっちゃ」
愛乃がふふっと笑い、知香もくすくすと笑い出した。
「最後は透くんをわたしのものにするけど、今、透くんを共有するのはアリかも」
「え?」
「両側から抱きついてみようよ」
「さ、さすがに透が起きてしまわない?」
「平気、平気。ほらほら」
頬に柔らかい感触が当たる。愛乃が透の頬に自分の頬をすりすりさせているらしい。
透は心臓がどくんと跳ねるのを感じた。
「知香さんもやってみたら?」
「で、でも……」
「できないんだ?」
挑発されて知香もその気になってしまったらしい。
反対側の頬にも柔らかい感触が当たる。美少女二人の甘い匂いでくらくらする。
さすがに透が目を覚めたことを言おうと思った。
ところが、愛乃がさらにとんでもないことを言いはじめた。
「わたし、透くんに裸を見られちゃったりしたけど……一度もキスはしたことないの」
「そ、それはそうでしょ! 私だって透とキスしたことなんてないんだから!」
「今なら、透くん寝ちゃっているから、こっそりキスしてもバレないかも……?」
「えっ、そんなのダ、ダメなんだから!」
唇に柔らかい感触が押し当てられ、透は驚きのあまり飛び起きる。
そして、愛乃と正面からぶつかり、悶絶した。愛乃も痛そうに「ううっ」と涙目で床に転がっている。
「ご、ごめん。愛乃さん」
慌てて透は愛乃に手を差し伸べると、愛乃が嬉しそうに手を取る。
「びっくりさせちゃってごめんね」
「いや、それはいいんだけど……」
本当にキスされたんだろうか?
ちらりと知香を見ると、知香は呆れたような表情を浮かべている。
愛乃はえへへと笑う。
「そ、その……透くんの唇にね、わたしの指を当ててみたの」
「な、なんでそんなことを?」
「なんとなくやってみたくなっちゃって」
つまり、キスされたわけではないらしい。
ホッとしたような、がっかりしたような複雑な気分になる。
「でも、本当にキスするもそんなに遠い未来のことじゃないかも」
そんなふうに愛乃は片目をつぶって言う。
透は愛乃のみずみずしい赤い唇を見て、ドキドキする。
知香が「もうっ! 私を放ってイチャイチャしないでよ」と割って入る。
そのときの透は自分のファーストキスが愛乃になると想像していた。
けれど、透のファーストキスを奪ったのは別の女性だった。
<あとがき>
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