第81話 サウナ&ロウリュ!

 透の言葉のおかげが、愛乃は素直にビキニを着てくれた。透も背を向けて水着に着替える。


「着替え、終わったよ」


 愛乃の言葉に振り向くと、そこにはビキニ姿の愛乃がいた。

 ビキニとしてはやや地味な黒の水着だけれど、スタイル抜群の愛乃が着ると扇情的だ


 しかも、サイズが合っていないのか胸元のあたりがキツそうだ。

 愛乃がえへへと笑う。


「もっと大きなサイズのにしておけばよかったかも……」


「でも、愛乃さんは小柄だからね」


 身体全体にはフィットしている気がするのだけれど、胸が大きいからそこはキツすぎるのだろう。

 けっこう際どい感じになっている。


 下からも横からも胸がはみ出している……。


「いわゆる下乳とか横乳っていうんだよね」


「なんでそんなこと知っているのさ」


「それは女の子の秘密」


 愛乃がふふっと笑う。

 そして、二人は浴室へと足を踏み入れた。そこで簡単に身体を洗ってから、置かれている麦茶で水分をたっぷり取る。

 愛乃によれば、脱水症状になる人も多いらしい。特に初心者の透は注意しないといけない。


 そして、サウナに入った。


 これを二人きりで独占できるのかと驚くほど施設は豪華だった。

 薄暗いけれど、落ち着く雰囲気のサウナ室内に透は腰掛ける。


「サウナってあまり入ったことがないんだよね……」


「なら、わたしが入り方を教えてあげる!」


 愛乃が隣に座り、えへんと胸を張る。

 大きな胸がたぷんと揺れて透をうろたえさせる。


 そんな透の動揺に気づかず、愛乃はふふふと楽しそうに笑う。


「透くんの方がわたしより成績が良いから、わたしが透くんに教える機会なかなかないし」


「そんなことないと思うけど」


「そんなことあるよ。透くんって頭も良いし、家事もできるし! 運動も得意なんだよね?」 


 そして、愛乃は透にすっと身を寄せる。透はびくっと震えた。

 透も上半身は裸だ。

 

 その胸板を愛乃がそっと撫でた。


「透くんってけっこう鍛えてるんだ……。筋肉質……」


「は、恥ずかしいからやめてほしいな」


「なんで恥ずかしがるの? こないだはお風呂でわたしの胸を触ったくせに」


 愛乃がからかうように言う。そう言われると、何も言い返せないのだけれど。もともとは愛乃が挑発したのだから許してほしい。


 愛乃が突然、膝を崩してあぐらをかいて座った。愛乃もお嬢様育ちだし、いつもは礼儀正しい方なのでちょっと驚く。


 愛乃が微笑む。


「サウナは上の方が温度が高くて、下の方が温度が低いの。でも、身体全体を温める必要があるから、足もなるべく上に持っていった方がいいんだって」


「へえ……だから、あぐらをかくの?」


「そうそう。透くんもやってみて」


 言われるがまま、透はあぐらをかく。愛乃と並んで、段の上であぐらをかいているのは変な気分だ。


「このサウナ、変わった雰囲気だね」


 透の言葉に、愛乃はうなずく。


「ケロサウナっていうの」


「ケロ?」


「ケロ材っていう木材を使って作られているんだけど、フィンランドでは『木の宝石』って呼ぶんだって」


「へ、へえ……そんなに高級なんだ」


「そうそう。本格的なサウナ施設だよね」


 愛乃が熱く語る。思ったよりも愛乃がサウナガチ勢で少し驚いてしまう。

 やっぱりフィンランド生まれだからなのだろうか?


「日本のサウナはフィンランドのサウナとけっこう違うけれどね」


「あ、そうなんだ」


「といっても、わたしもフィンランドのサウナのことはそんなによく知らないんだけど」


 愛乃が小声で恥ずかしそうに言う。

 考えてみれば、愛乃はずっと日本(の名古屋)育ちでフィンランドにいた期間は長くないみたいだ。


 詳しいのも日本のサウナによく通っていたからなのかもしれない。


「お母さんがね、昔はよく日本のサウナに連れて行ってくれたから」


 今はそうではない、ということなのだろう。自分の会社のために、娘に政略結婚を押し付けるような人になってしまったのだから。


 愛乃は寂しそうな笑みを一瞬浮かべたが、すぐに楽しそうな表情に戻る。


「今は透くんが一緒に来てくれるもの。寂しくないし……嬉しいなって」


 愛乃がそんなふうに、まるで愛の言葉のようにささやく。


 そう言われて、透も悪い気はしない。愛乃の寂しさを埋められるなら、そして、自分が愛乃のそばにいられるなら、それは透にとっても嬉しいことだ。


 だけど。

 

(けっこう暑いなあ)


 熱くて耐えられない、と透は言い出せずにいた。なんとなく女の子の愛乃よりも我慢出来ないのは恥ずかしい気がしたからだ。

 

 ところが、愛乃が「いいこと思いついちゃった!」と立ち上がる。

 そして、サウナストーブの近くまで行く。熱せられた石がたくさん置いてある場所だ。


 愛乃がかがみ込む。足元には水の入った桶と柄杓があった。

 それを使って、愛乃が水をサウナ石にかけていく。


 じゅわっという音とともに、激しい暑さが部屋のなかを襲う。

 柑橘系の良い匂いでサウナ室が満ちた。


(そして暑い……!)


 反対に愛乃は平気そうだった。女子の方が熱いのには敏感だと聞くけれど……。


「これがロウリュっていうの」


 愛乃はふふっと得意げに言った。





<あとがき>


透はサウナと愛乃の攻勢に耐えられるのか……!


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