第46話 愛乃のターン!

「わたしのことを……透くんは必要としてくれるよね?」


 愛乃がどうしてそんなことを問いかけたのか、透にはわからなかった。しかも愛乃の表情に一瞬影が差した気がする。


 けれど、次の瞬間には、愛乃の顔はぱっと明るく輝いていた。

 そして、バスタオル姿の愛乃はくすくすっと笑い、知香を見つめる。

 

 知香が不審そうに愛乃を見つめ返した。


「な、なに?」


「近衛さんって、意外とうっかりさんだよね?」


「え?」


「タオルの胸元、見てみたほうがいいんじゃないかな」


 愛乃の指摘で、知香ははっとした顔になる。

 そして、自分の胸元を見て、みるみる顔を赤くした。


 知香のバスタオルは相変わらず透けていて、白い布地の上から、きれいな桜色の突起がうっすらと見えていた。


 知香は悲鳴のようなくぐもった声を上げると、両手で胸を隠し、透を睨みつけた。


「透! き、気づいていたでしょ?」


「ご、ごめん。言い出せなくて……」


「さ、最低っ! エッチ! 変態っ! 透なんて大嫌いっ」


 知香は涙目で、透を睨みつけた。

 でも、その頬は恥ずかしそうに赤く染まっている。そして、知香が言葉ほど、透を憎んでいないことを、透自身も今は知っていた。


 愛乃が後ろから、透の耳元にささやく。


「素直になった近衛さんのおっぱい、触ってあげたら?」


 愛乃の声が透の耳元をくすぐり、透は頬が熱くなるのを感じた。


「そ、そんなことできないよ。近衛さんが許すわけがない」


「そうかなあ? なら……」


 愛乃はいたずらっぽく微笑むと、湯船に静かに入り、知香の背後へと回った。

 知香が警戒したように、びくっと震える。


「な、なに?」


「透くんの代わり♪」

 

 愛乃は知香の胸に背後から手を回し、そして、その胸を隠す手をつかみ、どかしてしまう。


「ちょ、ちょっと……」


 知香はふたたび、透に透けたバスタオル越しに胸をさらけ出すことになる。

 抗議しようとする知香の胸を、愛乃は両手でわしづかみにした。


「ひゃ、ひゃうっ! や、やめて……」


「近衛さんはもっと素直になったほうがいいと思うな。透くんにこういうことされたいんでしょ?」


「ち、違う……! あっ……きゃあっ」


「わたしは透くんにこういうことをしてもらったんだけどな」


 愛乃の手が知香の胸を揉みしだき、知香は頬を上気させてそれに耐えていた。

 そして、愛乃の指が知香の桜色の突起をつまみ、こりこりっと指でいじる。


「んっ……だ、だめっ」


 知香ははぁはぁと荒い息遣いで、懇願するように愛乃に言う。

 透は二人の様子に目が釘付けになってしまった。


 ほとんど裸の美少女二人が、目の前でとんでもないことをしている。

 愛乃は上機嫌に知香に言う。


「バスタオルも脱がしちゃっていい?」


「だ、ダメに決まっているじゃない!」


 やがて知香はなんとか愛乃を振り払い、湯船から逃げ出した。

 ホッとした様子だったが、慌てすぎたのか、知香はその拍子に、知香の体からバスタオルが落ちてしまう。


「あっ……」


 知香の白い裸の体が、透の目にさらされる。

 すらりとしていて、とてもきれいで思わず見とれてしまう。

 

 知香は愛乃に胸を揉まれ、透に裸を見られ完全にショートしてしまったのか、「きゃあああああっ」と大声で悲鳴を上げると、風呂場から走って逃げ去ってしまった。


 透と愛乃は顔を見合わせる。

 そして、愛乃は申し訳無さそうに、両手を合わせた。

 

「ちょっとからかいすぎちゃったかも」


「な、なんであんなことをしたの?」


「近衛さんに嫉妬したの」


 愛乃はさらりと言った。けれど、その青い瞳は真剣に透を見つめていた。


「やっぱり、二人は本当は仲良しなんだなって、わかっちゃった」


「そんなことないと思うけど……」


「近衛さんは今でも透くんのことを好きなんだよ。透くんもわかっているでしょう?」


 愛乃の言うとおりだった。知香は透に今でも特別な感情を持っている。

 でも、もう透と知香は婚約者でもない。もとに戻ることはできなかった。


 愛乃が透の瞳を覗き込む。


「わたしは透くんのことを近衛さんに渡したくないって言った。でもね、もし二人が今でもお互いのことを好きなら、わたしはお邪魔かなって思っちゃった。わたしは……」


 愛乃は寂しそうに微笑んだ。

 透は愛乃にそんな表情をしてほしくなかった。


 愛乃の力になると約束したし、今の透は愛乃の婚約者なのだから。

 知香を抱きしめたのだって、家族愛のようなものなのだけれど。


 でも、それを言葉で伝えても、説得力がないかもしれない。愛乃は信じてくれないかもしれない。


 だから――。


「え?」


 次の瞬間、透は湯船の中の愛乃を抱きしめた。

 愛乃の小柄で柔らかい体は、透の腕の中で小さく震えていた。



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