第五章 婚約者と幼馴染の最終決戦

第39話 ただいまといえる場所

 家に帰って、玄関の扉を開く。


「「ただいま」」


 透と愛乃の声が重なった。

 互いに顔を見合わせ、くすっと笑う。


 そして、二人で靴を脱いで、廊下に上がる。

 愛乃がそこで、立ち止まり、透を見上げた。


「ここは、わたしたちの家なんだよね」


「表札に名前でも書いておく?」


 冗談めかして、透が言うと、愛乃は首をかしげ、それからふふっと笑った。


「それもいいかも。でも、誰の名前を書くの?」


「俺と愛乃さんを並べて書くんじゃない?」


「『連城透』と『連城愛乃』って書いておく?」


 えへへ、と愛乃は笑う。

 透と愛乃の名字が同じということは、つまり結婚しているということだ。

 透は頬が熱くなるのを感じた。恥ずかしかったのだ


「気が早いよ」


「そう? 子供の名前も決めないと行けないと思うけど」


 愛乃がいたずらっぽく透を見つめ、透はどきりとする。

 

 愛乃のお腹が大きくなっているところを想像して、その下半身をちらりと見てしまう。

 制服姿の愛乃ははっとした様子で、スカートの裾を押さえ、そして顔を赤くする。


「透くん、いま、エッチな目でわたしのことを見ていたでしょう?」


「み、見てないから……」


「わたしはそういう目で見られても平気だけど、他の女の子の胸とかお尻とかを見つめたら、ダメなんだからね?」


「それぐらい俺でもわかっているよ。そんな目で見てしまうのは、愛乃さんだけだし」


 言ってから、透は失言だと気づく。

 愛乃のことをやましい気持ちで見ていたことを認めてしまった。


 愛乃はきょとんとして、それからあたふたとした様子で、慌てた表情を浮かべた。


「そ、そうなんだ……。わたしだけなんだ……」


 愛乃が小さな声で、恥ずかしそうに言う。

 ふと、透は気づく。


 いつも愛乃は透をからかい、積極的にアプローチしている。同じお風呂に入ってくっついてみたり、ベッドの中で胸を触らせてみたりしているように。


 けれど、透の側から動いて、愛乃が恥ずかしがるようなことを言ったりはしていないかもしれない。

 だから、愛乃はこんなに動揺している。

 要するに、愛乃は攻められるのに弱いのだ。


 透は、少しだけ愛乃をからかってみたくなった。


「それに、家に帰ったら、学校ではできない恥ずかしいことを色々できるって、愛乃さんも言っていたよね?」


「そ、それはそうだけど……」


「してみてもいい?」


 透の問いに、愛乃は戸惑うように、一方後ろへ下がる。

 いつも愛乃に圧倒されてばかりなので、透は愛乃をからかうのが、少し楽しくなってしまった。


 廊下の壁際へと逃げる愛乃に、透は一歩迫ってみる。

 そして、透は自然と、壁を背にした愛乃の脇に、手をついた。


 愛乃はびくっと震え、けれど、まんざらでもなさそうな表情を浮かべていた。


「か、壁ドンだね……!」


「そう言われれば、たしかに……。少女漫画のヒーローじゃなくて、俺なんかで悪いけれど」


 愛乃はふるふると首を横に振った。

 そして、青いサファイアのような瞳を輝かせ、透にささやく。


「透くんだから、いいんだよ?」


 透はどくんと心臓が跳ねるのを感じる。

 形勢逆転で、今度は透が愛乃にどきどきさせられる番になった。


 愛乃は嬉しそうに言う。


「エッチなことをしてくれるんじゃなかったの?」


「そ、それは……」


「また、胸やお尻を触ってみる?」


「ひ、昼間からそういうことをするのはちょっと……」


「夜ならいいの?」


「そういうわけでもないけど……」


「それなら……キスしてみる?」


「え?」


「キスをしてくれたら、本当に少女漫画みたいだなって思ったの……」


 愛乃は、恥ずかしそうに目をそらした。




<あとがき>

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