懐かしいあの味をもう一度

吉祥 昊

贈り物

「はぁ…ただいま」


AM0:00。

明かりのついてない部屋に帰宅。

返事はない。


一人暮らしの狭いワンルームにため息の音だけが響く。


夢だった仕事に就けて、ようやく軌道にも乗り始めている気がする。だけど今、なぜその仕事にこだわっていたのかわからなくなってきていた。


「今日ももうカップ麺でいいや」


ガスコンロに火をつけて、やかんでお湯を沸かす。お湯が沸騰するのを待つ間に箸を用意しようと食器棚に体を向けると、ガタッと何かが足に当たった。


足元を見ると昨日届いたダンボール。見慣れた茶色い箱に私はつい顔をしかめる。また母が野菜を送ってきたみたいだ。


連絡を寄越さない娘を心配したのか、母は1ヶ月に1度仕送りをしてくるようになった。大抵は実家の近くで採れた野菜で、自炊なんてまともにしたことがない私はいつもその仕送りを持て余していた。


仕送りが来る度に近所の人や友人におすそ分けしているが、それでも当然全て消費することはできず、冷蔵庫の奥底にはとうの昔に変色してしなしなになった野菜らしきものが鎮座ちんざしていた。


でも今回はいつものダンボールと比べると心做しか軽い。もしかしたら違うものを送ってきてくれていたのかもしれない。


カップ麺の蓋を開けようとする手を止めて、ダンボール箱を開けてみることにした。


ジジジ…とカッターでテープを割いていく。


「あれ?」


中から現れたのはいつも入っている手紙と大量の赤いきつねと緑のたぬきだった。

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