第6話 治世と乱世

私たちは三毛様に会う日の二日前から、妻の実家に泊まることにした。


「お母さんが三毛様のところの猫人だったから、おじいちゃんもおばあちゃんもあんまり話してくれなかったの? 」

息子は祖父母に尋ねたが、

「そう、ごめんなさいね。お母さんはバスで行っていたよ、一時間くらいかかるけどね」

「でもお前が三毛様のところに行っていたからかしら、私たちの親類で、後から生まれた子はほとんど猫人なのよね」

「そうなんですか、自然が豊かなところなのに」

「自然だからこそ、私たちの力はいらないのかもしれないな」


子供には難しい話になったので、義父は息子と一緒に虫取りに出かけた。


昔話をする中、私は気になることを義母に訊ねた。


「ケン君? ケン君は猫人じゃないけど、三毛様のところに行っているみたいよ」


私は男の嫉妬なのか、敗北感なのか、とにかく二度しか会ったことのない妻の従兄弟に、自分が質問したのに心がざわついていた。


         





「君のいとこは・・・幕末に生まれたら世の中を動かす人間になっただろうね」


 ケンさんより二歳年下の妻は、社会科の先生からそう言われたという。それはもはや子供に対してではなく、男としての最大級に近い賛辞である。社会科の先生という、歴史を楽しみとして学ぶ人からすれば、幕末にしろ他の時代にしろ、世に出てくる人間は幼いころから「伝説を作る」ことを知っている。


 ケンさんは、成績優秀だったそうだ、だがもちろんそれだけではない。社会科の先生が「幕末」と言ったのは、格闘の力もあったからだ。だから「幕末の志士」の中に入れても引けを取らないと言ったのだろうが、では喧嘩三昧だったか、というとそうではない。


在学中、妻の中学と、隣の中学同士で集団の喧嘩があった。その時には妻は一年生で、ケンさんは三年生、いかにもという格好の中学生がぞろぞろと敷地に入って来て怖かったそうだ。そして乱闘騒ぎが起こった。

ケンさんは風紀委員だった。先生達から力を見込まれてのことである。

そして小規模の喧嘩は特に重症者もなく、短時間で終わったが、もちろん風紀委員としてケンさんは呼び出された。


「どうして止めに入らなかった? 」先生の言葉に

「どうせ子供の喧嘩でしょ。大したこともなく終わった。

俺が出ていったら、けが人がでる」


 先生達はその言葉で黙ってしまったと、本人からも妻からも聞いた。


「すごいですね」

「二十歳過ぎたらただの人だよ」

彼は私の前笑ったが、彼が妻から社会科の先生の言葉を聞いた後、言ったセリフは喉の奥からは出てこなかった。


「俺は今の時代だって名を残すよ」


これは少々若気の至りに聞こえるためもある。

今は平時なのかどうかはわからない。

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