猫人 ねこじん
@watakasann
第1話 人間の夢
「猫人と犬人はどちらが格が上か、と言うことを議論出来るようになっただけ、人間は現状を受け入れて、訳のわからない怒りと恐怖という檻から解き放たれた」
と言ったのは、クズリ(イタチ科の大型獣、熊に似ている)だったと言われている。クズリ人達は決して自分たちの言葉ではないと断言している。
そしてこれを書いている私は、と言うと実は「鳥人」である。しかしながら私は翼を持つ彼らが主のため、かなり自由な時間を過ごすことが出来ている。特に私の主は「サンコウチョウ」という尻尾の長い小鳥であり、彼らは私の国には産卵、子育てのためにやってくるので、どちらかというと私に「自分のために動くのはよしてくれ」と言っている。
何故なら私が去年彼らの巣があった場所などを確認しようものなら、他の鳥人、オオタカ人、ハイタカ人、ノスリ人という猛禽類人、イタチ人それ以上に、尤も恐ろしいカラス人に情報が漏れてしまう可能性があるからだ。
しかし、あまりに何もしないのも気が引けるので、こっそり他の鳥人に聞いてみると
「正直自分もそうだが、このことはほら」
と言う会話になった。確かに、自分の担当の仕事に関して他の人間に相談をするのは御法度なのだ。勿論同じサンコウチョウ人は別だが。
なので、このシステムに私自身が恐怖も不満も覚えた事は無い。普通通り仕事をして、家に帰り、自分の子供と遊ぶという、何千年来変わらぬ生活を送っている一人である。
しかし、この生活を望んでもが出来ない人もいるのは確かだ。
それは五十年に起こった、テクノロジーが発端の「戦争に近いもの」だった。
「動物と話しができたらいいのに」
それは人類の夢だった。この夢を地道に研究していた人達は、ついに他の動物の脳内に小型のチップを埋め込み、彼らの意思を「人間の言語」にすることに成功した。最初は人間の声を出す能力が高いと言うことで「鳥」が実験台とされ、彼らとの日常会話に、世界中ほとんどの人が、おとぎ話ような現実に喜んでいた。ほとんどの人、と言ったがこの当時の偏屈としか見なされない人の中に、いたのだ、予言者のような人間が。その人物が言ったのは
「やがて我々の主は動物となる」
まさに今の状態がそうである。しかし、人間が気が付いたときには遅すぎて、彼らのあまりにも綿密な計画を、震えるように賞賛するばかりであった。
「猫が先か、犬が先か」
今考えればこのことも重要な事だった。だが犬よりも先に猫が流暢にしゃべり始めたことも、もしかしたら動物たちの考えの上でのことだったのかもしれない。そして猫の第一声がこうだと言われている。
「いわゆる「家畜」をしゃべらせることは止めた方が良いだろうね、君達も、私たちも生き辛くなるから」
人間達はその言葉に素直に従った。
第一猫、そう呼ばれたこの猫は、本当に賢かった。
「私のようにしゃべることの出来る猫と、そうでない猫もいる。まずは身近な動物たち、動物園にいる者を試すのが一番だろうと思う。人の会話をずっと聞いていたからね」
そしてその通りに事は運び、動物園では医療行為に麻酔を使う必要がほとんどなくなった。会話が成立したためだ。
「検査のためにみんなが緊張するのが嫌だった」という熊との会話を、動物園の飼育員達は笑いながら楽しむことが出来た。だが、飼育員達はこの頃から「違和感があった」と告白している。
動物と話しをしている、自分たちはうれしくて興奮しているのに、どこか彼らは冷静で、暴れたり、困らせたりと言うことを全くしなくなったのだ。その事実は「会話が出来るようになり、彼らの気持ちを理解できるようになったから」と当然のように受け入れられたが、飼育員達の野生の勘は、逆に本当に正しかった。
だが、動物の研究者にとってみれば、今までわからなかった部分の解明が、急速に進んだのも確かだった。
そして現在でも勿論動物の研究者は、その「動物の人」である。
「野生に戻りたい? それはそうだろう、では悪いけれど、この探知機を着けさせてくれ」
色々な種でこのことが起こるようになった。彼らが野性に帰り、繁殖したことを人々は本当に喜んだ。希少動物が徐々に増え始め、人間はすべてのことが上手くいっていると思っていた。
猫の忠告から三年ほどたち、そこから事態は急変することになる。
「ネットワークが繋がらない? どうしたんだ? 」
「イノシシが集団で襲ってきたんです、畑がぐちゃぐちゃです」
「遠隔操作の重機が勝手に動き始めて、確認したら、カメラに猿が、完全に手動に切り替えていて」
世界各国、このような事態がテロのように起こり始めた。
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