世界救ってと、頼まれたのでちょっと勇者倒してきます。

こあた

第1話 全世界防衛機関(AS)

 

 山の向こうから太陽が顔をのぞかせる。薄暗かった空も次第に明るくなり、今では雲ひとつない青空が広がっていた。

 そんな中、この世界、この国、この街の一角である一芝居が行われていた。


 「もう二度とこの子には手出しさせない!」


 「ありがとうございます。勇者様!」 


  

 後ろを振り返ると勇者と呼ばれた派手な剣を持った男が豪華な装飾の付いている服を着た女の肩を抱いていた。


 少年はその光景を見るといつもの捨て台詞を言ってその場から走り出す。

 

 「くそーー、覚えてろー!」


 ♢


 ふぅ、このくらい離れれば大丈夫かな?

 

 先程の出来事が起きたところから俺は人目につかない裏路地に来ていた。ここは太陽の光が届いていないこともあり、朝方ということもあって肌寒い。

しかし走りすぎたこともあってか額に汗をかいている。

 俺は、灰色の髪をかき揚げ服でその汗を拭う。

 そんな中俺はポケットから端末を取り出す。端末に使われている少し金属が冷たい。


 「こちらリア。ただいま任務が終わりました。」


 『了解です。ではこちらの準備が整い次第転送しますのでお待ちください。』          


 「わかりました。」


 『それと先輩があなたのことを呼んでいました。任務が終わり次第早急に私の元にくるようにと。』


 「はぁー、わかりました。行った方がいいでしょうね。」


 『はい。ではお伝えしますのでよろしくお願いします。』



 『あと今回のセリフの具合はいかがでしたか。もし、相手側に少しでも不信感を抱かれた場合にはこちらで対処しないといけないので。』


 「あぁ、ビミョーでしたね。なんせ、今まで何度も同じことをしていたので慣れてしまいました。ですが、勇者さん達にはバレていませんよ。仲良く抱き合っていました。」


 『そうですか。』

 

 端末からピッという音がして、通話状態が切れる。   

 エェー、少し冷たくないかー。対応が。それにこの端末だけに。今でも外は寒いていうのに。


 それからしばらく待っていると脳内に転送開始という機械音が響く。地面から光が湧き出し足元から体が消えていく。           


 相変わらずこの気持ち悪さはなれないな。帰ったら、上に要望してみよう。

  そんなことを思いながらわずか10秒後には俺はもうその場にはいなかった。


 ♢


 俺は目を開けると、そこには白を基調にした大使館のような建物が建っていた。その建物の名前は、 


 前世界防衛機関 通称 ワールドシールド(AS)


 なんともまあ、厨学二年生が考えそうな名前だ。

もう少しいいのはなかったのだろうか。これも後で要望を出しておくことにする。所属人数総勢100人。ここにも一応上下関係は存在して、それはこの機関にいた日数で決まる。

 まぁ、上下関係といっても緩く、中学の先輩後輩みたいなものだ。ちなみにさっき電話で話していた人は俺の先輩でここの幹部を務める人でもある。

 

 そして何より驚くべきことにこの機関に勤めている人たちが特殊すぎるのだ。元賢者や先代国王、世界を救った勇者など様々な人たちがいる。なぜかって?それは俺にもわからない。先輩にはそういうもんだと思ってくれと言われた。

 曖昧である。ただ何年か勤めているとわかってきたこともある。それは一つ目、一定以上の強さを持たないといけないこと。二つめに、その人が住んでいた世界でいてもいなくても影響がないこと。この二つが重要らしい。

 


 さて、閑話休題 


 俺はこの建物のとある一室の前についた。扉の上には執務室と書かれていて、中から書き物をしている音がする。中に人がいることがわかると俺は扉を二回ノックし中に入る。この部屋の内装は両横には本棚があり、随分と使い古されたコーヒーメーカーがある。中央奥に大きな机がありその上に書類の山があった。


 そしてその机でコーヒーを飲んでいる、黒髪の女性、俺の先輩であり、この機関の幹部。 

 フラム・ガーナルがこちらを見ていた。


 「失礼します。リアです。ただいま戻りました。」


 「あぁ、リアか。随分と遅かったじゃないか。どうだ任務はうまく行ったか?」


 「はい、無事バレることなく。転移の際も見つかっていません。」


 「そうか、ならよかった。我々の機関がバレるわけにはいかないからな。」


 「はい、心得ています。ところで俺を呼び出した理由をそろそろ聞いてもいいですか?」


 「あぁ、ミルから聞いたか。さっそくだが次の任務がお前に入っている。」

 

 「えぇー、またですか。最近俺働きすぎだと思うんですけど。」


 「えぇじゃない私だって忙しいんだ。それともお前が変わってくれるか?」


 「嫌に決まっているじゃないですか。」


 「なら、この任務を引き受けろ。それと今から言うことは機密事項だ。ほかの誰にも言うんじゃない。」


 「ミルにもですか?」 


 「あぁ、そうだ」


 ちなみにさっきから名前が出ているミルという人は俺が転移の際に端末で話していた人だ。


 「この紙を見ろ。これは上と私しか知らない。あと大声を出すかよ。ほかの奴らに知られたくない。」


 そう言ってフラム先輩は一枚のかみをわたしてきた。そこにはこう書かれていた。


 ーーーーーー

 全世界防衛機関 (AS) 所属第三期生リアに命ずる。


 ・此処から三万光年先にあるワーストという星の崩壊をなんとしてでも止めること。


 ・どんな手を使っても良い。

 

 ・期間はなし。 

 ーーーーーー


 書いていることを読み終わった俺はバッと顔を上げてフラム先輩を見た。


 「先輩、これって・・・」


 「あぁ、私もこの通達が来た時は驚いた。世界の崩壊なんて滅多にないからな。これは私からもお願いだ。引き受けてほしい・・・」


 俺はすぐに応えることができなかった。なぜならあまりにもスケールが大きすぎるからだ。この機関にもう六年間勤めてきたが、此処までのものはなかった。

 

 「・・・なぜ俺なのでしょうか。もっと適任の人がいたのでは?」


 「・・・じつはな、その世界の崩壊に関係しているのが勇者なんだ。」


 「、、、、、、えっ⁉︎どうして勇者が?」 


  ありえない。そう思った。勇者とはそもそも世界の一つの役割である。それには魔王なども同じでその二人がいるからこそ世界が回っていると言っても過言ではない。

 

 「その反応も無理はない。まぁ、聞いてくれ。お前が適任だと言ったのはそのワーストという星には魔王がいないからなんだ。お前も知っている通り世界は勇者と魔王この二人で動く。

 魔王は勇者を、勇者は魔王を牽制しあって相手の暴走を抑えている。だがさっきも言ったようにワーストには魔王がいない。このままでは勇者が世界の全てを支配し崩壊に導くだろう。だから・・・」


 「・・・だから、である俺の出番というわけですか。」


 「そういうわけだ。」


 「なるほど、たしかに俺にしかできませんね。・・・ではひとつ聞いてもいいでか?」


 「わたしがしっていることならな。」


 「俺はそのワーストという世界で何をすれば良いのでしょう?」

 

 「今確認できている時点で勇者が唯一持っていないものが権力だと判明。そしてこのワーストの大陸にある一番大きな国アーネスト王国。その王国の王族の子には今男児と女児が生まれている。・・・此処まで言えばもうわかるだろう?」


 「ハッ!全世界防衛機関所属リア。なんとしてでも勇者と王女の結婚を食い止めます。」


 「フッ、様になっているじゃないか。こちらでも出来る限りサポートをする。では、行ってこい!」


 「任務開始」

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