ママといっしょにいる方法

@mia

第1話

 えっちゃんが会ったことのある人はママだけなの。

 生まれてから五年もたっているのに、ママだけなんだって言われた。

 

 ママがえっちゃんに教えてくれた言葉は三つだけ。

「ママ」「テレビ」「ごはん」


「ママ出掛けるから」「ママ寝るから」「ママに触らないで」「ママのだから」「ママが……」「ママの……」


 テレビはママにくっついていることが多い。

「ママお仕事行くから、テレビ見てて」「ママ電話するからテレビの音小さくして」


 ごはんは食べ物をくれるときだけいわれる。

「ごはん」


 他の言葉はお兄ちゃんとテレビが教えてくれた。

 お兄ちゃんは何でも知っている。

 スナック菓子はごはんじゃないと教えてくれたのも、よそのママはぶたないと教えてくれたのもお兄ちゃんだ。

 えっちゃんと名前を付けてくれたのもお兄ちゃんだ。

 ママはお酒を飲むと「お前がいなければ」「お前を生むんじゃなかった」とぶつ。

 おまえのえをとってえっちゃんとつけてくれた。


 何でも知っていて、何でも教えてくれるお兄ちゃんが教えてくれないことがある。

 お兄ちゃんはえっちゃんやママと違って、体が透けている。そして、隣に黒いもやもやした大きいのがある。

「いつか教えてあげる」と答えたお兄ちゃんは、悲しそうだった。


その日のママは機嫌が悪かった。

「ごはん」と聞いただけで、えっちゃんのおなかを蹴った。

倒れたえっちゃんが、痛いと何回言ってもママって何回呼んでもママの視線はスマホから外れることはなかった。

 えっちゃんはもう声も出せず、ママを見ていただけだった。

 突然、今までえっちゃんの相手しかしていなかったお兄ちゃんがママに向かっていった。

 ママの顔が変わった。驚いたような、怖いものを見たようなすごい顔になって、何か言っている。

 えっちゃんにはよく聞こえなかった。

 薄れゆく意識の中最期に見たのは、倒れてすごい顔のまま動かなくなったママだった。


 目を開けると何もないところにいた。もうおなかの痛いのはなくなっていた。

 お兄ちゃんがいた。

 隣には黒いもやもやではなく、ママと同じようなすごい顔をした女の人がいた。


「ボクのママだよ」

 お兄ちゃんが教えてくれた。

 

「えっちゃんの隣にえっちゃんのママがいるよ」

 隣を見ると大きい黒いもやもやがある。これがママ?


「ボクと同じようにすれば、ママになるよ」

 よく分からないという顔をしたえっちゃんにお兄ちゃんが説明してくれる。


「ボクがえっちゃんを見つけたように、えっちゃんもえっちゃんみたいな子を見つけるんだよ。その子が一人ぼっちにならないように、ずっとママといられるようにしてあげるんだ。その子のママも黒いもやもやになっちゃうけど、いつも一緒にいられるよ。その子のママがもやもやになると、えっちゃんのママが元に戻るんだ」


 お兄ちゃんはお兄ちゃんに教えてもらって、そのお兄ちゃんはお姉ちゃんに教えてもらったんだって。

「えっちゃんも誰かのお姉ちゃんになるんだよ」とニコニコ笑いながらお兄ちゃんが言う。

 ぶったり蹴ったりしないママと一緒にいられる。


「ずっと一緒にいられるよ」


 どこからか誰かの声が聞こえてきた。


 


 




 

 


 

 

 


  

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