一九 フラグはまとまってると折れないのか
「あーん、みずぎ~みずぎ~(くちにぱんつを咥えながら)」
「ちょっと、なんでこっちに突っ込んでくる」
部屋に慌てた学生のような雰囲気と、トチ狂った説明ゼリフとともに入ってきたユウは、ボクにそのまま突撃してきた。小さくて温かい塊を受け止めることはままならず、そのままベッドに押し倒された。なんだかなぁ。
「そっちが避けないのがいけないんでしょ~。ぷんぷん」
「えー、まだ続くのかよ。遅刻でパンじゃないのかよ」
「それからしばらくしての再会は意外なところであった」
「また、口からモノローグが流れ出してるぞ」
「あ~あのときの! なんであんたが隣に住んでいるのよ」
幼馴染だしな。無茶言うなよ。はぁ一気に疲れちゃったよ。どうしよっか、これ。
とりあえず、いつまでもくっついたままなのはボクの理性くんが旅立ってしまうので、そっと髪をなでてから、体を軽く持ち上げてユウを横に移動させる。
「レベルがアップしたよ~」
そのとき、ボクのレベルが突然アップしちゃったらしい。我がことながらまったくもって理解が及ばないな、いつものことだけど。
「ねぇねぇ。レベルがアップしたらどうなると思う?」
「強くなるとか?」
「うーん、たしかにそうだね。ほかには?」
「チートが増えて、行けるところも増える」
「それもあるね。それでそれで」
「事態が進行して物語がすすむ」
あれだ、スライム狩って、装備を買って、呪文覚えて、隣の町へ。RPG定番の流れだよね。レベルアップすることによって冒険や探検ができる世界は広がっていくのだ。主人公の成長物語として僕らはソレを楽しむわけだけど。
「そうそう。だいたいそんな感じだね。ところで、ばいざウェェ~イ」
「雑なパリピ感は置いておいて。ボクのレベルアップの話はおわったのか?」
「レベルドレインで下がって、さらにはデスペナでも下がりましたよ?」
「なんでだよ」
「つまりレベルアップはレベルダウンフラグなんだよ!」
「な、なんだって! 一生レベル上がらないじゃん」
「そうそう、朝から晩まで暮らしを見つめながらずーっとずーっと街つづけるんだよ」
「スローライフに路線変更まったなしだな」
「それはまたのお話。ということでフラグって知ってる?」
話があっちゃこっちに飛びまくるな。
「あれだろ、そのセリフをいったらお亡くなるやつとかだろ?」
「そうそう。ざっつらいと」
「基本、縁起が悪いっていうか
「それな。有名なのだと『ボク、異世界から帰ったら彼女と決闘するんだ』ってやつ」
「有名かなぁ。死亡フラグなのか? 決闘して死ぬのかなんだかわからないぞ。そもそも結婚するんじゃないのかよ」
「え、しないけど……」
「なにちょっと顔を赤くしてるんだよ。ボクのプロポーズが断られてフラれたみたいになってるじゃんか」
「ぷっ……き、気のせい」
ユウさんや今、笑いませんでしたかねぇ?
英語でいうとflagつまりは旗のことだ。ゲームとかの分岐条件になるポイントとなる零か一のスイッチだ。特定の事柄が発生するためのフリといってもいいかもしれない。お約束な展開に繋がりやすいことでも定評がある。
「つまりここで建築するフラグとしては、いつもは物静かで清楚でお淑やかな私が、突然、語りだしたら危ないというやつだよね」
「いやいや、普段から大したものですよ。妄想垂れ流しでむしろ喋りすぎてボクを混乱させているまである」
「でもあれです、基本的にわたしが建てるのは異世界フラグにしておくから安心して付いてきてほしいんだ」
絶対に変なこと言い出すし、不安しかないのだけれども。そうだな積極的にフラグクラッシャーにボクはなる!
「ポキッ。やぁやぁ、討ち取ったり」
「ばか~、なんで折るのさ~」
「異世界フラグってイコール死亡フラグじゃんよ。ユウを異世界になんていかせないから」
「うー、いくもん。あれ、なんだこれ」
一筋とはいえどうしてポロッと涙を流しているんだよ。いつもにこにこしてるユウが涙を流したらボクは激しく狼狽しちゃうからね、やめてほしいんだけど。そこまで異世界にいきたいのかよ……。いかせないといせかいが似ているのがいけないのか?
「なんだ、どうかしたか?」
オロオロしつつも、とりあえず無難に声をかけると
「ごめん、なんかでたよ。あくびとかかなぁ~」
笑い方がちょっと不自然な気もするが、本人がそう言ってるのでとりあえずはスルーしておくかな。
「私、この議論が終わったら、キミと水着するんだ」
「いや、なにそれ。水着するってなんだよ」
「八級フラグ建築士だから、立て方がちょっと下手かもねぇ~」
「なにその低レベルなやつ。もっと上手に
水着するって。まぁいつものなんだろうけどアホだなぁ。だいたい異世界で水着だと柔肌が傷ついちゃうでしょーが。ボクにはそれを守る密命を自分に課してるんだよ!
「つまり。私、この服を脱いだら異世界に行くんだよ」
やっぱり、そうなったか。
「でた、水着フラグ。というかだ行き先はプールとかにしてはどうかな? なんで水着になる頻度がボクの部屋が一番高いんだよ」
「と、特異点?」
「まじかよ! そもそもいちいち脱ぐくらいなら最初から水着でくればいいじゃん」
「うわ、変態がたった!」
「フラグが立ったみたいに言うな」
「あと、買った水着は基本ここでしかきませんので安心してください」
「あ、安心とは?」
「わたし、遊びに行くときはだいたいキミと一緒じゃん? 水着が必要な場所に行った記憶あるのかな」
「インドア派だもんね、お互い」
「つまり、ここで着ないと着るところがないのだよ!」
「なんのために買ってるんだよ」
「……莫迦」
「だいたいさー、最初に服を身に着けているからこそ、脱ぐという要素を盛れるわけじゃない?」
「脱ぐことにそこまでの思い入れはねーよ?」
「ほんとかなー目を見ていってみて」
「お、おう」
「そんなことを言ってると、今日は水着なしだよいいの?」
「……おう」
「なんか残念そうな雰囲気だしてない? いつも目の前で脱いでるときじっと見てるよね?」
やべ、気が付かれてた。
「水着なしだよ? 脱いだら大変なことになるんだよ。主に私がだけど」
「めんどくさいなぁ~。もう、いいから脱いじゃえば」
「うわ、特級変態士かな。水着なしっていってるのに脱げとか、裸まったなしだよ?」
「フラグと建築どこいった? 呪物みたくなってるじゃんか。それはそうとして、おい、そこでなにをしている」
ユウは今日もやっぱり水着に変身していた。「じゃーん」とか言ってポーズとってるぞ。それにしても近頃は着替えるのが異常に早くなってないか? どっかから、秒で転送でもされてきてるのか。あ、もしかしてアイテムボックスを使った早着替えというやつかもしれない。髪はアップにしてシュシュでくくってあって、ちっちゃいシッポがぴこぴこ揺れてるのがサイコーかもしれません。
「ふふっ、どお? おにゅーのヤツだよ」
「馬鹿な、そんなかわいい水着は、ボクのデータにはなかったぞ」
やられるやつのセリフをくれてやろう。
「はっはっはっ。そうであろうそうであろう。この莫大な資金を投入したビキニの前ではキミの理性などゴミにも等しいのだ!」
やられるやつのセリフじゃねーか。フラグにフラグを被せるんじゃねーよ。
「笑止。その程度の水着ではボクのメンタルはゆらぎなどするわけがない」
ふふ、簡単にはやらせはしないゾ。
「ばかな、この過去最高に布面積の少ないえっちな水着のわたしに勝てるわけがないはずなのに」
もう、ふたりでやられる側の匂わせセリフの応酬してどうするんだよ。
「さて、それはどうかな? それすでに対策済みだ!」
ほら、バスローブをくれてやろう。
「くっ、この水着が終わったらわたしは宿題をやるんだよ」
「ユウ破れたり!」
ふぅ。フラグを建築しあったせいで、いろんなところに旗が立ちすぎてて折って回ることも不可能だな。雑木林みたいになってんぞ。
あ、フラグを回収されてしまったら異世界に行っちゃうんだったっけか? やべーな。
「そう、一本では簡単におられてしまうフラグも三本あつまればこのように」
「ぽきっぽきっぽきっ。ふむ、まったく簡単だ!」
「うがーーーー。なんで折るのさー」
その反応が見たいからとは口が裂けても言えないなぁ。
「ところでさー。この宿題が終わったら私は自室に帰るんだ」
「うん、おつかれ」
「ちょっとー。だめでしょ、これは肯定するなり折るなりしてくれないと。フラグを無視するなんてご・ん・ご・どーだんだよ!」
「折るのも建てるのも面倒くさいので回避という選択肢を尊重したげて!」
「それでは、ものは相談なんだけど宿題手伝ってくれませんかね?」
「いや、ここはボクに任せないで、さきに宿題を終わらせてくれ」
「それわたしの知らない間にキミは宿題が終わってるのに、わたしはその先で苦労してるやつじゃん!」
「ユウの戦いはこれからも続く」
「ありがとうございました。わたしの次のビキニにご期待下さい――じゃないんだよ!」
なんで帰ってきてすぐに課題やってしまわないのだろうね。一時間かからないでおわるでしょうに。水着に着替えてる時間があるなら終わるよね?
それから、互いに宿題をもぞもぞとやりながら取りとめのない話をした。まぁ相変わらずの異世界ネタだったりするけど、それはそれで楽しいからいいかなと思う。いつもと変わらない風景だ。ユウがいてボクがいる。太陽が出てやがて夜がくる、そんなあたりまえだ。
ユウがぽそりと口にした不思議な言葉がなんとなく気になったけどね。
「ねぇ、転生さんって知ってる?」
「なにそれ」
「なんか異世界に転生させてくれるって。最近ちょっとネットで噂になってるんだよね」
「え、なんかやばい宗教みたいで怖いんだけど、危なくないか?」
「相談は無料らしいよ」
「それって大丈夫なのか、学生とか騙されてないのかな」
「ホームページあるから見てみる? なんか体験談とかも掲載されてるし、なんかわけのわからない生き物の写真とか載ってるし、魔法をつかってるような写真もあるんだよ」
「うへー。あやしさ満載だな。まぁ異世界に行かなくても、ボクがユウを幸せにしてあげるんだけどな」
「えへへ、なんかキミのくせに生意気だなぁ」
いつでもボクがユウを幸せにする準備はできてるはずなんだけどなぁ。そうありたいと思ってたんだけどね。
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