いつかキミといせかいに

からいれたす。

〇一 男子垂涎の装備

「やぁ、きたよー」


 幼馴染がビキニに木刀をいてやってきた。うん、なにを言っているのだろう、ボク。ぱちぱち、しばし瞬いたけれども、幻覚じゃなかった……。


 格好はアレだけどものすごくいい笑顔の幼馴染が、残念ながらやはりそこにいた。現実がおかしい。


 鮮やかなレモンイエローからオレンジにグラデーションするビキニ。ほんのり桜色に色づいた白い肌との対比がやばい。くびれたウエストからヒップにかけて斜めに巻いた革製のベルト、そこに木刀を吊っている。


 ベルトにはなにやら色色と容器がくくられている。また用途は不明だがラッチ状のものも取りつけられていて、変なこだわりがうかがえる。


 しかも無駄に工作レベルが高いんだよなぁ。足下は足首を守るような真紅のごついブーツだ。ここはボクの部屋の中なんだけどね。


「な、なんだよー。みとれちゃったのかな?」


 コイツはマンションの隣の家、いや部屋に住む幼馴染のユウ。綺麗な艶のあるよく手入れのされたややブラウンのボブがサラサラと揺れて、微かにシャンプーの香りがする。ちょっと幼い顔立ち。右の目元の泣きぼくろがセクシーとは本人談。


 身長は知っている限りだと百四十三センチメートル。小学六年生のときに伸び止まったらしい。ボクとは三十センチメートルほど差がある。おっぱいはあんまり見当たらなかった、哀れ。これでもお互いに同じ高校一年生なんだけどね。哀れ。


 あっけに取られていたというのもあったけど、ゆっくり観察していたら、耳が赤くなってきた。恥ずかしくなっちゃったのかな、さもありなん。

 赤いフレームのアンダーリムの眼鏡をすちゃっと直しながら「な、なんかいってよ~」ってちょっと涙目になっている。


 可愛い。普段は華奢に見えるし、男友達のように接しているけれど、ボクはユウにひどく女の子を感じた。言わないけどね。


「もうさ、ツッコミどころが多すぎて頭の中が、渋滞しちゃっているんだよ」

「女子が、初めて見る服を着ていたら褒めるものなんだよ! さんはいっ」


 両手をグーにして前かがみで訴えてきた。仕草が微笑ましくって自然に頬が緩んでしまう。服ねぇ。えーっと。ビキニアーマーな戦士のコスプレかしら? なんか言っているけれども、とりまツッコんでおきますかね。


「ファンキーだな、お嬢ちゃんバラかよ!」

「ぶーぶー。なんか求めてるのと違うよぉ」


 とか言いながら、獲物を前にしたウルフ系のモンスターのように近づいてきて、ボクの周りをうろうろしだした。おい、やめろ。ものすごくいい匂いがするから。はぁ、かわヨ。


「だいたいさー。いまどきチャンバラとかお爺ちゃんしか言わないって」

「いや、木刀だし。刀イメージしているんじゃないのか?」


「やだなぁ、確かにコレは刀の類型ではあるけれど、侍じゃないんよ」

「いや、装備の種類とかを聞いてるのではなくてですね」


「アッ、そこかぁ~。名刀シルバーソウルだよ」

「いやいやいや、さも解った風だけれども、銘を聞いてるのでもないよ?」


 大体、それ小学校の社会科見学のとき、お揃いでお土産に買ったやつだろ? 観光地の焼印があるしね。なんか拭いきれない残念感があるんだよなぁ。


「木刀は一本見かけたら三十本はバスの中にあるからっ」

 なにその連帯感。


「ああ、そっか。そこを問うのん? じゃ登録をお願いしま~す。魔法戦士志望だよー。むしろ夢幻戦士まであるよ。Fランクスタートなんだよね? テストは? 登録料は?」

 ってすごい前掛かりで問うてくる。


「いや、ギルド職員じゃねーし。男の受付とか夢ねーし。夢幻戦士ってなんだよ。圧すげーよ、って話を聞けよ!」


「ぶーぶー。ノリが悪いんだよ~」

「いや、いきなりロールプレイに入られてもなぁ」


「ぶーっバッテン! 残念でした~違いま~す。本番を考慮に入れた本格的訓練ですぅ」

「本番ってなんだよ。まったく」


「いやねぇ、ほら、ワタシってば異世界にいくわけじゃない? 用意しておこっかな~って」

 いやだわ~とかいいながら肩のあたりに上げた手をパタパタしてくる。そこらへんのおばちゃんかよ! えっ、異世界いくの?


「せっかくだし一緒に逝こ?」

 下から覗き込むような視線でお願いされたら拒否なんてできるわけないじゃん、ズルかよ。


「大体、なんでベランダ伝いでくるんだよ。そんな格好で!」

「ちかいから~?↑」


「いやいや、雪降ってんだろ、寒いだろうに。あと語尾上げンな」


 朝から冷えるなとは思っていたけれど、外は夕方から降り始めた季節外れの雪がチラチラと舞っている。窓から街並みを眺めれば、庭木やガレージの屋根など水はけのよい部分が薄っすらと白く染まりはじめていた。桜隠し。空気が緩むのはもう少し先になりそうだ。


 そうそう部屋に入ってくるときにタオルで足元を綺麗にぬぐってたのが律儀なんだよな。


「あーあー。肌赤くなっているじゃねーか」

 両手を口元に寄せてふーふーってやっている。あざとい。とはいえボクも男の子なのでじっくり観察しておく。さりげなく見ているとばちっと視線があってしまった。


「あ、じっくり見ちゃう系? むしろガン見? えっちぃ~なぁ」

 さも平気そうにボクをあおってくるけれど、すっごいモジモジしている。可愛い顔が真っ赤だ。なんか温かな気持ちになるんだよなぁ。


「うっせ。そんな格好できたら見ちゃうだろ」とりあえずそうだな。うん、まぁスレンダー? じっと見返されると見るのも憚られるといいますか。そもそも露出が多くて目のやり場に困るのは確かなんだが……。


「おまえには、スク水のほうが似合う」ぼそっ。

 ほっぺをぷくーってしながら「ひどいよー」という姿が微笑ましいやら、可愛いやらで頬がどうしても弛緩する。


 いかんいかん、ビキニアーマーよりスク水アーマーの方が、より一層犯罪臭がアップしている気がする。我が発想ながらド変態じゃねーか。そもそもアーマーって(笑)

 まぁあれだ、部屋の中でビキニとか背徳感がすげくねぇ?


「ううっ~~。せっかくサービスしてあげたのに! バチがあたれ!」

 とか言いながらにじり寄ってきて、「えいっ」って胸の辺りに顔を埋めながらギュッと背中に腕を回してきた。


「……っ」

「でも不思議こうするとあったかいよ~。うへへ」

「ぎゃ~ちょおま。やめろ! さ、さみーよ。おもむろに服の中に手をいれんな!」


 不意に訪れた、冷えた手が直接肌に触れる感覚。肌から伝わる熱。冷たくて灼けるように熱い。女の子独特の甘い香りが鼻孔をくすぐってくる。


「バチだから、バチが当たっているから!」

「アホ、あたっているのはお前さんの無い胸部装甲だ!」


「ぐぬぬ、アホって言った人が阿呆だ! あほーあほー。揉んで育てろー」

「アホはお前さんだ。鳥の鳴き声みたいになっているじゃねーか」


 結局、ふたりして煮詰まって、キョドりあってしまい、口をついて出るのは阿呆ぐらいでにっちもさっちもいかないのが情けないやら間抜けやら……いつもの光景だね。


 まったく、なんでコイツはこんなに無防備にボクに踏み込んでくるのか。だいたいバチじゃなくてご褒美なんだよ。ボクはいつでも君と一緒にいたいと思ってるから。


 とはいえ先日、ボクの一世一代の告白をあっさりと袖にしてくれたのだが。それなのに、どうしてか毎日遊びにやってくる。そしてふたりでワチャワチャしちゃう。それが楽しくてまた君を好きになる。


 どうしろっていうんだ。


「てか、実際問題そんな格好で激しく動いたら取れちゃったりずれちゃったりで駄目でしょうがっ! がっ!!」


 とまれ、こうやってしみじみと観察してみると、ビキニアーマーにリアリティはないよなぁ。夢はいっぱい詰まってそうだけれども。むしろドリームしかないかも。


「大丈夫、魔法の力によって鉄壁の防御だから!」

「ほほう、その魔法とやらはこのちょっとはみ出ている両面テープなのか? あとなんか盛っていない?」

「ちょっ、それは禁則事項だから~」


 胸を両手で隠しながら、もだもだしている。涙目で見つめてくる姿がずるいんだよな。「魔法は使えるから! からっ!」って主張する姿がなんだか小動物のようで、保護欲が刺激されまくる。


 大体において、恥ずかしいならやらなければよいのでは? と毎度のことながら思うのだけれど、そこに思い至らないのだろうか?


 そもそもだ、そんな格好で全く知らない場所に放り出されたら問題ありまくりだろうに。男の浪漫装備ではあるけれども。


「まず、サバイバルの基本として太陽光や寒気とか害虫の対策とか必須。肌色は少ないほうがよいからね!」


「えっ、阿呆なの? お莫迦なの? 潤いが全く足りないじゃ~ん」

 うん、完全に沸いてる。なんかキョトンとして首をかしげならいってくる。


「荷物とかも持てないしさ」

「ざーんねーんしょー。このベルトとブラがあれば無敵だよ~」


 そういえば、なんだかごてごてしたベルト巻いてるね。ブラは……なに言ってるのかよくわからないが。


「こ・れ・はぁ~アイテムボックスだから!」

「うわっでた、ご都合ストレージwww」


 ほれほれとかいいながら、少ない布をつかんで軽くひっぱって見せつけるようににじり寄ってくる。やめろおっぱい的ななにかが見えちゃうだろ(あるかはわからんが)。上からは谷間すらうかがえないけどね。


「内部では時間の経過もないからっ、すぐれものだからっ!」

「つまり、それに包まれているものは、もう成長しないわけだな」哀れ。

「経験値になりたひ?」にこっ。


「ランチ○ック~、ピーナツ味ぃ~♪」


 とかいって、わざとだみ声でブラの下側からもぞもぞとパンを取り出して、こちらに見せびらかしてきた。まぁ上の方は両面テープで止まっていたものね。肉まんとか入れないところが慎ましいね、性格的にもおっぱい的にもね。


「なんか不愉快な思念を感じるよぅ」


 とかぶつぶつ言っている隙きに、さっとパンを奪い取ってノータイムで口に運ぶ。小腹がすいていたから丁度いいね。もぐもぐ、うん、うまいな。ほんのり人肌。


「ぎゃーーーー、なんで食べるし。変態さんなの!?」

 まばたきを数度、一瞬の間をおいてからユウにしては大きめな声をだすから、かぶせるように「ユウの味、うまかった~」っていったら真っ赤になってうずくまって動かなくなっちゃった。可愛い奴め。

 食材はスタッフが美味しくいただくのがお約束だからね。


 しばらくして、再起動したと思ったら、素早くボクのお財布から千円札を抜き取ってブラの間にそれを挟みながら「パン代でーす」とか言いだした。


 ちょ、ボクの残り少ないお小遣い。財布の位置にかぎらずボクの部屋を本人以上に把握してるよなコイツ。


 それでもって「アイテムボックスにいれたから、ワタシしか取り出せないから」とのたまった。


「くっ、高価すぎだろうが……」

 そこにあるのが理解っているのに手が出せない、取り出せないだと。マジでアイテムボックスなのかよ!(違います。)


「ところで、下にはなにも入っていないのか?」

「でたえっち! え~っと、疑問なんだけどこんなところに入れたパンを食べたい?」

 なぜ、頬を赤らめながら聞いてくる。


「え、くれるの? てかいるのか、パン……」

 一歩近寄りながらかすれた声で問いかけると、

「ちょっと~食べる気満々じゃんよ。残念~はいってませんでしたー。――はっ、まさか、パンはパンでも、パンツを喰らうとか……?」


 と自分の身体を抱きしめるようにしながら、一歩後ずさって答えてくれた、ジト目とともに。解せぬ。


 声を大にして言いたい「喰らわねーよ!」ボクをなんだと思っているのか?


 ところで腰骨に引っ掛けるように斜めに巻きつけた、栄養ドリンクを弾帯みたいにしたやつはなんだろうか? 柔肌に似合わないゴツいベルトなんだけど、ミスマッチがマッチしているというか、妙に魅力的に見える。無骨なベルト、彩りの水着、乙女の柔肌のマリアージュ、ユウのきまぐれ風。


「で、それはなんだ?」

 と指をさしながら聞いてみると、


「えー、わかんないの? 情弱?」

「え、なにその頭おかしい人を見るような目。いや、わかれというほうが難しいでしょうが……」


「しかたないなぁ。特別に教えてあげるねー。でぃすいずあぽーちょん。常識でしょ」

 などと自己主張の少ない胸をはってドヤ顔でおっしゃる。世の中の移り変わりについていけてないのかな、ボク。そんな常識知らなかった。


「リポケルな感じの栄養ドリンクだよね?」

 指差しながら質問すると、追加で別のものを示しながら答えてくれる。


「それで、こっちがハイポーちょん」

「赤べこなやつとかクリーチャー的なお高い飲料な。世界によっては異形の生物になってしまいそうだ。そもそも、ぽーちょんじゃねーから。ポーションですから」


「そ、そういう言い方もあったかもね」

 によによ。あー、今日も平常運転だなぁ。


 もう、どうツッコめばいいんだよ。いや、まぁえっち可愛いんだけども、すっごく可愛いんだけれども。また今日もポンコツで可愛い、と思っちゃいましたけれども。


 ただ、どーみてもアホの子なんだよな。残念。

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