作戦No.0026 練習風景
薄暗い森の奥深く…
そこは魔法使いが住む森で、入ったものには摩訶不思議な事が起きるとされていた。
そんな暗い森にひっそりと存在する地下8畳ほどの広さの部屋に1人、何もせず、呆然と座っている少女がいた。
年齢はおそらく10歳ほどだろう。つまり、約10年以上ここにいるということだ。
彼女に喜怒哀楽という感情は無い。なぜならば、生まれてからずっと、ここにいたからだ。
日付の感覚もない。なぜならば、暗い地下には太陽というものが無いからだ。
言葉は、知っていた。毎日3食の食事を運んでくるリタという友達がいたからだ。
今日も退屈な毎日を彼女は過ごす予定だった。
リタが食事を運んできて、外の世界のことをたくさん教えてもらおう。いつ来るかな。
なんて思っていると、外から人が来る気配を感じた。
リタだ!
歓喜の表情で彼女は入り口まで迎えに行く。
すると、
「………」
少し痩せ気味の、白衣を着た男が入ってきた。
少女は驚かない。
ただ、そのありえない出来事を呆然と見ていることしかできない。
その男は少女と、その部屋をじっくり観察し、
「…君か。必死にあいつらが隠してたものは」
その言葉の意味を、少女は理解できなかった。会話をする機会の少ない彼女は咄嗟に言葉を理解をする能力が僅かにかけているのだ。
「…もしかしてしゃべれないのか?」
受け取る人によっては冷たいとさえ思えるその男のぶっきらぼうな口調に少女は静かに様子を見ている。
しばらく少女の反応を待っていた男は、彼女の様子を見て、彼女は喋ることができないと判断した。
そして時間を確認し、
「あー、そうだな。じゃあ、外に出たいと思わないか?」
この問いかけは返答を期待してのものではないだろう。ただ何となく発したにすぎない。
だが、
「そと?」
意外にも少女は反応を示す。想定外に、男は目を見張った。
「なんだ。喋れたのか。そう、外だ。わかるか?」
うーん、と、少女は考える。
外について気になったことはたくさんある。リタから何度も聞いているからだ。でも、「出たい」と思ったことは1度もない。なぜならば、今いるこの世界が全てだと思っているから…
「出たい」
だから、彼女がそういったのは、ただの気まぐれだった。
そしてそれが、彼女のすべてを変えることになる。
男はニヤリと笑い、
「良い答えだ。ついでだから君に1つ教えておこう。外にはいい大人と悪い大人がいる。俺がどっちの人間なのかは、今後の君が決めるんだな。とにかく、まずは自己紹介だ、俺はテロス。君は?」
「名前…?」
「そうだ、君の名前だ」
えっと、
いつもリタに呼ばれているものがおそらく自分の名前だろう。
そう思った彼女は、それを教えることにした。
「わたしは……」
―――――――――――――――
「……ここは?」
シェーロが目をさますと、そこは病院のような場所だった。
訳のわからない状態だったが、しばらくして直前の記憶が蘇ってきた。
そうだ、魔法の使いすぎで倒れたんだった…
「大丈夫か?」
声のする方を見てみれば、クレルが心配そうにシェーロを見つめていた。
「大丈夫」
そういい、シェーロはすぐに起き上がった。クレルと向かい合う状態になる。
「魔法の使いすぎ?」
うん、とシェーロはうなずく。
「もしかして、魔法を使いすぎたら消えちゃうのか?」
「大丈夫、一旦は消えちゃうけど、クレルが持ってる魔力を送れば復活できるよ」
それを聞いてひとまず安心するクレル。
「良かった」
しばらく寝てなよ。と言ってシェーロを寝かし、クレルは外でストル達が訓練をしている場所へ戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「戻ったか、どうだった」
「大丈夫です」
「そうか、こちらも少し要領を得てきたところだ。イメージが大事なようだぞ」
見てみろ、とストルは手からチロチロと水を出す。しょぼいが、それでもすごい。
「おおお、すげえ」
「ふん、他の奴らも見ると良い、特に双子はすでに使いこなしている。本能で使うのが良いのかもしれんな」
「なるほど」
言われた通りまずクレルは双子の元へ向かった。
なんと、2人でも厄介な彼女たちが20人ぐらいに増えている。
「あ!見てみてクレル!」「分身!!」
「すごいなぁ…」
感心しながらその中の一体に触れてみると、体をすり抜け、その個体は消えてしまった。
「アハハ!」「ハズレ―」
笑う個体が19個、目が回りそうになっていると、どんどん減っていった。
そして2体になった。
「正解は」「ここでした!」
「おお」
思わずクレルは拍手を送った。彼女たちは褒められて嬉しそうだ。
「フィロスに見せに行こう!」「そうだね」
そう言うと、止めるまもなくどこかへ走り去っていった。
―――――――――――――――
次の相手を探して歩いていると、瓦礫を椅子にして座るガスポートが、まるで石像のようにじっとしていた。
「魔法は?」
「んぁ?あんなみみっちいのやってらんねぇよ」
「じゃあ今何してたの?」
「はっ、そりゃオメェ、何もしてねぇに決まってらぁ」
何もしてないなら練習すればいいのに…とクレルは思ったが言わない。
「だいたいよぉ、こんなちっこい玉1個でどうにかなると思えねぇって。だろ?」
「………」
「これで、イメージ?とかいう訳わかんねぇことして、俺のほしいもんが…」
瞬きする間もないほど一瞬で、ガスポートの手元にはいつの間にか普通のレクシブの何倍もある品物が現れた。
ガスポートはそれを見るなり目を輝かせる。
「おお!!!俺のお気に入り、どうしてここに⁉︎」
抱きしめたり、構えて狙ってみたり。
「お前が修理と聞いてどれほど悲しかったか…」
ドンドンと、何発か空に打ち込む。その重厚さは、普通のレクシブとは比べ物にならないほどだ。
「お、お前弾無限なのか?すげぇじゃねぇか。良いな、魔法っつうのは」
ドドドドドド、空に連射している。
その様子を目の前で呆然と見ていたクレルはハッと我に返り、これ以上ここにいる意味もないと判断し次の場所へ向かった。
―――――――――――――――
「よう」
「おう」
次に会ったのはラークだ。彼はクレルを見つけると自ら寄ってきた。
「どうだ、うまくいってるか?」
「いいや、さっぱりだ」
「そうか…まあ俺も使えないからな。あれが目標?」
建物の残骸の1つ。ちょうど3角形になって壊しやすそうな瓦礫がある。
ラークは首肯した。
「初っ端あれ壊すのキツくね?隊長は手から水出すくらいだったぞ」
「え⁉︎そうなのか。でも魔法っていったら威力高いんじゃないのか?」
その質問にクレルは答えが詰まる。これまで何人か見てきたが、みんな効果はまちまちであった。
ストルは水を出し、双子は分身、ガスポートは武器を出していた。
シェーロに関しては敵の大部隊を壊滅させている。
「さあな。現状出来てないんならとりあえず目標を下げてみたらってことだ」
「そうだな。たまたま見かけたから壊してやろうって思っただけだけど、まずは手から何か出してみようか」
そう言うとラークは、自分の右を前に出し、そこに精神を集中しだした。イメージが大事だと言われているから、おそらくてから何か出る想像をしているのだろう。
しかし、3分も経過しないうちに、
「出ない!これ本当にやり方合ってんのか?クレルちょっとやってみろよ」
諦めんのはやっ、
と思ったクレルだが、言われるがままにラークと同じように右手に力を集中させた。
とにかくイメージだ。集中…
「ふむ、クレルもやっているのか」
「そうです。結構集中してるみたいですね」
たまたまやってきたストルとラークが会話をしているが、クレルには聞こえない。
彼は集中していた。そこでふと目に入ったのは、先ほどラークに諦めさせた的である瓦礫だ。なんとなく照準をそこに合わせる。
「成功したことはあるのか?」
「いや、まだですね」
「そうか」
集中…あの瓦礫を倒す、つまり威力のあるものをあそこに当てないといけない。ちょうど手を出しているからそこから飛ばしてみよう。
飛ばすものは何が良いか、銃?いや、やっぱり威力のあるものといえば大砲だろう。
大砲と言えばシェーロが敵からくらってた時に簡単に弾いていたような…
威力を上げればシェーロの魔法の盾ですらも貫けるのだろうか。
クレルはそんなことを考えていた。
1つのことを考え続けるというのは難しいのだ。
やがてクレルは発射のイメージをした。
彼の体から何か力が使われる感覚があり、そして、
ズオオオオッ!!!
激しい破壊音と共にクレルの目の前にあった町の建物が一瞬にして綺麗に吹き飛んだ。
ーーーーーあとがきーーーーー
はい、訓練風景はこれで終わりです。クレルくん強いよ〜?
レンホス?ダリア?知りませんね。
次回はリアンたちメインで行きます。早く次の章書きたいところ。
でわ
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