作戦No.0023 会議
「随分遅かったな」
前日にヴィスから提供された家へと戻ったリアンは、早々にドラードからそんなことを言われた。
それには答えず、部屋の真ん中に設置されているテーブルと椅子2つの片側に座った。
もう片方の椅子にはドラードが座っていて、その机には彼が見つけてきたのであろうこの街の地図が広げられている。
そして、リアンは視線を机からドラードへと直し、先ほどのセリフを返そうと口を開こうとして、驚きで目を見張った。
「…メガネ?」
何と、ドラードがメガネを付けていた。あまりにも予想外だったために、他のことよりも真っ先にそれを聞いてしまった。
「ああ、近くを見るのは目に悪いらしいんだが、これを付ければ近くを見ても負担が軽減されると書いてあってな、つい買ってしまった」
どうだ、似合うか?
自身ありげに聞いてくるドラードに、まあ…とリアンはさして興味を示さない様子で答えた。
どうせこの街の店員など避難しているはずなので、ドラードの買ったというのは嘘であろうが、そこもリアンは突っ込まなかった。
筋肉質でガタイのいいドラードにメガネが似合うのかといえば、案外似合っている。まるで頭のいい体育会系のようだ。
だが、今までドラードと話してきたリアンとしては、そんな程度どうでも良い。すぐにドラードから地図に視線を戻す。
「この地図だと…今いるここはどこなの?」
早々に話題を切り替えるリアンに、ドラードが少し寂しそうにため息をついた。そして地図の一点を指し示し、
「ここだ。ほら、こっちが大通り、で、俺が地図取りに行ったのがこっち側だ」
「へえ…」
それを説明してもらったところで、リアンは今日の出来事を頭で整理し、道筋を地図で想像する。
そして机に置かれていたペンを持ち、1つの建物を丸で囲った。
「なんだ?」
「ここに無線機がある。いろんな種類がごちゃごちゃにあったから多分基地まで届くやつもあると思う。あ、それと…」
ゴソゴソとポケットを漁って取り出したものはヴィスから渡されたドラード用の小型無線機だ。耳につける骨伝導式のもので、周りの音を遮る事なく仲間と通信できる優れものだ。
ちなみに前にストルから渡されたものとほとんど同じだ。何せ製造会社が同じなのだから。
それをドラードは何を思うでもなく自然と受け取った。そして慣れた手つきで取り付ける。
「なんだ、誰かといたのか?」
ここまでのリアンの動きを見ていれば、自然とドラードは気づく。リアンは隠さずにうなずく。
「歩いてたらヴィスに…ね」
「そりゃ運がねえ、いや結果的に見れば運が良かったのか」
「まあね。他にも色々案内してくれた」
ペンで、いくつかの建物を丸で囲い、その丸に何があるのかを書き込んだ。全てを覚えているわけではないが、それでもかなりの量の情報だ。
ドラードは思わぬ功績に感心し、驚いている。
「やるじゃねえか、これで探しやすくなる」
えへへへ、褒められると嬉しいようで照れている。
「どこにいそうか分かる?」
リアンが聞いたのは、ここに来た目的である民間人の居場所だ。リアンが手に入れた情報は敵が使っている設備、例えば上官が住んでいる宿や、それらが事務をするときに使う建物、などだった。もちろん民間人の隠れ家などわからない。
だが、ドラードはスパイの経験が何度かあるらしいので、もしかしたらこれらの情報だけで隠れ家の場所が分かったかもしれないと期待したのだ。
「そうだな、今パッと見た感じだと……ここか……ここ」
ドラードが指した場所は、大通りからかなり外れた場所で、どちらも街の外周辺り。
「1番目立たない場所がおそらくこの2つだろ。この辺りの民家全部、3日、いや2日もあれば回れるか」
「うん…」
これにはリアンも、異論なく素直にうなずいた。
「明日、2手に分かれて捜索だな。無線の周波数は奴らのじゃなくて向こうのに合わせとけ、繋がるかもしれない」
「うん」
周波数はボタンで変更可能だ。本来ドラードたちの国では軍で使う無線機を改造して敵に傍受されないようにしていて、周波数を変えるだけでは設定できないようにされている。
そのため今の彼らにはそこに合わせるのは不可能だが、それを見越してストルと決めた周波数がある。
カチカチと、リアンはその設定に変更した。
「とにかく、本格的な行動は明日からだ。できる限りここの人間に関わらないようにな。余計な任務を頼まれて邪魔されたくない」
「分かった」
そんな会話を交わすと、あとは全く任務の話をすることなく、他愛のない雑談だけして時が過ぎた。
―――――あとがき―――――
進まない!!
リアンです。
まさか私とドラードの会話だけで終わるとは思わなかった。次回は確か、私達の話じゃなくてクレル達だったかな。いい加減魔法を使えないと…って作者が言ってた気がする。
っとこんなところでじゃあね!
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