第6話
ある日、学校で授業中に、莉愛さんがケガをした。
「莉愛あああーーッッ!!大丈夫か!?痛くねえか!?痛いよな!?そーだよな!!くそうっっっ、俺の可愛い莉愛にこんなケガをさせやがって…!!」
「琢磨、大袈裟。あと、煩い」
過保護な莉愛さんモンペ親と化してる琢磨さんは、もちろんその知らせに問答無用で会社を早退し、高級車ですっ飛んできて大騒ぎしながら保健室に駆けこんできたらしい。
「………やれやれ」
教室で次の授業を受けていた俺は、その現場を直接には見ていない。だが、遠くから近付いてくる地鳴りのような気配と雄叫びは聞こえていたし、まあ、軽く想像しただけで、眩暈がするような光景が展開されていたであろうことくらいは容易に想像がついた。
それはそうとして。
『貴由、来て』
「え?…あ、はい」
翌朝、いつも通りマンションへお迎えに行くと、インタフォンからお誘いの声が掛かってきた。
「はい!!今、行きます!!」
夏休み前のあの遅刻騒動以来、莉愛さんは俺を度々、部屋へ招いてくれる様になった。とはいえ、朝のこの時間に許可されるのは稀なことで、まだ、片手で足りるくらいの回数でしかない。
とりあえず俺は昨日の今日だから、どうしたんだろ?ケガが疼くのかな?などと、心配になりつつマンションへ入って、彼女の部屋のチャイムを鳴らしたのだが──
「中入って、ちょっと手伝ってよ」
「??………はい?」
まだ寝間着姿の莉愛さんが、不自由そうに左手でドアを開けてそう言った。
昨日、ひどく捻った右腕は、白い三角巾で首から吊っている。そのデジャブを引き起こす姿に俺は、過去生を思い出して胸が詰まった。
転生前、俺達の国『マーナルゥ』は滅んだ。
もともと、小さな国ではあったけれど歴史だけは古く、しかも隣国であるローアグラス王国が長年、友好国として庇護していてくれたから、他所から侵略を受けることなどほとんどなかったのに。
まさかローアグラス王国を継承した新王が、国同士で交わされた古い約定を破って襲い掛かってくるだなんて、王も重臣も他の誰もが皆思ってはいなかったのだ。
「ひるむな!押し返せ!!」
圧倒的な大軍を前に絶望的な戦いを強いられたマーナルゥだが、それでも、俺達──竜騎兵『暁の師団』は奮闘したと思う。
中でも副団長であった莉愛さん──ナイトーリア・アルヌの働きは凄まじく、その容赦ない戦いぶりと騎乗する竜の体色から、ローアグラス軍に『朱の悪魔』と称され恐れられるほどだった。
大国であるローアグラス王国の、小国マーナルゥへの侵略戦争。
きっと一瞬で決着が付くと、周辺国は思っていたに違いない。
けれど戦争勃発後、半年経ってもまだ皇城は堕ちず、国境付近の戦線は膠着状態のままだった。
それもひとえに、ナイトーリアと竜騎兵の働きがあってのことだったのだけれど──
あの日、思いも掛けぬ裏切りによって、彼は──
「貴由?なに、ボーっとしてんの」
「あ…あ、や、すんません」
つい、莉愛さんの傷ましい包帯姿に、前世の記憶を思い出して自失してしまっていた。莉愛さんの声に我へ返った俺は、『大丈夫、手首を酷く捻挫しただけだ』と気を取り直す。
「手伝うのはイイっすけど、何手伝う…」
「着替え。片手だと上手く出来ないから」
「ははっ、そっか、そうっすよね。って、え――――――――――――ッッ!?」
「貴由うるさい」
言葉の意味を理解した瞬間思わず叫んだら、ジロリと大きな黒い目に睨まれてしまった。
もちろん俺はすぐに『はいッ、ごめんなさいッ』と謝り、慌てて両手で自分の口を塞いだけれど、冷静に考えてこれが叫ばずにいられる状況だろうか??いや、絶対に俺の反応間違ってない!!
「早くして。遅刻する」
「あ、でも、は、ハイッ、俺、頑張ります!」
まったくこの人は、自分という女の子の魅力が解ってない。というかそもそも女の子と言う自覚がなさ過ぎるにもほどがある。俺は男で、男は狼なんだぞ!?まったく!!
などと今更なことを悶々と考えていたら、催促するように上目遣いに見詰められ、俺はその眩しい可愛らしさにくらくらした。我儘を言いつつも『手伝ってくれないの?』と言いたげな彼女の幼い顔!可愛い!!無自覚最高!!!神様有難う!!!!
という訳で、この際、色々考えるのは放棄して、俺は、この夢みたいな展開に胸をときめかせることにしたのだった。
「ん……そう、そうやって少し持ち上げて」
「は……はひっ、こうですか…!?」
「そう、それで……」
ああ、マジで夢なんじゃないだろうか。
でも、幻にしては柔けえし、ズシリとした重みがある。
なあ?ホントいーの??これ、俺が触ってても??
つーか俺、もしかして、もうすぐ死ぬのかな?それとも、死の間際に幸せな夢見てんのかな??
これ、ひょっとして、なんかのフラグ?
「ん。いーよ。貴由」
「ふぁ、ふぁい!!」
さっきからうまく発音できねえ。声が裏返ってしまう。
変な脂汗も出るし、耳の奥で動悸はうるせぇし、目はちかちかしてるくせにやけに視界がクリアだし、鼻の奥はヤバイ感じで熱いしで、さらに体全体は熱もってぼうっとしちまっている。
「んじゃ、あとは制服ね」
「ふぁい!!!!!!!!!!!」
掌に残る魅惑の柔かさ。肌のすべらかな手触りと、その圧倒的な質量。そして、初めてこの目にした、というかこの手で鷲掴みにした、りっ、莉愛さんの、なっ、ななっ、ななななななな、生、生乳房アアアッッ!!
「片手だとブラ着けらんないだ。貴由着けてよ」
「……………………………………………………は!?」
着替えを手伝い始めて数秒で、俺は思わず目が点になった。
「で…でも、俺、ブラなんか着けたことないんで…」
「あったら変でしょ。着け方教えるからやって」
「ふ……ふわい!!」
夢でも妄想でもない、一生分のラッキーを使い果たしそうな奇跡の展開。もちろん混乱して動揺し、男として激しく興奮したり、猛烈な性欲も覚えたりしたが、俺は、必死にそれらを莉愛さんに覆い隠して頑張った。
少しでも変な態度を見せたら、莉愛さんに不審がられ、警戒されてしまうかも知れない。まして欲情してるとこなんて見せようものなら、絶対に気持ち悪がられて忌避されるのは解りきっていた。
そうなったらこれまでの努力が台無しだ。きっともう二度と莉愛さんは、俺に気を許してくれなくなる。そんな確信に近い恐怖があったから。
とにもかくにも俺は、ここは『当り前』みたいに平然とした顔をしていなくてはならなかった。演技力と、忍耐と、彼女への愛が試される!嬉しいけど苦しい!!辛い!!
それはまさに天国と地獄が手を繋いで、スキップしながらやってきた感じだった。
「あの、袖、通します。痛かったら言ってください」
「ん………ッ」
指示されるままに寝間着を脱がせると、露わになったのは下着だけの半裸姿。たゆん、と俺の目の前で揺れる豊かな乳房は、薄くて少し透ける下着(キャミソールって言うのかな?)の他は何も着けていなかった。
つか、夜はブラ外すんだな。知らなかった。なんて間抜けなこと考えつつ、こっそり視線で堪能した莉愛さんの乳房は、俺の想像した以上に美しいものだった。
「じゃ、まず、これ脱がせて」
「ふぁ、ふぁい!」
言われるまま、一旦、キャミソールを脱がせると、そこから現れたのは、正真正銘、なにも阻むもののない莉愛さん生の乳房!!夢にまで見たそれを直接目にした途端、俺は、この心臓が口から飛び出しそうだった。
「……………!!!!」
つんと隆起した張りのある釣鐘型の乳房。一夏過ごしたにも関わらず、日焼けもせず白いままの肌。先端を飾る乳首と乳輪は綺麗なピンク色で、どちらも乳房の大きさの割に小さくて可愛い。なんつーか、バッチリ俺好みのオッパイだ。うう、吸い付きてぇ!!
ていうか、このまま勢いで残りのパンティも引っ張り下ろして、アソコを御開帳させたあげくめちゃめちゃ抱きてえ。大好きな莉愛さんを犯して俺だけのモノに──!!
『イカンイカン…なに、考えてんだ!!』
妄想が突っ走り始めるのを、俺は根性で軌道修正した。告白してもいないのに無理エッチなんて、そんな卑劣な真似したら莉愛さんは俺を軽蔑するだろうし、絶対に一生許してくれない。おそらくは彼女と口を利くことも、姿を見ることも許されなくなるだろう。
何故ならたぶん俺、琢磨さんに殺されるから。いやマジもんの意味で。
現世で莉愛さんの実父として生を受けることになった琢磨さんは、今世でこそ『なにがなんでも莉愛さんを幸せにする』と恐ろしいまでの執念と情熱を燃やしていた。
それが行き過ぎて、今やモンペ父と化してるような気もしなくもないが…まあ、その気持ちは俺にだって解らないでもない。
『ティーアロットは俺が守るよ。彼の邪魔をするモノは…赦さない』
前世の莉愛さん──ナイトーリアは、心も、魂も、身体すらも、全て前世の琢磨さんに捧げていた。もちろん、変な意味ではなく、そのまま物質的な意味で。
彼の目的を、希望を実現するためなら、『何を失っても構わない』と、ひたすらに真っ直ぐナイトーリアは願い、献身し、課せられた過酷な運命を受け入れ──そして死んでいった。
だいぶ先に死んだ俺も、俺より前に死んだティーアロットも、ナイトーリアの死にざまは見ていない。だが、前世の生き残り組に話を聞くと、彼は最後の最後までティーアロットに殉じたらしい。
『皆を守ってくれ…リア』
『うん……解ってるよ、アロー。大丈夫。俺の命に代えても…』
ナイトーリア師団長の遺した命令に。
彼が目指した『平和な国』を残すために。
そこで暮らす民や、仲間たちを、侵略者の手から守るために。
最後まで戦い抜いた壮絶な人生。
けれど命を賭けた戦いの末に、望んだ未来は得られなかった。
でも、そんな彼のお陰で、国は滅んだけれど民は残り、仲間たちの半数以上も生き延びたらしい。
莉愛さんの最期を転生後に知った琢磨さんなら、自分の元に生まれてきた彼女を何より大切に育て、今度こそ幸せにしたいと願うのは当たり前というものだ。
もし俺が彼の立場だったとしても、きっと同じように思っていただろう。
いつだって莉愛さんに『笑っていて欲しい』と。
という訳だから、琢磨さんが今世の人生をかけて守ろうとしてる愛娘に、万一、彼女自身の意志を無視した行為をしようものなら、首をへし折られたって文句も言えないと俺は思ったのだ。
なにより俺自身が、心から莉愛さんの幸せを願うから──余計に。
とは、言え。
「明日の朝も頼むね」
「はっ、は、ふぁい!!」
前世から引き続き惹かれて恋焦がれる莉愛さんに、こんな風に色々頼られて甘えて貰えるのは素直に嬉しかった。まあ、だからといって、男の俺にブラジャーを着けさせるとか、さすがに頼り過ぎな気もしないでもないけど。
今の彼女は自分が女の子という自覚が薄過ぎて、異性に対する警戒心がないから心配だ。でも、どうやらそれは俺や転生組の前でだけ、みたいなので少しだけほっとしている。おかげで、ちょっとラッキースケベのおすそ分けを頂けてるし。いや、その。ゲフンゲフン。
『今日は俺……手を洗いたくねえ……』
そういう訳にもいかねーだろ、と自分ツッコミを入れつつ、すぐ隣を歩く小さな姿を上から見下ろす。今日も莉愛さんは、最高に可愛い。こんなに素敵な彼女の隣を歩ける幸福に、俺は何度だって神様に感謝したい気分だった。
『ずっとお世話してえな……』
制服の下に隠されてしまった美しい裸体を妄想しつつ、俺は、彼女の怪我が早く治りますように、と純粋な想いで願うと同時に、ついつい本音で、少しでも怪我が長引きますように、なんてことを密かに願っていたりしたのだった。
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