第43話 夜鷹図の女―其ノ伍
お辰が気負いもなく、さらりと言う。
「で、あたしが夜鷹会所の跡目を継いだって
夜鷹会所には、
中には、亭主に女郎屋へ売られ、そのまま身を持ち崩すことになった女もいる。遊廓を
寄る
話しはじめて、半刻(約一時間)が経過した頃、北斎はなぜだかこの女をずっと前から知っているような気がして、
「ときに、お姐さんは、どこの生まれなんだい?」
と、
お辰がふっと唇をほころばせながら言う。
「生まれも育ちも本所
本所割下水は北斎が生まれた場所でもある。
割下水と聞いた途端、北斎はお辰の顔をまじまじと見つめた。北斎の中で幼少期の記憶がまざまざとよがえる。なめくじ長屋の
お辰という名前、下唇の右端にある
「オメエさん、餓鬼の頃、なめくじ長屋にいたお辰ちゃんだろ!」
一瞬、お辰が二皮眼を大きくみはり、絶句した。
「オイラ、隣の
北斎が思わずお辰の肩をつかみ、おのれの幼名を告げた。
女の長い
「えっ、時太郎……もしや時ちゃん、時
「そうさ、そうだよ。オイラだよ。二十年ぶり、いや、あれからもう二十五年は経つか。お互い変わっちまって、浦島太郎も無理はねえ……」
「ひっ」
感きわまったのか、突然、
お辰の目から
「オメエさんも、いろいろあったんだな。けど、泣き虫お辰坊は、昔とちっとも変わらねえ」
その言葉に応える代わりに、お辰は北斎の首にまわした腕に、さらに力をこめて
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