第41話 夜鷹図の女―其ノ参
浅草
梅雨明けを告げるような
その日、北斎は朝方から、ひと山百文の
時刻はすでに昼八ツ(午後二時頃)。暑い。うだるような暑さである。
北斎が額に噴き出た汗を拭うべく、
「もし。ごめんなさいよ」
と、横網町の棟割長屋に
「だれでえ?」
と、北斎が
「もし……」
それは聞き覚えのない声であった。
「なんか用か、九日十日、なんだ神田の大明神」
下らぬ
途端に強烈な陽射しが目に飛び込んできた。
北斎がまぶしげに目を細めると、
「お仕事の邪魔をしちゃいましたかね。いつぞやは、うちの身内の者が手荒な
夜鷹会所のお辰であった。
白い
菖蒲の花を連想させるお辰の凛とした容姿に、一瞬、北斎はわれを忘れた。
「おやおや、狐につままれた顔をしちゃ、
お辰は北斎の表情を見て、紅の唇をほころばせた。その口元にぽつんとひとつ
「忘れるなんて、とんでもねえ。つい
「女は化け物ですから、気ィつけたほうがよござんすよ。それに、この着物だって、柳原の古着屋で買ったものなんですから」
さばさばとした気性らしく、北斎が訊かないことまで口にする。
柳原には、古着売りの床見世が長さ十余丁の土堤の端から端までズラリ軒を連ねている。夕刻、陽が落ちて、それら
不意の出来事に、北斎は内心どぎまぎしながらも、お辰を中へうながした。
「まさか、絵を描きたいと口説いたものの、本当に来てくれるとは、ありがてえ。ささ、汚ねェところだけど、
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