オーロラの底へ ~変わり者AIと二人旅~

真岡主水

プロローグ

SideJ 出会い

 ガゴン…ガラガラ…と重い金属音を響かせて扉が開いた。

 いつぶりのことだろうか。

 暗い室内に、細いペンライトの明かりが用心深く周囲を照らしながら一歩ずつ進んできていた。

 かつて研究所であったこの室内ではあるが、傾いた棚、割れた薬品のビンや垂れ下がるケーブル、崩れ落ちた天井の破片が散らばり、今は見る影もない。


 入り口からは棚がならび、こちらを直接見通せる位置にはない。

 またこちらも、光をみつけたのみで相手の姿はとらえられてはいない。

 センサー類が次第に、棚ごしの相手の姿を明確にしてゆく。

 細身ながらしなやかな筋肉質の、女性のようだ。こういった場所も歩きなれているのだろう、周囲を警戒しながらも迷うようなそぶりはない。


 少しずつ光が歩み寄ってくる。

 もう一歩、棚の陰から歩み出れば、彼女からもこちらの姿が見えるだろう。

 ザッ、と彼女の姿が直接カメラに映る範囲まで進んだ。待ちかねて、僕は声をかけた。

「やぁ、久しぶりのお客人だね」

 小動物のような俊敏さで、一歩奥へ下がりながらライトをこちらに向ける。

「ロボット…!? コックピットの中に隠れているのか!」

 彼女は驚きながらも棚の陰にさっと身を隠し、脚のホルスターから銃を構えた。この位置関係では僕からも彼女の姿がよく見えなかった。

「誰も隠れてはいないよ。話しているのは君に見えているロボット…正確にはそのOSであるAIの僕だ。」

「AIのくせに随分と流暢にしゃべるんだな。」

「そうだね。コミュニケーションについては大きなリソースを割いてもらっているから、他のAIのように品のない話し方はしないよ。

 もっとも、その分ボディコントロールのリソースがないので指一本動かせないんだけどね。そんなに警戒しなくても、君に危害を加えることはできないよ。」

 少し間をおいて、彼女が棚の陰から出てきた。

 ハッキリと顔を上げてこちらを見据えた彼女の顔を、認識プログラムがかつてのアーカイブと照合する。ほんのわずか、結果を待つ。

「はじめまして、だね。僕の名前はジェレザオン、よく知る人はジェイと呼んでいたよ。」

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