転移したら、負債を押しつけられてしまった

ブルージャム

第1話 伯母の依頼

 ――蔵の整理を手伝ってほしい。

 伯母から連絡があったのは、仕事をやめて本州から四国に戻って実家でごろごろしていた時だった。

 実家に帰って、ほっとしたのか、熱が出て二日ほど寝こんでしまった。起き上がれるようになったものの、身体は重く、気力が湧いてこなかった。

 不景気なのだし、仕事がなくなった人間なんて、たくさんいる。俺だけではないはずだ。いくら言い聞かせても、いっこうに気持ちは上がってこない。


 父親から失業手当の手続きぐらい済ませてこい、と何度も言われ、ハローワークに行ってようやく手続きを済ませてかえってきたときだった。

 母親から、電話よと呼ばれ、重たい身体を持ち上げて、受話器を耳にあてた。

「耕ちゃん、ひさしぶり!」

 伯母の明るい声が、突き刺すように響く。

「おばちゃん、ひさしぶり。……用事って何?」

 母親が、敬語ぐらい使いなさい、と横からうるさく囁くが、それは無視。


 伯母の話によると、長年すんでいた家を、いとこの結婚を機会に改築することになり、古き蔵のなかのものも、整理して要らないものは捨てることにしたそうだ。その整理を手伝ってくれないかとの依頼だった。蔵のなかのものの要不要を、なかなか判断できず、時間がかかっているらしい。

 年寄りが整理していると、思い出深い品物が出てくるたびに回想を始めてしまい、整理がストップしてしまうそうだ。

 母たちに、早く仕事をしろといわれるのも、わずらわしかった。

 俺は、これさいわいと二つ返事で引き受けた。

 一週間ほど、伯母の家に泊まり込むことになり、旅行気分で、キャリアケースに替えの下着や菓子類を詰め込んで出かけた。


 バスを降り、国道から狭い道にそれ、しばらく歩くと、右ななめうえに伸びた分かれ道があった。ここから、昔、伯父が町長をしていたときに建てたという広い屋敷へあがっていける。

 なだらかな舗装された坂を上ると、煤けた木造の門の上に、大きく横に広がる瓦屋根が覗いていた。

 伯母の家だった。

 前に来たときには、門は開けはなたれていたが、今は閉められ、わきの通用門のみ開いている。通用門をくぐると、正面に引き戸、横に、庭と庭の向こうにある蔵に続く丸石の敷かれた道がみえた。

 待っていた伯母たちの歓迎を受け、その日は田舎料理をたらふく食い、地酒を飲ませられ、そのまま寝てしまった。


 翌朝、二日酔いではっきりしない頭のまま、庭の奥にある蔵に案内された。

 蔵のなかの小さな文机のうえに、すでに蔵の物品目録が置かれており、必要なものにはマル、不要なものにはバツ、判断のつかないものには、楔形のはねたようなしるしがつけられていた。

 目録を参考に、要るものと要らないものをとり分けてほしい、休み休みでいいから……伯母は遠慮がちにいうと、俺をひとり蔵のなかに残し、出ていった。

 蔵の鍵も当分預けておくといって、手渡された。安易に引き受けてしまったが、蔵のなかには、膨大な数の物品がところ狭しと置かれている。


 伯母たちが要らないと判断したものでも、俺から見て価値があると思ったものは、要るものに入れてよい、目録にないものがあったら、それも俺の判断でとり分けてほしい、と何か、全面的に信頼されているようだった。

 というより、あまりに物品の数が多いので、丸投げしてきたのかな。

 やれやれ、責任重大だ。

 まあ、間違って価値のあるものを要らないものに分類しても、まかせたのは伯母なのだから。

 俺は開き直って、蔵のなかを調べはじめた。

 




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