『ワイルド・パーク』

やましん(テンパー)

『ワイルド・パーク』 上 (全3回)

 

 『これは、フィクションであります。』



         ⛲


ナビゲーター


 『みなさま。今日は、ようこそ、トウキョウ・ワイルド・パークにおこしくださいました。ここは、世界で唯一、野生の人間を放し飼いにしています。』



ビジター


 『ざわざわざわ。』




ナビゲーター(ヴォカリーズ星人)


 『ツアーは、この、頑丈なシェルター・バスに乗り込んだまま、行いますから、危険はまず、ありえません。ただし、人間は、衰えたとはいえ、かなり知能が高い生き物ですから、様々な攻撃や、いたずらを、仕掛けてきます。


 そこを、乗りきるのが、本ツアー、最大の醍醐味です。


 さあ、みなさん、楽しみましょう。』



 

 《ビジターたち、バスに乗り込む。》




ドライバー《ハミング星人》



 『よっしゃ、行くか。』



ナビゲーター


 『了解。』



 《運転席は、客席から離れた一段高い場所にある。》



ドライバー


 『今日は、連中、なにを仕込んでるかなあ?』



ナビゲーター


 『まあ、大したことはできないさ。材料がない。昔の人類が建てたビルの残骸か、連中の骨しかない。』



ドライバー


 『まあな。でも、多少、歯応えがないと、人気が落ちるからな。』



 《バスは宵闇が迫るなかを、発車した。》



ナビゲーター


 『さあ、みなさん。このあたりは、500年位いまえまでは、地球でも最大の都市でした。人類は、やたら、上に上にと建物を積み上げましたが、彼らの科学技術は、極めて幼稚でした。人類は宇宙の力の十分な活用が、できなかったのです。なので、広い空間の中の、ごく一部しか使えませんでした。たとえば、重力です。』



ビジター



 『お、お〰️〰️。みじめな〰️〰️。』




ナビゲーター


 『はい。かれらは、地面を這うように動くことしかできなかったわけです。ま、飛行機械や、初歩的な宇宙ロケットは、持ってましたが。しかし!』



ビジター


 『うんにゃ?』



ナビゲーター


 『しかし、どんなに、幼稚でも、それは、ひとつの文化であり、残念ながら、我々との生存競争に敗れ、大量絶滅しましたが、保存する意義は、やはり、あるのです。この、ワイルドパークは、それを基本理念とし、できる限り、彼らを自由に生かしています。』



ビジター


 『危険性は、ほんと、ないのですか? 脱走とかしませんか?』



ナビゲーター


 『この、広大なパークの周囲は、重力塀に囲まれていて、人類は、乗り越えられません。』



ビジター


 『なるほど。食料は?』



ナビゲーター


 『基本的に、自給自足です。畑や、田をつくり、作物を育てています。どうしても足りない場合は、援助もしますが、あまり、有り難がらないのです。』




ビジター


 『危険なもの、作りませんか? 昔は、核爆弾とか作っていたとか?』




ナビゲーター


 『いま、かれらには、工作機械がなく、人力以外の動力を持ちません。まあ、確かに多少、火は使いますがね。小さな工作はやりますから、小型爆弾程度は、やろうと思えば、作りますが、爆発しても、怪我するのは自分だけです。我々の環視装置が、危険物を察知したら、危険範囲を限定しますから。いたずらは、火傷の元、です。』



ビジター


 『ひゃ、ひゃ、ひゃ、』




ナビゲーター


 『あそこには、一番高いタワーがありました。地球のメートル法では、634メートルあったようです。今は、研究のため、基礎部分と、最下層だけ、残してあります。』




    ・・・・・・・・・・



人類リーダー


 『いいか。ちゃんと、作ったか。』



やましん


 『あい。たぶん。』



リーダー


 『たぶん? 頼りないなあ。』



イチロウ


 『ダイジョブさ。しっかり、作ったから。』




リーダー


 『いち子、ほんとか?』




いち子


 『リーダーなら、ちっとは、部下を信頼しろよな。』




リーダー


 『わかった、わかった。よし、やるぞ。』




サブ・リーダー


 『来たぞお。』




リーダー


 『よっしゃ、かくれろ。』



  ・・・・・・・・・・



ドライバー


 『快適だ。でも、そろそろ、出てこないと、客が喜ばないな。』



ナビゲーター


 『あ、みろ。出た出た。あの、三人家族みたいだ。よし!……………』



 《日が落ちて、あたりは、真っ赤に染まった。》



 『えー、みなさま。右側、前方です。人類です。3人家族と思われます。夕食の準備でしょう。煙が上がりました。彼らの多くは、昔のビルのあった窪地や、廃墟などに、住み着いていますが、奪い合いがかなり激しく、条件の良い場所は、争奪戦になりやすい。あ、わかりますか? あそこ、なにかの残骸で、屋根を作っていますね。昨日は、あんなの、無かったんですよ。どこかで、追い出されたのでしょう。ああした、知恵はあるのです。』




ビジター


 『おわ。いた、いた。すごい。生きてる。』



他のビジター


 『個体ごとに管理はしないのか?』




ナビゲーター


 『いいとこを、突きますね。確かに、パーク・コンピューターは、個体の登録はしていますが、各個体が、いま何処にいるのかは、なかなか、把握が難しいのです。発信器を取り付けるのはできますが、それでは、人類の自主性を阻害します。基本的には、自由に行動させる。制限は最小限にし、そうであることを、理解させるのです。それが、パークの方針です。』




ビジター


 『会話はできるのか?』




ナビゲーター


 『かれらは、言葉は、いまだ、維持しています。我々との会話も、可能です。しかし、必要なとき以外は、双方とも干渉はしない約束です。必要なとき、とは、例えば、手に負えない病気とかです。ただし、好意的に対応する個体もあります、あ、ほら、手を振ってるでしょう。しかし、あくまで、反抗的な個体もあります。それらは、やや、危険で、このバスにも、無駄と分かっているのに、いつも、なにか、仕掛けてきます。まったく、効果はありませんが。』




ビジター


 『ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ、』




ドライバー


 『あいつらに、なに、やったんだ。』




ナビゲーター


 『チョコレートさ。』




ドライバー


 『おいらも、欲しいな。』




ナビゲーター


 『特別製だからな。買うしかないな。』




ドライバー


 『まったく。労働条件、悪いぜ。チョコレートひとつ、買うに買えないぜ。高級食材だ。連中のほうが、良いもの食べてる。』



 《ナビゲーター、ドライバーを、横目で睨む。ここでは、禁句である。》




    ・・・・・・・・・・



           つづく………












 

 

  


 


 

 

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