魔導師エルマの奇譚

うすい

エルマは強くなりたい


「俺は...このマギオス学園卒業したらイデアルに入って、めっちゃ頑張って魔王になる!んでもって、美女に囲まれて…んフフ!」

直後、頭を本でチョップされる。2200Pの重みはとんでもない。

「ッッテェ!頭凹んだらどすんだよ!?あ?!」

「お前は凹むぐらいでいいんだよ煩悩エルマ。」

そう言って俺に毒づく男、俺の幼馴染、ヒスイ。

文武両道で容姿端麗、まさにハイスペック。


「ッだとテメェ…!?まあいい!代わりによぉ!明日の模擬戦は絶対俺が勝つからな!そんときこの借りを返してやるよ。」

「まず勝てる見込みが出来てから言え。てかグズグズしてんなよ。授業始まるぜ?次鬼キチだぞ。」

「ま、まじかよ!?急ぐぞ!俺についてこいよ!ド腐れ!」






授業が終わり、帰路に着く俺はずっと考えていた。

明日の模擬戦どうすっかなぁ…

模擬戦とは、マギオス学園の授業の一環で定期的に行われる魔法の強さを競う大会のようなもの。落ちこぼれの俺はもちろん毎度のこと最下位争い。

比べてヒスイは常にトップ。次期魔王に相応しい男。正直認めざるを得ねえ。

あいつの魔法は氷...俺の炎の魔法は相性良さそうに見えるけど...あいつの氷を溶かすことさえ出来ない。

力量の差が如実に出てるから余計凹むんだよな。

どうにかして強い魔術が欲しい。今すぐに...。


「ほれ、そこの若者。オレンジの髪色のお前じゃよ。」

どこからか声が聞こえる。オレンジの髪...そんな目立つ頭してんのは多分俺ぐらいしか居ないけど、ここは町の中、見渡す場所全てに人がいて、誰が俺を呼んでいるのか分からない。


「カンの鈍いガキじゃのう!ここじゃよ!路地裏を見れ!」

路地裏を見ると、謎の汚れたローブのおばさんが俺を見て手招いていた。

「おいばばぁ!今俺を罵ったろ!俺は老人にも優しいからよ?目瞑っててくれ。」

拳を強くにぎりしめる。

「ふん!やはり頭の悪そうなガキじゃ!そんな事どうでもいいんじゃよ!今お主、強くなりたいと思ったじゃろ?」

...何だこのおばさん...。俺の気持ちを完全に読み取ってやがる。

「...ああ!?なんで分かんだよ。気持ちわりい。」

「顔に出てるんじゃよ、顔に。ほれ、奥へ来なさい。」

おばさんの背中をじっとりと見つめながら路地裏の奥へ進んだ。

そこには小さなゴミまみれの空間があり、真ん中に小汚い机があった。そしてその上に色とりどりの”石”が並べてあった。

「これが何かわかるかい?」

「わかんねぇ...なんだこれ。綺麗だけど。」

「これはな、マナストーンというんじゃ。」

「マナストーン...?なんだ...それ。」

「名前でだいたい分からんかね。ガキ。魔術を使うのに必要なのはなんじゃ?」

「ガ...ガキガキうるせえな!マナだよ!身体の中のマナを集中させて、呪文を言うと魔術が発動する、この時マナの量が多けりゃ多いほど強い魔術が使える、だろ?」

「ああそうじゃ!このマナストーンは、そのマナを凝縮させたものじゃ!そしてこれを口に含むと…?そう、外部からマナを補給することが出来るんじゃ。それ即ち、強力な魔術を使う事が出来る...って事じゃよ。」

強力な魔術...!これさえあれば...ヒスイに勝てるかもしんねぇ!

「ばばぁ!それくれ!てかくれるからここに呼んだんだろ?なぁ!」

「勿論とも...ほれ、これを持っていきなさい...」

そう言うとおばさんは深紅のマナストーンを俺に手渡した。

「ありがとな!ばばぁ!じゃねえ、おばさん!」

こんなうまい話あるのか?と一瞬疑ったが、どうしても勝ちたかった俺に、そんな心の抑制は効かなかった。

「良い結果を届けに来るからな!じゃあな!」

おばさんを背にし、マナストーンを握りしめ走り出す。明日が楽しみだ。

「ガキが...バカじゃのう。...ククク......早く食べてしまいたいわい...」



      〜模擬戦当日〜




「よーしそれじゃあ3組模擬戦始めるぞー。ほら、早く並んで。魔術を抑制、軽減する魔導ローブちゃんと着ろよ。準備が出来た奴らから初めてよし。頑張れよ。」


「おいヒスイ。リベンジマッチだ。」

「またお前の負け姿見なきゃ行けねえのか...。」

「俺ァもう負けねえぜ?」

模擬戦が始まる5分前、トイレでマナストーンを食ってきた。ワクワクするぜ…!

「初め!」

初めの合図とと共に、ヒスイは左手を俺の方へ向け呪文を唱える。

「貫けアイスショット!」

ヒスイの手の平の魔法陣から氷柱のようなものが生え、俺目掛けてすごい速さで飛んでくる。

「避けるのも間に合わねえ...なら、お手並み拝見だぜマナストーン...。」

左手を氷柱の方へ向け、唱える。

「燃やせェ!フレイムアウト!」

手の平の魔法陣から勢いよく炎が現れ、眼前の氷柱を包み込む。

「お前の炎じゃ溶かせね...って、まじかよ。」

炎が消え、蒸気が漂っている。氷柱はどこにも存在していない。

「溶かしたぜぇ...?ヒスイ。楽しくなってきたなぁ!」

左手をもう一度かざし、唱える。

「フレイム...アウトォ!防ぎようがないなぁ!ヒスイ!」

大きく燃え広がる赤い炎が、ヒスイ目掛けて飛んで行く。

「舐めてもらったら困るよ...!エルマ!アイスランス!」

炎を避け、空中に飛び上がったヒスイは、そう唱えると、片手に氷の槍のようなものを作り出し、俺に突っ込んで来た。

「...なんだよそれ...でも負けねえぜ!?フレイムアウト!」

炎に呑まれながらも突き進むヒスイ。しかし

「俺の負けだよ...エルマ。」

片手の氷の槍は、完全に溶けてしまっていた。

「やめ!勝者エルマ!礼!」

勝った...勝ったんだ。俺、ヒスイに。でもなんだこのモヤモヤ。俺の実力じゃねえ。


「エルマ...強くなったな。まさかお前に負けるとはなあ…悔しいよ。すげえ炎熱くなってたし、魔導ローブつけてなかったら間違いなく焦げ肉。」


「は...はは。まあ、まあな!俺は天才だからな!魔王になるんだからな!」


「...?なんで勝ったのに素直に喜ばねんだ?お前らしくないじゃん。」

...苦しい。ひたむきに努力してるヒスイを俺は不正で叩きのめした。苦しくてたまらない。

「おい!エルマお前ヒスイに勝ったんだって!?何があった!?ヒスイ!?手抜いてねえだろな!?」

「エルマくんすごいね!どうしてそんなに強くなったの?」

「エルマー強くなったな。先生嬉しいよ。うちの学校でもトップのヒスイに勝つなんて。」

「エルマやるな!まあ俺様よりは弱いだろうがよ!」


まさかの結果にクラスメイトが群がりだし、俺を褒めたたえた。

ヒスイの顔は、どこか淀んでいた。

「はいじゃあ今日はこの模擬戦で学校終わりだから、また明日、続きやるから家でじっくり休め。」

石のこと…伝えなくちゃ…。俺はこのままじゃ、あいつの顔みて笑えねえ。

「あ、ヒス...」

ヒスイは俺に目もくれず走って行った。


俺、なんてことしちゃったんだ



いつものように帰路に着く。

ざわめく町の中、またあの声がする。暗い路地裏の奥、おばさんがそこにはいた。

「...!どうじゃった。強かっただろう。」

「ああ。強かった。でもさ、俺気付いたよ。こんなんで勝っても嬉しくねえ。すまねえ。でもありがとう。じゃ...金とか、払った方がいいよな…?そんなねえけどよ…」

「そんなものは要らんさ...」

「なんだよ...じゃあ、俺帰ってもいいか?」

「まあまあ、土産話だけでも聞いて来なさい。お前はマナストーンがどうやって出来ているか知ってるかね...?」

おばさんが不敵な笑みを浮かべる。

「マナストーンはな?人間で出来てるんじゃよ。」

冷たい汗が背中を伝う。心臓の鼓動が早くなる。

「ふふふ...はははは!ははははははははは。お主が食べたのは人間...。どんな気分じゃぁ!?」

最悪だ俺...知らなかったとは言え、そんな事...俺は...俺は...勝つためだけに、人を食べた...

すると突然おばさんの姿が変わり果て、背中からひょろ長い腕が6本突出し、そのうちの1本が俺を掴み上へ持ち上げた。

「...ッッ離せ...!ばばぁ......」

「ガキにマナストーンを食わせた時に出るその”絶望の瘴気”!!!早くわしに喰わせろォ!」

くそ...俺死ぬんだ...。でも、仕方ないのかもしれない。俺は、クソ野郎だから...

「それじゃあ...わしの口の中で眠るといいさ。頂きまああ」

「...アイスショット!」

突然氷柱が下から現れ、おばさんの顎を貫いた。

「ぐぁぇあ!あ!あれびゃあ!」

おばさんの手の力が緩み、落下する。

「いっ...て。...この氷柱...まさかヒスイか?」

「大丈夫か...!エルマ!」

路地からヒスイが走り、こちらへ向かってきた。

ちくしょう...こんな時でも助けに来てくれるなんて...俺...ほんとにクソ野郎だ...。

「ヒスイ...。すまねえ。俺...」

「話は後だ!しょげてる場合じゃねえ!この怪物、ぶっ殺すぞ!俺らで!」


「...ああ!分かった!フレイムアウト!」

炎が狭い路地をのたうち回るようにしながら、おばさんを包み込む。

「ぁああ!あづぃ!あづいイい!でもォ効かねェ”!」

炎の中から手が数本伸びてくる。

「アイスランス!」

ヒスイが飛ばした氷の槍が手をまとめて突き刺し、壁に無力にぶら下がる。

「ぁあ!なで、なんでこんなふうに...するンラョォオォオ!!」

顎の傷が治り、更に手が生えてきて、ヒスイを掴み投げ飛ばす。

「ヒスイ!」

「...ぐっそ...。」

くそ!くそ!俺が守らなきゃ!ヒスイを!まだマナストーンの力は残っている。

後味は悪いが、今は頼るしかない。

「フレイムアウ...」

急に力が抜ける。まさか...

「おぉおぉい!石の力が抜けたんじゃないかのぉ!?早う死ねぇ!若者ォ!」

無数の手が飛んでくる。

「畜生…でも…でも俺はもう諦めねぇ...。逃げねぇ。変な力借りて、変な事に巻き込まれて、俺はもう背を向けねぇ!」

必死の力を振り絞る。

「燃やせ!!!フレイムアウト!」

炎が真っ赤に染まる。その炎は、おばさんを腕もろとも呑み込んだ。

「あづ!あづぃぃえいい!何故!石の力はもう無いはずなのにぃ!クソがきィィい!!」

「...死ね。タレ乳。」

数十秒経ち、おばさんの断末魔は聞こえなくなった。

黒煙が舞い上がり、暗い路地の奥次第に人が集まりだした。

「面倒事になる前に逃げなきゃ...取り調べ...だ...る......」

既に力は出し切っており、ヒスイも俺も、地面に倒れ込んだ。








......ああ、俺死んだのか。なんだココ天国か...?

真っ白な天井、隣には両親とクラスメイトが数人。

「エルマ!起きた!エルマ起きた!」

「あんたまた…!無茶ばっかして!!」

ああ、病院か。ここ、…てか!!

「ヒスイ...!ヒスイ大丈夫か!?」

隣には包帯だらけのヒスイがいた。俺と同じようにベッドに横たわっていた。

「......ごめん。ヒスイ。俺...不正してお前に勝ったんだ。ごめん本当。挙句こんな事に巻き込ませて...。」

「...分かってたよ。お前が何かしら不正してんの。だって、お前が俺に勝てるわけ無いし。」

「...てめ...まあ、そうだよ。ああ。だからやっちまった。情けねえ。模擬戦、お前の勝ちだよ。」

ヒスイに顔向け出来ず、思わず俯いた。


「でもよ、今あいつの腹の中に居ねえってことは、勝ったんだろ。エルマ。ありがとな。次は、ちゃんと戦おうぜ。」

「ヒスイ......。だな。ああ。次はもっと強くなって、お前にちゃんと勝つ!そして、魔王になる!」

「エルマ...これからもよろしく。」

「ああ。ヒスイ、負けないぜ!」

手を強く握り合い、2人は誓った。



俺は、魔王になる!






「ふふ、頑張ってねぇ♡私の可愛い子供たち♡」

怪しげな笑みが空に浮かぶ。







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