ごかいかご、しんかいかご

枝林 志忠(えだばやし しただ)

第1話

 獣……、いやばけものを消すために、ばけものに襲われていたために、私は竹籤でできた不格好な装甲服を身に着けた状態で、山中を駆け回っていた。

 

 顔だけ被れば、虚無僧姿だが、体全体ならボディアーマーだ。一応、装甲服には、通気性はあるが、午後五時の真夏の山中は、どうにも蒸し暑い。

 

 この山は、一昔前までは、登山者が入ることが多かった。今では、観光客もめっきり減り、手入れもしていないため、もともとあった登山道は、草木が生い茂ってもはや獣道となっている。やぶ蚊やブヨが飛び交うやら、垂れ下がった木の枝や草を用いて巣を作っている蜘蛛がいるやらで、虫の苦手な私にとってそれだけでもしんどい。

 

 時が過ぎれば、雪が降り生物たちは深い眠りにつく、さらに時が過ぎれば、雪解けとともに春が来て多くの生命が地上に現れる。この山自体が一つの生き物であるかのようだ。そんな神聖な山に住む異形なものを相手に、一人の人間が、化け物を見ることが出来る服を装着し、立ち向かおうというのだ。だが、あの異形なものたちは、そんな私のことなど微塵も考えず、お構いなしに活動しているのだ。


 ザッ、パキッ

 ザッ、パキッ


 一旦、走るのをやめると、後ろから何者かが、草や枝を踏む音をさせながら近づいてきている。ここで振り向いて装甲服の腕部分にある擲弾発射孔を用いて、相手を体ごと思いっきりぶっ飛ばすのが最適なのだが、恐怖心の方が勝っているため、弱腰の私にはそれがなかなか出来ない。もう少し様子を見て、態勢を整えるのべきだという逃げの考えを出し、私はまた駆け出した。

 

 現実逃避と言うのであろうか。私は、隠れられる場所を探しながら別のことに思いを馳せていた。それは、自分が今身に着けているこの竹籤で作られた服に初めて対面した時のこととこの服のせいで異形のものに消された人たちのことだ。


 少し私の話を聞いていただきたい。

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