第6話 初めての戦闘

ドラゴンだって?


 この世界にまるで詳しくない僕でも分かる。

 ドラゴンは絶対にヤバい!

 こんなのゲームならバッドエンド間違いなしの最悪な状況だ。


「リルリアの運悪すぎない……?」

「ちょっとアタシのせいにしないでよ! 生まれた日以来よ!? ドラゴンなんて来たのは!」


 まぁリルリアのせいなのか、それとも偶然なのか。そんなのはどうでもいい。

 問題はドラゴンの襲来を受けて、僕以外が生き残れるかだ。


「あの冒険者はドラゴンに勝てると思う?」

「ぜっっっったいに無理! ドラゴンに勝てるのは冒険者でもほんの一握りだけ。一桁ナンバーくらいよ!」


 一桁ナンバー?

 強さで順位付けでもしているのだろうか。


「ドラゴンが来たら、普通人間にはどうにも出来ない。大人しく去ってくれるのを祈るしかないの」


 なるほど。

 どうやら日本における地震やら台風やらと同じような扱いをドラゴンは受けているらしい。

 いや生物である以上、危険性は数段上か。


 グギャァァァアアア


 空を見上げると、空を覆い尽くすような巨体が飛んでいるのが目に映った。

 あれがドラゴン……。

 うん、絶対勝てないねこれ。


 恐らく僕以外は全滅するだろう。

 少し悲しい気持ちにもなるが、これが運命だ。受け入れるしかない。

 アーメン。


「ちょっと、誰かこの中に戦える人いない? あーしがドラゴンと戦うから、代わりに魔物の群れお願いしたいんだけど」


 そんな完全にあきらめムードの僕とは違い、外で魔物と戦っていたギャル冒険者はまだ生きる道を模索しているようだ。


「この子戦えます!」


 僕はギャル冒険者に対し、即座にリルリアを推薦する。

 魔法が使えるのだ。きっと魔物くらいどうにかしてくれるだろう。


「はぁ!? ちょっとアオ! なんでアンタが戦わないのよ!」

「いや、僕一般庶民だし」


 この世界にもしドラ〇ンボールに登場するスカウターが存在していたら、きっと僕の戦闘力は3くらいだ。

 一般人以下である。


「じゃあ魔物は任せたかんね?」


 そう言ってギャル冒険者は一人空へ駆けていく。

 す、すげー! あのギャル、空を飛んでるぞ!!

 あれも魔法の力だろうか?

 空を飛ぶことと言い、一人でドラゴンに向かって行くことと言い、見た目の割に有能すぎる。


「さぁリルリアも行っておいで! 僕はここで君の無事を祈っているから!」

「アンタも来なさい、アンタも!」


 僕は危険な外の世界には行きたくないと、ニート魂を発揮して叫ぶも、リルリアの耳には届かない。

 僕を引き摺るように馬車から外へと連れ出し、魔物の群れのど真ん中に投げ捨てた。

 うわぁ、魔物って案外グロテスクだなぁ。


「ほら、早く戦いなさい!」


 リルリアも酷い真似をするものだ。

 もし僕がチート能力を持っていなかったら、完全に殺人だよこれ?


 突然目の前に現れた僕に飛びついて来る魔物達。

 拳だったり牙だったりこん棒だったり。

 ありとあらゆるものが僕めがけて飛んでくる。が、僕は逃げない。

 ……というか逃げられない。


 突然のこと過ぎて身体が反応しないし、たとえ反応したとしてもどこにどう逃げたものかまるで見当が付かないのだ。


「ちょっと、アオ!? なにしてるの!?」


 リルリアも、まさか僕が攻撃も回避もしないとは思わなかったのだろう。

 焦ったような表情と声色で僕を心配する。


 カンッ


 しかし僕はチート持ち。防御能力においては他の追随を許さない。

 あれだけの攻撃をまともに受けたというのに、僕の方にはまるでダメージが無かった。

 ふぅ、よかった。


 でもあれだけの攻撃を跳ね返したのだから、牙が折れたり腕を骨折したりしても良いと思うのだけど。

 魔物達の様子を見るに、ダメージは一切与えられていないようだ。


 痛みをこらえているでも無ければ、僕の絶対防御に恐怖を抱いているわけでも無い。

 何故攻撃が通らないのかと不思議そうにしているだけ。

 相変わらず僕のチートに攻撃性能は無いらしい。


「さ、流石勇者。よくあれだけの攻撃を無事に受け流したわね」


 別に受け流したわけでは無い。全てモロに受けて、その上でノーダメージなのだ。

 そして僕は勇者ではない。


「もうさ、僕ごとでいいから、魔法でやっつけてくれない?」

「え、でもアオにダメージが……」

「大丈夫だ。僕を信じろ」


 僕……というか僕のチートを信じるんだ。

 きっとどんな魔法でも無効化してくれるに違いない。


「分かったわ。後で恨み言なんて言わないでよ?」

 そう言ってリルリアはすぅーっと大きく息を吸い、集中。

 そして右手を僕の方に向け叫ぶ。


「バンッ!!」


 その言葉と共に、魔物達は一匹残らず体の内側から爆裂四散していく。

 うげ、内臓とかが飛び出てて気持ち悪い。

 一瞬にしてとんでもない惨劇が起きた現場みたいになってしまった。


「ふぅ、上手くいって良かったわ」

「上手く行かない可能性もあったの?」

「……半分くらいね?」


 結構な確率じゃないか。

 一体失敗していたらどうなっていたのか。


「ていうか詠唱、なんかカッコ悪くない?」


 バンッってなんだよ、バンッって。

 もっと長々としたカッコいい詠唱でもするのかと期待してたのに。


「うっさいわね。アタシは感覚派なの! あれが一番術をイメージがしやすい詠唱なんだからほっといてよ!」


 リルリアの言葉から推測するに、この世界の魔法は特定の呪文を詠唱をすれば発動するというものではないようだ。

 それよりも、術のイメージ。

 それを最優先に個々で異なる詠唱を行うらしい。


「いやぁ、それにしても本当に強かったんだねリルリアって」

「ふん、それほどでもあるわ! アオもアタシの魔法を無効化するだなんてやるじゃない!」


 僕達は軽口をたたき合いながら、グータッチを交わす。

 魔法の無効化はチート能力のおかげであって、僕が凄い訳では無いのだが……。


 二人でそうやって仕事しました感を醸し出すも、依然状況は悪いまま。

 ドラゴン討伐に一人向かったギャル冒険者はまだ戦い続けていた。


 ギギャォオオオオオオ


「あの冒険者凄い。たった一人でドラゴンを相手取っている」


 徒手空拳と魔法を見事に駆使し、何百倍もの大きさのドラゴンと戦うギャル冒険者の姿は、ここが異世界なのだと僕に再認識させてくる。


 確かに見る限りでは、ギャル冒険者はドラゴンと互角。いや、僅かにだが優勢に立ち回っていた。

 ドラゴンは既に右目を潰されているのに対し、ギャル冒険者は未だ無傷。

 これはまさかまさかの大金星もあるのでは?


「ちょっとそこの二人! あーしのお願い聞いてくれない?」


 とてもあの間には入れないと、ぼけぇーっと戦いを観戦していたらギャル冒険者が僕達に話し掛けて来た。


「なによ?」

「大技を出したいんだけど、このドラゴンが隙をくれないのぉ。だから二人でちょこっとだけ相手してくんない?」

「はぁ!? 無理無理無理。アタシの実力じゃ一秒も持たないわ!」


 僕も無理だな。

 ドラゴンの力でも僕のチートは破れないと思うが、あんな危険生物の前になんて立ちたくない。

 僕の心臓はノミのように小さいのだ。


「そっちの子は? あーしの予想では君かなり強いでしょ? 強者特有の余裕ってのを感じるし。一分だけでいいの。ね、おねがーい」


 リルリアに断られたギャル冒険者は、今度は僕にターゲットを向けた。


「僕も一秒も持ちそうにないよ」


 てか強者特有の余裕ってなんだよ。

 圧倒的弱者で被捕食者側の僕からそんな謎物質が漂っているはずが無いだろ! 


「んじゃおねがーい」


 しかし僕の言葉が聞こえなかったのか、それとも敢えて無視したのか。

 ギャル冒険者は龍から一瞬で距離を取り、、一人ぶつぶつと詠唱を始めてしまった。


「ちょっとこれどうすんのよ!?」


 リルリアが焦ったように僕を見る。

 いや、僕に言われても……。


 ドラゴンは急に相手がいなくなって困ったようにキョロキョロと辺りを見回している。

 が、すぐに僕達の姿を見て、標的を捕捉。

 一直線に僕達に向かって突進してくる。


「ヤバいヤバいヤバい! ちょっとアオ! アンタ、勇者なんだからなんとかしなさいよ!」


 巨体に似合わぬ猛スピードでせまって来るドラゴンを見てあわあわと取り乱すリルリア。


 だから僕は勇者じゃないって。

 というかこんなの勇者でもどうにも出来なくない?

 …………チートがなければ。


 僕は仕方なしにリルリアの目の前に立ち、そして左手を前に出し構える。

 流石にここでリルリアが死んだら寝覚めが悪くなるからね。


 ドォォォオオオオォォオオオン!!!


 そして次の瞬間、僕の左手に吸い込まれるようにドラゴンが体当たりをかました。



「ド、ドラゴンの突進を片手一本で跳ね返し……た?」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る