第4話 国からの脱出
「はぁはぁはぁ。よ、ようやく城から脱出できたね」
僕と女の子は警備の隙をつき、城の隠し通路を使い、時には囮を活用し、ようやく城から脱出することに成功した。
「アンタこの程度で息が切れるなんて、それで勇者としてやっていけるの?」
「何度も言うけど、僕は勇者じゃないし、勇者としてやっていく気も無い」
それにしても、この女の子。僕よりも長い期間牢屋に入っていただろうによく体力が持つな。
「それで、これからどうする? アタシはまず国外に行くのをおすすめするけど」
これから……かぁ。
どうやら女の子は僕の意思を尊重してくれるようだ。
懐から地図を出してそれを地面で広げてくれる。
「レクリアの国内にいると、まず間違いなく捕まる。だからここから南下してロージに行くべきだと思うの。あそこならレクリアとも仲が良くないし」
レクリアとかロージというのは恐らく国名だと思うのだが、この世界の地理も国際情勢もまるで理解していない僕には女の子の説明はチンプンカンプンだ。
しかし、そう簡単に別の国へ移動なんて出来るものなのか?
家の造りだとか、来ている服のクオリティから見て、あまり文明が発展した世界ではないというのは僕にも分かる。
そんな世界で、車や電車なんて便利な乗り物は存在しないだろうし、一体どうやって長距離を移動するつもりなのか。
僕は歩けても五キロまでだからね?
一旦冷静に考えてみよう。
一体どう動くのがニートになるのに一番ベストなのか。
両親や家族のいないこの世界で、ニートになろうとしたらどうしてもお金が必要になって来る。
住む家も、ご飯も、そして娯楽も。
お金がなければ何一つ手に入れることは出来ないし、逆に言えばお金さえあれば大抵のものは手に入れられる。
働きたくない僕がお金を手に入れる手段は限られてくるが、理想を言えば不労所得が欲しい。
働かずにぐうたらしていても、自然とお金が入って来る。そんな環境を僕は構築したい。
そのためにはまず何をするか。
女の子の言う通り、国を移動して捕まらない環境を手に入れるのは絶対条件だ。
でもその後はどうする?
ニートになるための資金集めとして商売を泣く泣く始めるとしても元手のお金がない。
というかお金が無いから、ホテルにも泊まれないし食べ物も買えない。
……おや? もしや牢獄にいた方が快適な生活を送れるのでは?
いやいや、そんなことは無いだろう。
僕にはチート能力がある。
今の僕ならご飯を食べなくても、眠らなくても平気だ。
気分的にお風呂にはたまに入りたいが、贅沢は言ってられない。
うん、チートがあればこんな状況でも何とか生きていけそうだな。
僕は難しい事を考えるのをやめ、きっと何とかなると高を括る。
「よし、それじゃあそのロージに向かおうか」
「分かったわ。だったら乗合馬車の乗り場へ向かいましょう。長旅になるから、食料も買い込んでおかなきゃね」
~~~~~~
「うぅーー。なんでお金持ってないのよ勇者ぁ~」
僕の隣りを歩く女の子はとても不満気な様子でトボトボと歩く。
「いや昨日召喚されたばかりだからね。そりゃお金なんて持ってないよ」
ここからロージへは馬車で一週間かかるというので、その期間に食べる食料を僕達は購入しようとした。
そうしたら、衝撃の事実が発覚。
なんと僕だけでなく、女の子もお金を持っていないというじゃないか。
僕達はお互いにお金を持っていない貧乏さを嘆き罵倒した。
そして僕はナイスアイディアを閃いたのだ。
女の子が首に提げているブローチ。これを売ればお金になるのでは?と。
当初は母親から貰った大事なブローチだと強く抵抗した女の子だったが、この国を出るにはもうそれしかない。僕は女の子を引き摺るように質屋に連れて行き、無理矢理ブローチを質に入れさせた。
血も涙もない行為だと周囲からは思われたかもしれないが、僕も生きるのに必死なのだから仕方がない。
さっき会ったばかりの女の子にどれだけ嫌われようと、別にどうでもいいし。
一か月以内ならば客に売らないと店主も言っていたので、どうしてもブローチを取り返したかったらその期間内に買い戻せばいい話だ。
「それにしても、まっずいパンだなぁ」
「ちょっと! アタシがブローチを売ってまで得た食糧なのよ!? マズイとか言わないでくれる!?」
パサパサしていて、味もしない。
やけに固いこともあって、とても人間の食べる食べ物とは思えない。
僕はこんな食べ物にこれから慣れていかなくちゃならないのか。
「ていうか君の名前なに? さっきからずっと一緒に行動してるんだからいい加減教えてよ。ちなみに僕の名前は
僕達は乗合馬車の乗り場に向かう道すがら、ようやくの自己紹介を行う。
「あお? うーん、パッとしない名前ねぇ。アタシの名前はリルリア。家族や親しい友人はリルって呼ぶわ」
よくもまぁ本人を前にしてパッとしない名前なんて言えるな。
僕的にはなかなか個性的な名前だと思っていたのに。
「よろしく、リルリア」
「ふっ、どうやら礼儀はわきまえているようね。ここで馴れ馴れしく、リルなんて読んでいたらアタシの火魔法を勇者にお見舞いしていたところよ?」
だから僕は勇者じゃないって……。
しかしリルリアは魔法が使えるのか。凄い羨ましい。僕も魔法が使えたりしないだろうか?
「ていうかさっきからご主人様に対しての口調じゃ無くない? リルリアは僕のメイドさんなんだよ?」
牢屋を出る時、僕とリルリアは約束したのだ。
リルリアは僕と行動を共にするという条件。そして僕はリルリアが僕のメイドさんになるという条件でこの先仲良くやっていこうと。
「べ、別にいいでしょ? こんなメイドがいても! そもそもここまで可愛らしいメイドさんをゲットしたんだからもっと喜びなさいよ!」
僕が何故彼女にメイドさんになって欲しいとお願いしたのか。
それはいずれやってくるニート生活をより快適に過ごすためだ。
いくらニートとは言え、普通は炊事洗濯、掃除と家の事を色々とやらなければいけない。
両親と同居している場合は親が全てやってくれるかもしれないが、生憎とこの世界に僕の家族はいない。
ということで、僕は親の代わりに家の事を色々とやってくれるメイドさんが欲しかったのだ。
これで僕はニートになれたら一日中趣味に没頭し続けることが出来る。
「あ、ここから先は僕を勇者と呼ぶの禁止ね? もし誰かに聞かれたら困るし」
「それは……そうね。分かったわ。今からアンタの事はアオって呼んだげる」
「ご主人様でもいいんだよ?」
「一文無しの癖に調子に乗るな!」
そう言ってリルリアは僕の肩をぐーで軽く殴った。
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