「分かれ道の誤算」
一台の
「はあ」
矢だけでなく
「
「お前、自分が騎士見習いの立場だって忘れてないか?」
この最近、ゴーダム騎士団
「別に戦うわけじゃねぇ。お前の
「次の橋を
「情けねえな。まあお前が馬に乗れているだけでもまだアレか」
「馬に乗れるとモテますからね」
「本当にロクでなしだ」
装甲馬車に乗るエメス夫人とサフィーナを護衛する
「この一行がウディエム公爵領に着けるのは
「夜までに着けますかね? もう七時間は行軍してますよ?」
「近道の
「……あんまり
「当たり前だ。
ぶつくさと不満げな声を
「はあ」
一方、護衛されている装甲馬車の中からもため息は聞こえていた。
「どうしてニコルはバグスまで着いてきてくれないのかしら」
厚い
「お
「別にそんな噂が
「閣下のご命令です。申し訳ありません」
愛馬レプラスィスの体を馬車にぴったりと寄せるようにして並走させるニコルは
「あなたが
「お母様だってニコルを側に置きたがるではないですか」
「私はこのゴーダム公爵領内においてはニコルの母親代わり、いいえ、母親そのものなのです。母が
「ありがとうございます、お母様。ニコルはお母様が戻られるまでに、領内の治安回復に、お帰りが少しでも安全になるよう努力します。道中、お母様もお気をつけください」
「ああニコル、あなたはなんていい子なんでしょう。今、この手で
「……お母様、ニコルに向かって身を乗り出すと危ないからおやめください」
「
馬車を
「不満はあたしだって同じ……どうしてニコルの直属の上官なのにあたしがバグスまで行かされて、ニコルがゴッデムガルドに戻るのか……直属の上官と部下だったら、二人
「アリーシャ、何か言いましたか?」
「……いいえ、何も……」
寂しげにアリーシャがうつむいた時、一行の先頭が鉄橋に差し掛かる。
高さ三十メルトほどはあると思える二本の鉄柱がそれぞれ岸の
大型の馬車が対向で二台、
「この橋を渡りきれば、
「ああ……務めとあれば
「お母様、泣きながらニコルの手を
橋を渡りきった対岸の少し
「おい、ニコル。ここが反転地点だ。そろそろ戻ろうぜ」
「……ええ」
ダクローとカルレッツが馬を止める。帰りはこの二人と一緒になるのかと思うとニコルは多少重い気持ちになったが、別々に帰るわけにもいかなかった。
「アリーシャ
「ああ、任せておけ。お前も帰りは気をつけてな」
「ニコル、ゴッデムガルドに着いたらバグスの街
「何言ってるんです、お母様は。そんな手紙が着く
「サフィーナぁ!」
「あ、ははは……では、お二人とも、ご無事で…………」
馬を止めたニコルたちが見送る中で、装甲馬車を中心にした一行はさらに東へと進んでいく。その姿が遠くなったころに、ふううとダクローが太い息を漏らした。
「んじゃ、帰るか。帰れば任務
「
「お前は少しは働け。――ニコル、ここから南に下るぞ」
「南、ですか?」
まだゴーダム公爵領の地形に
「あの山頂の向こう側は少し低い峠道になってる。そこを越えれば、三時間は時間を短縮してゴッデムガルドに戻ることができる。まあ、馬で越えるにはギリギリの険しさだがな」
ダクローは地図を広げてニコルに地形を
「お前も暗い中で野営なんてしたくないだろ。メシを食う
「別に、峠行きを
「そうか。
「そうですね…………」
先導するように――というか、勝手に進み出したダクローとカルレッツのあとをニコルはレプラスィスに追わせる。三人が乗った馬は先ほど渡った鉄橋を渡らず、橋が架かっていた川に沿って築かれた道を歩き、南下した。
やや遠くにあった山が
お気に入りの少年を背にすることができているレプラスィスが、
「――
ニコルが
「なんだろう……何か僕は見落としをしていたか……?」
一行と別れた鉄橋のたもとの方向に目を向けるが、鉄橋の
「戻った方がいいんじゃないでしょうか」
「今戻ってんじゃねぇか。
「いや、奥様とお
「はあああ?」
こいつは何を言ってるんだ――ダクローの顔が本気でそう語っていた。
「それこそ寝言だろ? 何で今さら向こうに戻らなきゃならねぇんだ。もうかなり距離が離れてるだろうが。あれから二時間は進んでるんだからよ」
太陽は西の方角に大きく傾き、午後の日差しも半ばに差し掛かろうとする
「戻りたきゃ勝手に行けよ。お前がわけのわからないことでフラフラしているって報告させてもらうだけだぜ」
「ああ、モタモタしてないで進みますよ。暗い道を進みたくはないですからね」
「はい…………」
その二人の
自分の予感に
そんなニコルが自分の
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