「告発の行方」
「どうしてそんなデタラメを閣下ご自身で
「バイトンが裏切り者であるという
「ぐ」
ダクローから聞いた話が、ニコルの頭の中で再生された。
「この一週間で起こった変事をつなぎ合わせただけで、かなりの
「そ、それは、確かに
「人の口に戸は立てられん」
ゴーダム公は断言した。
「人というものは、
「…………その内容の当事者である
「ふむ。期待通りの効果だな。成功と見てよさそうだ」
「何が成功なんですか!」
「
ニコルの口が開いたまま、止まった。
「その『告発文』が
「僕はそんな立場になっているんですか……情けない……閣下、お
「事前に相談もせずに悪かった。バイトンについての噂がこんなに早く生まれて広まるとは思わなかったものでな」
「情けないのは私も同じだぞ。私は妻を若いツバメに
その口調だけには
「人は物事を忘れる。忘れることで生きている。……今は人の口の
「閣下…………」
「しかし、ニコル。私たちは、私たちだけはバイトンのことを忘れん。バイトンもそれで満足してくれるだろう。私たちは真相を知りながら、
「はい…………」
座っている椅子を回転させ、ゴーダム公は締め切られた窓の外を見た。
もうほどなく夕方の色に染まる西の空に、眩しい太陽の輝きがガラスを差していた。
「私は当主となって、騎士団の団長となって、任務のために命を落としてきた数百人の名を忘れん。死ぬまで心の中に刻み続けている……だがニコル、お前はその
「…………はい…………閣下も、僕が生きている間にお
「おいおい、私の話と
「はは…………」
ゴーダム公は笑った。そんなゴーダム公の
「……何か心配か? ニコル」
「……もうしてしまったことは、時を
いつもの少年らしくない
「問題か? 何か不都合なことがあったか?」
「この話、よく
ゴーダム公が、
「奥様は、僕を実の
「――あ、いや…………」
公爵の目が左右に
強烈に嫌な予感がした。
「…………閣下、まさか…………」
「……時間がなかったものでな……」
「と、いうことは、奥様は…………このお話を知らない、と……?」
「まあ、そういうことになるのかな……」
「そういうことにしかなりません!!」
ニコルは公爵の執務机を両手で
「あの奥様のことです!
「私は今から急用で出かける。あとは
「
ゴーダム公の
速度の
「あなたぁっ!!」
扉が
エメス夫人の怒りの血気が、
「あなた!! 騎士団内で、私とニコルについてのとんでもない噂が流れているのを耳にしました!! あなたはそれについて
ニコルはさきほど自分が机に叩きつけた『告発状』を回収しようと手を
「ニコルもいるではないですか!! ニコル、あなたもこの
「は、はい、そうです、おくさ――」
「母上と呼びなさいと言っているでしょう!!」
「はいっ、お
ニコルは直立した。勢いで
「それで、あなた!! この件についてどこまで知っているというのですか!!」
エメス夫人が両手を執務机の天板に叩きつける。天板の上に置かれているものの
「う、うむ、それについては今、ニコルから報告を受けたところだ」
「う、
思わず口から飛び出したそのニコルの
「ならば
「と、捕らえてどうするつもりだ」
ゴーダム公は限りなく体を退かせようとしていたが、椅子の厚い背もたれに
「決まっています!! 二度とこんな
「おいおい」
考えるよりも先に、執務机の上に置いていた手を
「そ、そのことについてはおいおい、
「あなた、どこに行こうというのです!」
「急用だ」
椅子から立ち上がったゴーダム公は
「ではニコル、あとを頼む」
「閣下ぁ!!」
裏切り者、と
風の速さでゴーダム公が逃げ出し、あとに残されたニコルの口は歪みきり、口の中は百匹の苦虫を噛みつぶしたあとより苦み切っていた。
「まったく!! こういうことになると全然頼りにならないのですから、あの人は! ――ニコル! 自分にしなければならないことがわかっていますか!!」
「は、は、はい!?」
「なんですかその空気が抜けたような返事は!! 気合いを入れなさい、気合いを!!」
「はい!!」
夫人の
「今から犯人を
「犯人なら今、逃げていかれました……」
「私の権限でゴッデムガルドの全警察力を動員し、犯人を捕らえて必ず仕置きをします! 私たちの名誉を傷つけた罪は、血と、
「かしこまりました!!」
「行きますよ!! ついてきなさい!!」
「はい、お母様!!」
足を踏み
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