「『繁栄と栄光、あらんことを』」
『エヴァンス・ヴィン・ゴーダム
この文章を閣下がお読みになっている時、自分はもうこの世にはいないでしょう。
その時、
あるいは、別の
お伝えしなければならないことは
お伝えしなければならないことを全て伝える、それが私の義務であると考えましたので、しばらくの間、この乱文にお付き合いください。
閣下とはそこそこの年月を、苦労を共にさせていただきました。
その中で、自分も閣下の人となりを学ばせていただいた自覚はあります。
ですから、閣下はおそらくおひとりで来られるでしょう。
それか、あのニコル・アーダディス
まずは、こんな結末に至ってしまったことを心からお
私などの詫びでも取り返しつかないことであることは、重々承知の上であります。
しかし、それでもお詫びせねばなりません。
本当に、申し訳ございませんでした。
以降、この書面に
心から
全てのことの
業務をこなしている私の元に、ひとりの旅商人が挨拶として
その旅商人の言は、任務中の騎士団の部隊に物資を売りたいので、
その時期は
当時は、私には大金が必要でした。
たったひとりの肉親である私の母が、近年、重い病を
その
私は母を助けたかった。
私の実家、クラシェルの家は父が早くに
幼かった私の才を信じてくれた母は必死になって金を工面し、伝手をつなぎ、このゴーダム公爵騎士団への入団をかなえさせてくれました。
私も母への恩返しとして、私なりに
そんな母が
思えば、この時に閣下におすがりしておけばよかった。
私はそれが
このような背景があったとしても、言い訳にはなりません。その時に心を揺らがせ、許されない方向に
そして、商人と
それが、今日までゴーダム公爵領を荒らし続けている『幻の盗賊団』の最初の襲撃でした。
続いて、青ざめる私にその直後、一通の書簡が届けられました。
それには、私が漏らした情報に
続いて、今後も情報を漏らし続けることを強制すること、情報を
私には、その要求を飲むしかなかった。
それがゴーダム騎士団への、ゴーダム公爵領への多大なる不利益になること、私と私の母の命を差し出しても
私は、母を死なせたくなかった。
この愚かな判断が私の
ゴーダム公爵領に存在する全ての人命と財産、私と私の母の命――その二者を
ただただ、私が愚かでした。
私自身の言い訳はこれくらいしして、
前述した通り、私が盗賊団に対して騎士団の作戦情報を漏らしていたのは事実です。
ですが、私自身は盗賊団に対しての明確な
私に命じられたことは、作戦内容を暗号に
私が作戦内容を漏らしている場面には、実は、大勢の人間が立ち会っていたのです。
その手段が、
私は作戦内容を
それを、私が存在自体も知らされていない第三者の間者が
その第三者の間者がどのような手段で、ゴッデムガルドの外にいる盗賊団の本隊と情報をやり取りしていたのかは、知らされておりません。
第三者の間者は
口風琴の音は遠くまで
私が今回のことについて知っていることは、以上です。根本的な解決にもならないでしょうが、これが私が
私がしでかしたことは、
これ以上、私のような愚か者がゴーダム騎士団に万が一にも生まれないよう、私の
愚かな裏切り者として名を晒し、騎士団の
ですが、このように大きなご
私の母のことを、どうか、どうかよろしくお願い申し上げます。
盗賊団に私の
ですが、万が一、母が無事解放され、その所在が明らかになった時、母の身についてだけは
母に罪はございません。あるとすれば、このような
あともうひとつ、心残りがあるといたしますれば。
ニコル・アーダディス騎士見習いのことです。
私などから今さら申し上げることでもなく、閣下もご承知のこととは思いますが、短い間の私の部下であったアーダディス騎士見習いのことを、よろしくお願い申し上げます。
彼はきっと、
自分のことより、他人のことに対して悲しみ、怒ることのできる、まっすぐな心を持つ少年です。私ごときなどは遠く及ばない、輝かしい騎士になることは疑いがありません。
今は青い若葉でも、ゴーダム騎士団といういい土、閣下の愛情という光、そして試練という
できれば私の、この
今の私が彼にしてやれることといえば、斬られることくらいでしょう。
私を斬らせることで、彼の
私は結果的に、彼の親友の命を
かなうかどうかはわかりませんが、閣下がアーダディス騎士見習いを帯同し、私と最後の対面を果たしていただけることを期待しております。
長々と勝手なことばかりを
長年に
これにて、失礼させていただきます。
さようなら。
最後に、
ゴーダム公爵領に、
ゴーダム公爵騎士団に、栄光あらんことを。
――バイトン・クラシェルより』
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