「『幻の騎士団』」
朝の太陽が東の空に頭を出そうとしている。
その気配を横目に感じながら、
『
馬車を駐めるや
『閣下のお手を
『たまには
そう
円形の石に
「口で言ったら茶が出てくる
ははは、と笑いながらゴーダム公は即席のスープと茶の用意をする。スープの
「さあ、食べろ」
公爵の
「そんなに
「騎士仲間……」
「私はまだ騎士を引退した覚えはない。まだ
「い、いただきます」
カップの持ち手を左手で取り、
「あつっ!」
「だからと言って、火傷する
「いいか、ニコル。戦場ではすぐ熱くなることも才能だ。熱くならなければ行動はできない。矢が降るような戦場ではなおさらな。が、熱くなった中でも理性は冷静でなければならん。熱いままでは自分の熱に自分が
「ふたりの、自分…………」
「場数を
「はい」
自ら少年の世話ができることに喜びを感じているのか、ゴーダム公は鼻歌まで歌っている。
馬車から外されたガルドーラとレプラスィスがわずかに
◇ ◇ ◇
「……閣下、申し訳ありませんでした」
「急にどうした」
数個のパンを平らげて
「僕が至らぬばかりに
「お前が至っていないのは知っている。至らせようとしているところだからな。まだ騎士団に
「ですが、自分は
「三日間、
「三日?」
ニコルは目を
「僕はそんなに…………」
「
「申し訳……」
「謝罪はいい。ケンカ
「え?」
「こっちの話だ。では、本題に入るか」
ゴーダム公が広い板を持ち上げ、四本の
その上に一枚の地図を広げる。地図にはこの周辺の地形と街、村の配置を記した記号が打たれ、それに十何本もの青い線が点と数字を刻みながら
「これが何を意味しているかわかるか、ニコル」
「……友軍の、
十何本もの青い線は、この付近を哨戒している騎士団の部隊だというのはニコルにも見当がついた。数字が日付なのもわかる。
「さてニコル、問題だ。お前が『
「えっ? は、はい、ええと…………」
ニコルは部隊の展開図を前に少し考え、地図の一点を指差した。
「この湖の街、レマレダールの街を今日の深夜に
「閣下、まさか?」
「私たちが向かっているのが、そのレマレダールの街だ」
驚きに目を見開いているニコルの反応を見て、ゴーダム公は満足げに
「この意図はわかるな?」
「…………敢えて展開の中に穴を作り、盗賊団をレマレダールに
「そして、この展開図には私たちふたりは載っていない。ま、載せるほどもない小さな戦力ではあるが。――わかるか、ニコル。私たちふたりはこの図に載らず、
「レマレダールの街が、餌そのもの……閣下、レマレダールの街は、このことは?」
「お前なら知らせるか?」
その
「そこに盗賊団を誘き
「……なら、レマレダールの街の住民たちは、今夜、盗賊団たちが襲撃しにくることがほぼ確定していながら、誰も知らない……」
「大変な
ゴーダム公の口調は少しも笑っていなかった。他に有効な手段がないとはいえ、自身の領民を危険な状況に
「それでニコル、お前にやってほしいことがひとつある」
「……レマレダールの街への、
「まあ、
「迎撃部隊ですか? そんな部隊が本当にいるんですか?」
『幻の盗賊団』に
警戒の合図を発しても周辺を展開している哨戒部隊に届かないという確信があるから、『幻の盗賊団』は
「相手にする『幻の盗賊団』は百騎に相当する規模と聞いています。
「そこは私を信用しろ。お前があっと
そこだけは
「レマレダールの街は湖に
「閣下、それは…………?」
「いや、最後のことは忘れてくれ。お前が気に
ゴーダム公は地図を丸めて直し、簡易テーブルを片付けて即席のかまどの火を消した。
「もう一時間も走ればレマレダールの街だ。私もそこまでは同行する。午前のうちに食事と
「は、はい」
ゴーダム公が立ち上がる。それにつられるように、ニコルもまた立ち上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます