「初陣・――視認」
三日目の行軍も歩き、歩き、歩きだった。
とにかく移動し、様々な場所を移ることでそこに異変がないことを
行軍とは単調かつ重労働だ。
特に、標的を求めず行軍する哨戒活動では一日通して歩いたけれども敵と
そして、ニコルが属するチャダ中隊が求める敵というのは、今まで仲間たちがゴーダム
「このまま歩くだけで終わってしまうのかなぁ」
三日目の午前の段階になると早くも
約三十人がそれぞれに馬を引き、列を作って細い道を行く行軍のほぼ
一日目には厳しく私語を禁じていた騎士さえも、この任務も徒労に終わるのだろうという見通しが先に立って雑談に興じてしまう始末だ。ただ、中隊の指揮官であるチャダ正騎士だけがひとり口を真一文字に結んで、馬上の高みから周囲を
「しかし今もかなりの中隊が哨戒活動に出ているはずなのに、どうしてこうも盗賊団を
チャダ中隊はまだこの作戦中では盗賊団の被害を目にしたわけではないが、二日目に立ち寄った街では前々日に盗賊団による被害が遠くの村で発生したことが早くも風の
その方面には今も別の中隊が哨戒活動として展開しており、チャダ中隊が
「噂では騎士団の中に敵の間者が
歩くことにも
そうでなければ、この警戒網の厳しさの中で
「これだけ毎日
「それは、マルダム……
「伝書鳩は固定された先にしか飛ばせない。移動し続けている盗賊団に伝書鳩で情報を届けるのはちょっと現実的じゃないね」
「……だろうね」
思いつきを
「盗賊団に
「じゃあ、
「まあ、逆に考えようよ、ニコル。少なくとも僕たちがいる
「そうだね、マルダム……」
「それより
「マルダムはご飯のことばかりだなぁ」
「食べることは数少ない楽しみのひとつだからね。
「ザアーの町というと、あの黒い
ニコルが前方を指差す。
「そうそう、道はまっすぐあの黒い煙の方に向いているから、きっとそっち……」
ニコルの問いにマルダムが
空白の心で煙の黒さを目で
答えは、前方に位置する騎士から発せられた。
「火事だ! ザアーの町が燃えているぞ――――!!」
その
「全員騎乗ぉ――――!!」
チャダ正騎士の叫びに全員がほとんど反射的に反応した。馬を疲れさせないために背に
ニコルもマルダムも例外ではない。全員が馬上の人となり、目に
「前身! 全速でザアーの町に向かう! 町が襲われている最中かも知れん!
そうチャダ正騎士が叫んだ時には、中隊は
ここからザアーの町の全景は空気の層によってぼやけ、うっすらとしか見えない。
「
「
「行くぞ!!」
「おう!!」
チャダ正騎士を先頭にした五
「道の周辺に敵の姿はない! まっすぐ町に向かって進め! ニコルとマルダムは幌馬車の護衛だ! 決して前に出るなよ! マルダム、ニコルの
「は――はい!」
特に速度が出ない幌馬車の護衛につくということは、必然的に部隊の最後尾に着くことを意味する。経験が全くない新兵のニコルを死なせないという
「ニコル、心配
「は、はい――!」
並走するマルダムの言葉に応え、前から
自分は実際に
「これが――これが、戦闘、実戦か……!」
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