「疾走する」
十頭ほどの馬が並んで
広大な長円状の走路の一角を成す
それが意味するところはニコルにもわかった。この二本の棒、そして引かれている線が競争の出発点であり終点で、接戦の場合はその二本の棒と線を基準にして勝敗を判断するのだろう。
今まさに、それぞれに
「
わずかに興奮し鼻を鳴らしている愛馬の横顔を手のひらで
「この周回走路は一周、約二千四百メルトある。この周回走路を共に走り、先にこの場に
「はい」
「少し
ゴーダム公の言葉に従ってニコルは目を
「あれはここから六百メルト先、つまりこの周回走路の四分の一の
「ニコル、よく考えろよ」
「公はお前があの赤い棒を越えない限りここから動かれないという、その意味をな」
「わかりました。――あの赤い棒までは、ゆっくりと走っても不利にはならないということですね」
「
「――ニコル、お前、
ゴーダム公はニコルの手に馬上鞭が
「鞭は使ったことがありません。
「ほう。
「いえ、これは、鞭を使う方々を非難しているわけではなく……」
「わかっている、わかっている。では、私もその考えにならうとするか」
右手の鞭をゴーダム公は気軽に放る。それをオリヴィスが
「ニコル――! がんばって――!」
「勝つのですよニコル! 負けたらいけませんよ! い、いいえ、負けてもいいのです! 負けてもこの母がなんとかしてあげます! ですから落馬だけは、落馬だけはしないように! お願いですから
周回走路の少し外からサフィーナとエメス夫人の
「おい、私への声援はないのか?」
「お
「あなたはさっさと落馬してしまってください! ニコルが安心して走れます!」
「聞くのではなかった。ニコル、早く始めよう。あの
「は、はい。――では、行きます!」
レプラスィスにつないだ
最初の一歩の
「――あの赤い棒までの間に、君の呼吸を覚えないといけないということだ!」
見知らぬ馬と
ここからさらに
レプラスィスはニコルの気持ちを受けて軽快に走る。その黒い
「いい! いいよレプラー! 君はいい馬だ! 君と心を通い合わせて走れるだけでここに来た
大きなレプラスィスの首、その
「君の全速を僕に見せてくれ! 僕も、君の気持ちに応える!」
「美しいものだ」
左右の揺らぎが全く見えず、放たれた矢のようにまっすぐ、まっすぐ前に向かっていく少年と馬――最初の駆け出しこそは少し
「
「はい、
「こ、この試験はあれですよね? 入団する者の馬術がきちんと基本がなっているかどうか
「その通りです。私たち試験官が本気を出せば四分の一の距離の不利など初心者相手では簡単に
「な、なら、万が一にもニコルが落とされるということはあり得ませんね?」
「初めての馬、しかも
ニコルを乗せたレプラスィスが、目印の赤い棒を通過しようとする。レプラスィスの速度は駈足から限りなく低く、限りなく遠くに
「公の横顔のご
「――やっぱり」
悪い予感を的中させたエメス夫人が顔の上半分を
突進するレプラスィスが赤い棒の間を通過し、渡されていた
「それでは私も――楽しむか! 行くぞ! ガルドーラ!」
ガルドーラと呼ばれた
「えっ!?」
空気を
「あの馬の体で!? レプラーよりもずっと速い!?」
六百メルトの有利を与えられれば勝てるだろう、という心の
「さすがゴーダム
背中を焼くような焦りと不安、そして同時に、こんな光栄な場が自分に与えられているという胸を熱くしてくれる幸福感に全身の
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