「束縛と、運命と、自由」
リルルの口から飛び出した宣言に、目を
登場以来謎とされていた快傑令嬢リロットの正体が判明し、その正体である伯爵令嬢リルルが国王ヴィザード一世と婚約している状況であり、当のリルルの口から婚約破棄、という言葉が飛び出す。
市民の誰もが半分理解がついていかなかった。その話題ひとつだけでも、翌日には号外が街に乱れ飛び、人々が数週間は噂し合うに値する事実だ――もう号外どころか、普通の新聞さえ発行されていないが。
「……リルル……」
騒然を通り越して一万人の市民が言葉を失い、息もできなくなった静寂の中で、国王はその口元に困惑の色を乗せて
「さすがに今の言葉には、いささか失望したぞ。そなたも若いとはいえ、もはや子供ではない、大人であろう。この国が法治国家であり、その法は如何なる仕組みによって機能しているか、理解をしていないとはいわせない。正体を隠していられた頃はまだしも、今の立場がどのようなものか……」
「……どのようなものか、わかっているであろう。今のそなたの安住の場は、王城か、監獄か、そのどちらかだ。そなたの返事は、後者を選ぶといっているのだぞ」
「王城であっても、私には監獄と変わりはしません。一切の自由を奪われて縛りつけられる。鎖がついていないかどうかの違いでしかありません」
「人がそんな自由に振る舞えるものではない、というのはそなたも貴族の端くれ、わかっていることだろう。貧民であれ、貴族であれ、この王の余であれ、しがらみに縛られる。本当に自由な者など、この世には存在しないのだ。みな、鎖に繋がれる。どのような鎖を選ぶのかという話でしかない」
「たとえそうであったとしても、私はその鎖を自分で選びます! 国王の
二人の口から飛び出す、しがらみ、鎖、運命――その言葉のひとつひとつに、客席から二人の主演を見上げる市民たちは想いを
「聞き分けのないことだ。まったく、子供のわがままそのものだ。……しかし、それは仕方のないことかも知れぬ。そなたもまだ若い。世の中のことを知れば、いずれは自分の言葉がどれだけ青かったかということを知るであろう。リルル、余がそなたを導く。余にその身柄を預けよ」
「お断りします!」
「……この書類で、余はそなたを縛っているのだぞ。まだわからないのか」
手にしていた書類を丸めてしまい、
「これが存在する限り、余はそなたを自由にできるのだ。そなたは
「――なら、その婚約の証明書を、この世から消して差し上げましょう!」
「なに?」
リルルが一歩、進む。
だが、その手にはなにも持たれておらず、なにも持っていないことを示すかのように手の平は広げられて下ろされている。それは自らは抵抗しないという意思表示にも見えた。
強烈な違和感が、ヴィザード一世の脳裏に射し込む。まだ百歩以上は軽く離れている相手、しかも手の平をさらしている少女に強い威圧を感じているのだ。……たかが小娘に、なにができるのか――。
「……いったい、そなたになにができるというのだ。手荒い真似はしたくはなかったが、ここまで言葉を尽くして理解してもらえぬなら、多少の強引な手段はやむなしであろう。仕方がない……」
『橋』の両端を固めていた兵士たちが、その言葉を受けてゆっくりと動き出す。
「我が親愛なる臣民たちよ、安心してほしい。多少乱暴なことになると思うが、余は妻となる女性を傷つけるつもりはない。ただ、ゆっくりと時間をかけて説得を試みたいだけなのだ。ほどなく、余の傍らでそなたたちに微笑みかける我が妻、エルカリナ王国王妃の姿を披露できるようになろう」
この期に及んでも怒りや苛立ちを
「私は、あなたの妻になるつもりはありません! それを今、この場で証明させていただきます!」
「まだいうか!」
ヴィザードの声に押されたように兵士たちが駆け出そうとした瞬間、それは
白く輝く光弾がまさしく銃弾の速度で飛んだ。
「うっ!?」
驚きの声を発した時には、ヴィザードの手から筒がもぎ取られる――ヴィザード一世とリルルの婚約を証明し、成立させる効力を持った書類が入った状態で!
「誰だ!?」
筒を捕らえたムチが高速度で巻き戻り、白い手袋に包まれた細い手が筒を握る。
新手かなにかか――そう予感して振り向いたヴィザードの目に、信じられない姿があった。
「……お前は!?」
そこに立っていたのは、新手でもなんでもなかった。
閉ざされた牢獄の中で鎖に繋がれ、力なく吊されていたはずの快傑令嬢サフィネル――サフィーナが全ての
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