「追跡と詰問」
ニコルは、伸ばそうとした腕を止めた。
抵抗の
「リルっ……!」
呼びかけようとしてニコルは口を閉じた――リルルの片眼の色が、『呼びかけないで』と言っていた。
「はっ、決闘か」
そのリルルを脇に軽々と抱えて
「お前と決着を着けるっていうのは悪くねぇな。ただ、今はちょっと
芝居がかった仕草でダージェが鋭い犬歯を見せ、笑った。
「リルルのことは心配すんな! このダージェ様がもう、それはそれは
「ダージェ!」
「じゃあな、ニコル。また会おうぜ!」
勝ち
「うくっ……!」
翼の広さに似合わない突風を受け、ニコルが
「リルル……」
風を追い抜く速さで
その姿を見送り、とても追いつけない速度で数十騎の追撃隊が北の城門に向けて走って行くのを見届け、腰の剣を
数十メルトの高さから、少年の体が木の葉のように舞い降りる。
「ニコル様!」
貴族邸の壁を背中にして立っているニコルを認め、こちらも風のような速さでフィルフィナが走り込んできた。
「お嬢様は! お嬢様はさらわれたのですか! ――ニコル様、どうしてあの二人を追わなかったのです! ニコル様なら追うことも可能だったはず!」
「――フィル」
目の前で恋人を
「リルルは、快傑令嬢リロットの姿になっていなかったんだ」
さらになにかを叫ぼうとしたフィルフィナの口が、止まった。ニコルの言葉の先にある意味の気配に気づき、そこから先が空回りした。
「さらわれるのを防ぐ最後の手段として、リロットの姿になって抵抗することができたはず。――なのに、リルルはそうしなかった。そして、気絶したふりをして僕に
「そ、それは――」
フィルフィナが口の中を
「リルルは、わざと自分を連れ去らせたんだ」
「わ……わ、わかります、その理屈は……」
ぐちゃぐちゃになっている思考を整理して、フィルフィナは
「お嬢様は
「それは、僕たち周囲がリルルを助けようとしても同じだろう。――でも、今回は
「あ…………」
ニコルが微笑んだ。フィルフィナの思考が、それに誘導されて正解にたどり着く。
「魔族の者がお嬢様を
「リルルは、
映像の中のリルルがいっていた――『
その中でリルルは見切ったのか。ここが勝負のしどころであると。
「し……しかし、あんな魔族に身を任せることになるなど……! これでは尖塔にいた方が、いくらかマシではないのですか!? お嬢様がどんな目に
「あの
「何故にそういいきれるのです!」
「勘だよ」
「かっ……」
そんな物が根拠なのか――フィルフィナは気絶しそうになったが、ニコルの正気そのものの色を見せる瞳に、言葉が続かなかった。
「あのダージェとは色々話したんだ。彼は心底リルルのことが好きになって、こんなことをしでかした。リルルを心から自分に振り向かせたいと言っていた。僕の中にある感情をそっくりそのまま、彼も持っている」
その部分は勘でもなんでもない――真実と思える部分だった。
「同じ女の子に
「ニコル様……」
「とはいっても、ずっと放っていくというわけにもいかないな。探しにいかないと」
「――ニコルお兄様」
「来てくれたね、ロシュ」
足音を立てず、風の
「リルルがどこかわからない所に移送された場合、その際に備えていた仕掛けが今役に立つ。――リルルを追えるかい?」
「リルルお姉様が
「じゃあ、急ごうか」
用意もなにもないが、仕方がない。
「鬼が出るか
「ニコル様、お任せください」
「わかりました、ニコルお兄様」
二人の少女がうなずきを受け、ニコルは北に向かって
まずは、城壁の外に出なければならない――。
◇ ◇ ◇
王都の
王が座する、城に
「……リルルが、魔界皇子にさらわれただと……!!」
「申し訳ありません!」
暗い馬車の中で立ち上がりかけたヴィザードが、大きな揺れに体勢を小さく
「全ては、
「貴様がついていながら、このような失態をしでかすなどと!! この――――!!」
国王の
「――――とはいえ……!!」
爆発の寸前までいったものが、すぅぅと引いた。
「……すんでしまったことは、仕方があるまい…………!!」
「今は、そなたの
「は、はっ……! か、
「そんなものはどうでもいい。そなた自ら魔界へ
次の言葉だけには、国王の
「リルルの身を
「は、は、はい――」
王城に入った馬車が停止する。それでは、と一礼して馬車を降りようとするコルネリアの背中に、ヴィザードは呼びかけた。
「――例の『作戦』な、早まることになるぞ。部隊の編成はすんでいるか」
「準備、完了しております。後は、陛下のご指示があればいつでも出動が可能です」
「
「は――――」
コルネリアは
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