「旅の帰途」
リルルたちは、心のままに遊んだ。
全員で
神様が用意してくれたような、今日という素晴らしい日。
青く、青く晴れた空の下で、少年と少女たちの明るく弾む声が、島いっぱいに響くようだった。
――そして。
最も高い位置に太陽が差し掛かったころ、一行を乗せた『森妖精の王女号』は、島を離れた。
◇ ◇ ◇
船長室に呼ばれひとり
「――何故、これがここにあるのですか」
あるはずのない、それ。
いや、正確にいえばフィルフィナが今、この手元に収めているはずのものが、手品のように目の前にあった。
「今しがた、リルルお嬢様とサフィーナから回収してきたところです。これは……」
「三つめと四つめの銀の腕輪よ、フィルちゃん」
「――――」
その意味の重さを共有しながら、ウィルウィナは静かにいった。この世には実は、もう一つの太陽が隠されていた――というくらいの
「――銀の腕輪は、わたしたち一族に代々、
「それは
「それだけ……」
すっ、とウィルウィナがふたつの腕輪をフィルフィナの方に
「
その呼び方に、フィルフィナの心臓が
「あなたがこの四つを管理しなさい」
「――お母様!」
「声が大きい」
それを
十年前、かつての里がエルカリナ王国軍に攻め立てられた時、
それは、第一王女の命よりも重要であることを、意味する――。
「これの
ウィルウィナがうなずいた。
いつもの明るい混ぜっ返しもない。女王の
「今回の旅行は、明らかに不自然でした。あの銃の山の中に
「
一切の駆け引きなどなく、ウィルウィナは認めた。フィルフィナの神経の
「お母様……やめて……やめてください。何故そんな態度なのですか。いつものお母様でいてください。今までわたしたちだけの時は、そんな風にしたことはなかったではないですか……」
「フィルフィナ。全て終わったあとだから、お前には打ち明ける」
「…………」
フィルフィナは泣きたくなった。
「私と庭師、フェレスは
「……彼が復活すると、どういう意味があるのです。そんな彼と、何故わたしたちを関わらせたのです。それは、五百年前と関係があることなのですか……お母様!」
胸を締め付けてくる痛みに、フィルフィナは顔を
顔を歪ませながら、すがるような目で見つめてくる娘に、母は
「嵐に
――嵐。
「フィルフィナ。これだけは胸に
――あらしが、くる。
「それがどのような形で来るものなのか、私にはわからない。ただそれは、銀の腕輪が四つあっても足りはしないものであるだろう、ということだ」
「これが……四つあっても……」
「私は次の世代のお前に、生き残るための鍵を託す。――お前たちの世代が、この嵐を乗り切らねばならない。そうせねば、お前たちの次の世代が危機に
ウィルウィナが
その
「若いあなたたちに
「お母様……」
「フィルちゃん。あなたはみんなのお姉さんよ。あなたがみんなを見守って、守らないといけない。――くれぐれも死に急がないで。つらさに耐えられない時があれば、私を
「……嵐の中で……」
「そう。――嵐の中で」
フィルフィナは目を閉じ、息を止め、背もたれに背を預けた。そのまま
心なしか右手がとてつもなく重い。そこに
「――わかりました。おそらく全ては、ことが起これば全て理解できるのでしょう。ここで問い
「……助かるわ」
「お母様。くれぐれも申し上げておきます」
「――なにかしら」
フィルフィナは、
「わたしはお母様のことを色々といいますが、お母様を愛しています。……それだけは、お忘れなきように」
「…………ありがとう」
フィルフィナが椅子から立ち上がり、ほんの
その娘の気配を目で追いながら、ウィルウィナは
「……母上。あなたは私を
細く細く、細い息を
「確かに、私はそうかも知れない……でもね、私の娘は立派ですよ。立派すぎて頭が下がるくらい。本当に私の娘なのかしらね……」
半ば
「……
◇ ◇ ◇
島での戦いと遊びに疲れた
王都までの航海のおよそ二十四時間。『森妖精の王女号』は一度も止まることなく、速度を
そして、寄港予定日の正午近くに、船は他の
少年少女たち、特にリルルとニコルは、まだ知らなかった。
自分たちが王都を
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