エピローグ
「ニコルとロシュの帰宅」
海に突き出て長く
一斉に
船首に
それぞれの
その追加された一人であるロシュは、
「とても情報量が多いです」
上空から見れば、
「塔ではこんなに人はいなかったよね。ここが王都エルカリナ。ロシュがこれから暮らす街だ」
「王都、エルカリナ。ロシュは記憶します。ここはロシュが暮らす街です」
桟橋に降りたニコルは、その真ん中に立ってゆっくりと体を
肩を触れさせるようにして自分の側を通り過ぎていく何人、何十人もの人間。その全てをロシュは頭の中に入力していた。
「ロシュは情報を持っていません。ニコルお兄様、王都エルカリナについての情報をください」
「ロシュの言い回しは変わってるね。自然な話し方も練習しなきゃね。ロシュが機械であると知られるのは、あんまりよくないから。ロシュはできるだけ、人間そのものとして暮らしていかなくっちゃ」
「
「ロシュならできるよ。がんばって」
「はい、ニコルお兄様」
「――仲がいいわね、お兄様と妹君は」
行李をクィルクィナとスィルスィナに
「リルル、大丈夫? あのロシュちゃんにニコルを
「――ふふん」
「お、余裕顔。それではリルルさん、お聞かせ願いたいのですが――あなたのその余裕はどこから来ているのでしょうか?」
「私、お父様と対決するの」
「――――」
それだけでサフィーナには全ての意味が伝わった。エメラルドグリーンの瞳がきゅっと
「……本当の、本気なのね? ようやく決心をつけたの……じゃあ……戦争になるか……」
「ニコルと決めたことよ。もう私、
「――リルル、もしも困ったことがあったら、なんでもいって。友達の公爵令嬢は頼りになるわよ」
「サフィーナ……」
「早くニコルとくっついて、子供ぽこぽこ産んでくれたら私がすっきりするわ――あっ、ニコル似の男の子が産まれたらちょうだいね! うちの家の
「そう気軽にあげられるかぁ!」
あはは、と二人の令嬢たちは笑い合った。
「――リルル、がんばって。応援しているわ」
「ありがとう、サフィーナ……」
◇ ◇ ◇
桟橋を歩き、港の入口まで一行は進んだ。ラミア列車の駅には列車の到着を待つ人々が列を作り、
「――では、ここで別れましょう。みんな大変だったわね。今日一日はゆっくり休んで、また明日からがんばりましょうね」
「ウィルウィナ様、お疲れ様でした」
「――フィル、どうしたの?」
それぞれが別れの
「――お嬢様」
「昨日からずっと元気がないわ。食も細いみたいだし。体調がよくないの? 樹にされた
「体は大丈夫です。少し気が張らないだけで……。そういう意味では、疲れているのでしょう……」
「なにかあったらすぐにいってね、フィル。私はあなたを頼りにしているのだから」
「お嬢様……」
ありがとうございます、といって顔を
「リルル、僕たちはあのラミア列車に乗るから」
北から南に向かって走ってくる遠くのラミア列車をニコルが指差す。
「私たちは辻馬車を待つわ、荷物が多いから一緒に乗るのは無理ね」
「なにかあったら、すぐに連絡して。――リルル、しっかりね」
「ニコルも、ロシュちゃんをソフィアやローレルに紹介しないといけないんでしょう。がんばって」
「……うん。大丈夫だと思うけれど、大変そうだなぁ……フィル、気をつけてね。リルルを頼んだよ」
「はい……ニコル様もお気をつけて」
フィルフィナの目にかげりが見えるのにニコルは気づいたが、歩き出したロシュの手に引かれ、首をひねっただけでそのまま離れた。
「……フィル?」
◇ ◇ ◇
大カーブを曲がり、進行方向を北に転じたラミア列車が目の前で
「これが、『ラミア列車』ですか」
「安くて便利。百エル払えば、王都のどこにでも行ける。僕らみたいな貧乏人の強い味方だよ」
「あら、ニコルさん、この時間にお
動力と
「これは後ろの子の分です。乗り換え切符をください」
「あら、あらあら、女の子のお連れさん? 二重に珍しいこともあるものね――ひょっとして恋人? あれ、でも姿はメイドさんね――メイドさんの恋人かしら?」
「
「ロシュと申します。よろしくお願いいたします」
「妹さん? いるのは知らなかったな――また今度お話しましょう」
乗り換え切符を受け取り、ニコルとロシュは先頭から客車に乗り込んだ。ほどなくして列車が走り出し、大通りを行く列車の左右の窓で景色が流れ始める。
二つ
「ラミア列車、仕組みがわかりました。乗り換え切符をもらうことで東西系統、南北系統を乗り換えて目的地に向かうのですね」
「僕の家はもうちょっと東だよ。――今、
「王都エルカリナ、情報が集まってきました。この
座席から窓に向けた目を左右に走らせてロシュが
「――でも、安心そうだね。なんとかなるか」
まだ陽はいくらか高いが、夕方に向けてゆっくりと
◇ ◇ ◇
「――この子を妹として置いてほしい、だって!?」
帰宅直後、荷物を
「なんだいなんだい、小さな家なんだ、大きな声を出すんじゃないよ! ボロ
奥の部屋からニコルの
「そうはいってもお
「――ふん」
ニコルの横でロシュは深々と頭を下げたままぴくりとも動かない。ローレルは真っ白な髪をひとつ
「あんた、名はなんというんだい」
「ロシュと申します」
初対面なら
「ロシュ? ロシュってニコル、あんたが大事にしていたロシュネールの愛称だろ」
「そのロシュネールにも関係があるんだ」
「わからないねぇ。――ニコル、あたしゃね、あんたがいい加減なことを振りまいて
「わかってるよ、ローレル
「ダメだね。お前の話を聞いてあたしたちを納得させたら、座らせてやる。それまではこの娘は、どこの馬の骨とも知れない完全な他人だよ」
「
自分でもなんてややこしいんだと
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