「本当の決着への道筋」
一方、百二十階のフェレスの部屋。
目覚めの直後に
「サフィーナ様!!」
ニコルは、
「――もう過ぎたことをとやかくいっても始まらないのは、わかっています! ですから、今から申し上げるのは未来のことです! サフィーナ様、どうか、どうかお願いです!! この先に快傑令嬢を続けるのは、
「
「ぐふぅっ!!」
一刀両断に切って捨てられたニコルが、顔――いや、
「も……も、もしものことがあったらどうするのですか! サフィーナ様が
「私はそんなドジではありません。快傑令嬢サフィネルをなんだと思っているのです。それに私にはクィルとスィルという二人の頼もしい
「お茶なんてどうでもいいでしょう!? なにが起こるかなんてわかるものでもない、今回の事件だって、
火がついた花火のように
実際、そよ風より
なにせ、自分が恋するニコルが自分のためだけに顔を真っ赤にして話しまくってくれているのだから、これ以上の喜びもなかった。
「もしも、もしも正体が世間に対して明らかになったら!! サフィーナ様が罪に問われるばかりか、ゴーダム家の家名に傷が! いいえ、それだけでなく、
「それはあなたの考え
「くく――――!」
論理の正しさにいい返せないニコルが、その場に
「ありゃりゃりゃ。完全にニコルきゅんの分が悪いじゃん。んでも、サフィーナお嬢様もめっちゃ強気だねぇ」
「……失うものがないから。……クィル、そっちのお菓子」
「ん」
お菓子の入った袋をそれぞれ
「――それにニコル、あなたは今の王都警備騎士団の
「うううっっ!!」
ニコルが
「あ、ニコルきゅんが
「……これは割と
少年騎士の嘆きの痛々しさに、双子の少女たちが
「最近では
「た、確かに、
「はあ? 快傑令嬢リロットと快傑令嬢サフィネルの正体が、あなたが恋するリルルとあなたが逆らえないサフィーナであるとわかっていても、あなたは
「サフィーナ様ぁぁ!!」
「ちょっとちょっと、うちのお嬢様はニコルきゅんを言葉で殺すんじゃない? そろそろ止めた方が」
「……面白いからこのまま見る」
「それもいっか」
クィルクィナはあっさりと
「わ……わかりました! たとえ快傑令嬢の正体がサフィーナ様たちであったとしても、僕の目の前に現れる限り僕は追い、捕まえます! これは僕の
「まあ! ニコルが私を本気で追ってくれるのですね!」
サフィーナが音を立ててカップを置いた。その口元が
「これは楽しみというものです! では私も誓います! 現場で私を捕まえることができたら、私は大人しく快傑令嬢を引退いたしましょう!」
「――サフィーナ様、そのお言葉を信じてもよろしいのですね!?」
「当然です! 女に
「あ、お嬢様が楽しみを確保した」
「……
子供の追いかけっこの延長のようなものだ。ニコルが必死に追い、恋する相手の少年が自分を
「ニコルきゅんの方も苦労性だねー」
「……それはいいとして、問題は」
スィルスィナが飲み
「……ニコルとリルルの方」
◇ ◇ ◇
「それではフェレスさん、お世話になりました」
「いやいや。こちらこそご迷惑をかけてすまなかったね。近くに寄った時はおいでよ。心から
そんな別れの
「よくよく考えなくても、あいつが全部悪いんじゃないさ? それをなんで
「クィルちゃん、そんな暴力的なこといっちゃダメよ。みんな無事だったからいいじゃないの。ニコルちゃんに妹もできたし」
「まー、ママがいうなら別にいいけどさー。でも、乗り込んで戦って仲間が減るのはわかるけど、増えて出てくるっていうのはあんまり聞かないかも」
晴れた空の下、一行は丸太屋敷までの道をてくてくと歩く。リルルは背後の細長い山を振り返り、その中の塔で行われた激闘に想いを
死ぬか生きるかという戦いに身をさらしてきたのが、今からしてみれば、まるで夢のようでもあった。
「旅行の日程は、あと何日でしたか……」
「この島で一泊二日。明日には船で離れないと」
母の返事にフィルフィナの表情がひしゃげた。
「まだあの丸太小屋でまともに
「まあまあまあ、いいじゃないフィルちゃん。今夜はゆっくりと温泉に
「……全く意味が不明なのですが、お母様」
「リルル」
「なんだかんだあって、リルルと話す時間が取れなかった。落ち着いたら、ゆっくりと話がしたい」
「うん、わかったわ」
「……リルル?」
ニコルが目を
「私も、ニコルと話す時間が欲しかった。色々と話したいこと、あるから。特にこれからのこと……」
「これからのこと……」
「そう、これからのこと」
これからのこと。それは、ふたりにとってのこれからのこと、に
「私、ひとつだけちゃんと決めたことがあるの。決めなきゃいけないことはたくさんあるのだけれど……大事なことを、ひとつだけ」
リルルの目がまっすぐ前を向いている。ニコルと目を合わせたくないからではなく、それは未来を見る目だった。
「どこか落ち着いて話せる場所で、話しましょう」
「――うん、わかった……」
水をかけた方が不安になるくらいのリルルの冷静さに、ニコルの方が
ひとつだけ決めた、大事なこと――それは、ほどなくすれば明かされるのだろうが、それが二人の運命に関わることになるだろうということだけは、確信が持てた。
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