「ニコルの反攻」
ロシュの右前腕が、
六十一階の階層で
「あれは……やっぱり武器?」
「剣かしら。二枚っていうのが気になるけれど。注意して、リルル」
「ご令嬢たち、そういうのはボクに
気を失っているニコルをかばいながら、自らも身を
「あれはオープンバレル
「……わかるようにいって!」
「砲だ、大砲だよ」
リルルとサフィーナの顔から、同時に色が失われた。
「二枚の板の
「
「リルル!」
ロシュがその『砲』をリルルたちに向けた。銀色に光る二枚の板が光を帯び、板の間で無数の
美しい
空気を
「あつっ!」
それぞれの直感に
「んんっ!」
エルフの四人が床に顔を押しつけるまでに強く
音速を
破壊はそれだけに
砲弾が全てを
「い、ぃぃ、い……!」
振り返り、砲弾が
外気が音を立てて流入し、風となって全員の衣服を
「気をつけたまえよ。キミたちが相手にしているのは、世界のひとつを
フェレスの声を背景にするようにロシュが、表情のない顔でその髪を激しくなびかせていた。愛らしいメイド服姿にも関わらず、その姿は世界を滅ぼした魔人に
「そのロシュに比べれば、キミたちがやり過ごしたキマイラなんて、可愛いトカゲみたいなものなんだ。悪いことはいわない、今すぐこの塔から
「撤退たって……どうやって撤退するの!」
「ロシュの背中の
「結局倒さないといけないんじゃない!」
「リルル、落ち着いて。すぐ興奮するのがあなたの悪い
サフィーナが左手にムチを
「こちらは二人、相手は一人。
「……本当にどうにかなる? 自信は?」
「ないに決まってるでしょ。でも、私たちの方にある利点はそれくらいよ――
「は――――」
聞くに恐ろしいセリフをさらりと口にするサフィーナの姿に、リルルが細い息を
「……サフィーナ、あなた本当に頼りになるわ。そうね、私の悪い癖ね、それは」
「さっきみたいに二人を
「作戦といえるかどうかはかなり
相手に
「――来るわ!」
二発目の砲撃の気配が起こる。発砲前に派手な発光が
「くぅぅぅっ!」
数メルトの
「リルル!」
「わかっているわ、サフィーナ!!」
地を蹴り体を宙で横回転させながら、今度は床を手の平でつかむ。そのまま腕の力で身を
弾丸のそれを
「!」
サフィーナのムチがロシュの左腕に、リルルのムチが右腕の砲身に
「
「リルル、このまま、全力で引き倒すのよ――ううっ!?」
銀の腕輪によって
「なんて力っ!?」
「だからさー、キミたちでは無理なんだって」
「こんなヤバいのを連れていて、のんきなものね!」
「リルル、よそ見しないで!!」
「うわあっ!?」
ロシュの、リルルのムチに絡まれた
「危な――――」
輝く光の波動にリルルが持つ全ての
◇ ◇ ◇
「……う……」
気を失い、床に横たわっているニコルの、その閉ざされていたまぶたが、震えた。
頭の奥が
「どうなって……いる……」
耳に音が響いているのが認識される。音の意味が脳で理解されていく。
「――リルル、大丈夫!?」
「――我々全員で矢を
「――注意を引いたらこっちに撃ってくるんじゃないの! やだよぉ!」
「――……うるさい、とっととやれ」
まだ意識が白い。目を開けられない。だが、
――危機だ。
「ロシュ……」
聞き
「――ニコルくん?」
側で聞こえたのは、フェレスの声だった。
「リルル……サフィーナ様……みんな……」
「ニコルくん、目覚めたのかい」
「フェレス……さん……」
ニコルが、目を開いた。
「ニコルくん、よかった、大事ないね」
「
「動かない方がいいんじゃないのかい。
「いえ、動けます、動きます、動かないと、いけません……」
「ニコルくん、ダメだよ――ああ、こっちもダメだなぁ」
再び轟音が空間上に響いた。
「マズいなぁ。このまま
「ロシュは……」
「キミと別れなければならないというのが、よっぽど絶望的だったんだね。一瞬でプッツンしちゃったよ。今、絶賛暴走中だ――外からの情報は受け付けないかもね」
「ああ、もう……」
ニコルが、ゆっくりと――体を起こした。
「……早とちりなんだからな……ははは……まあ、ロシュネールも、そうだったけれど……」
「……ニコルくん!?」
そして、
「――ニコル!?」
「ニコル、
足をくじいて動けなくなったリルル、それを身を
「――ロシュ、聞いてほしいんだ」
背後からの声にロシュの肩が、跳ねた。
そのロシュに向けて、もどかしくなるほどにゆっくりと、ニコルが歩を進める――ゆっくり、ゆっくり、一歩一歩を手作りで作っていくように。
「人の話は、ちゃんと聞かないといけないよ。わがままなのは、昔と変わらないんだな……でも、そこもロシュらしいね。キミは本当にロシュの写しなんだね……」
ロシュの背後に立ち――そして、目の前の両肩に、手を置いた。
「――そんな君が僕には大切なんだ、ロシュ」
ニコルの
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