「回るダイスと、迫るリミット」
リルルとサフィーナは、
剣を振り落とし、
機械を部品の破片に分解しながら、
九十八階、九十九階、そして百階……。
「うぐっ!」
機械
「リルル!!」
「――――ふぅっ!」
少女の気合いが
「――危なかった!」
天に向けて突き上げられた腕を下げ、その拳で光る銀色の
「……いつも思うけれど、それって私たちのような女の子がつけるものじゃないわね!」
ムチの先端で
「リルル、集中力が乱れてるわ。剣を取り落とすなんてあなたらしくもない」
「ごめんなさい、サフィーナ……ここは、何階だっけ……頭がだんだん、働かなくなってきてる……」
リルルが壁に手をついた。服をぐっしょりと
リルルは右手首の黒い腕輪から
足を止めている間など一瞬たりともないのだとわかりながらも、四十階に近い階層を上がって来た体は、いよいよ限界に近づきつつある。
「百階よ。残り時間は……三時間と、二十七分……」
天井の
彼女たちが永遠に樹と成り果て、再生することがなくなるまでの残り時間もそう多くはないのだ。
「あと、十九階……たった、十九階……たったそれだけよ、リルル」
「もう、疲れていて計算ができない。一階上がるのに、どれだけ時間がかけられるの……?」
「だいたい、十分弱よ」
「十分……? 今、だいたい、一階をどれくらいの時間で上がっているのかしら……」
「……三十分ね」
サフィーナの落ち着いた声に、それがどれだけ必死に感情を押し殺しているものなのかと、リルルは痛くなる胸を押さえながら思った。口にはしないが、この
この百階では
――だが。
「足を止めない。考えない。歩けば進める。進めばつく。先を考えない、機械のように進む……」
「そうよ。時間が切れた時のことは、時間が切れてから考えればいいの」
サフィーナがリルルに剣を差し出す。エメラルドグリーンの瞳をのぞいてからリルルは、相棒の手から剣を取った。
「――わかった。ありがとう、サフィーナ」
「進みましょう。みんな、待ってる」
機械たちの
◇ ◇ ◇
フェレスの指が魔王の
「これでボクの
フェレスが自分の手元にあった赤いカードを裏返しにした。裏の青い面を表にしたカードはニコルの方に
「ロシュ、しっかり記録を取っているね」
「問題ありません。現在、三巡目先攻が終了しました。次、ニコル様の巡、三巡目後攻です」
テーブルを
「では、失礼します」
ニコルの手が盤に伸び、横一列に並んでいる戦士の駒を七つ全て
「ロシュ、そろそろダイスと
「了解いたしました」
戦闘が開始された際の乱数処理に振るダイスを数個、それを投げ込む
「ニコルくん、なかなか
「ええ、まあ。ゴーダム公爵の騎士団に騎士見習いとして
「キミのお父上だろう。義理の関係とはいえ、ね。呼びやすいように呼びたまえ」
「……父上は、
「なるほどね。キミは本当の息子のように可愛がられていたということだ。そしてそのお父上に、サフィーナ嬢と公爵領の全てを
「……なんでもご存じなんですね」
「いったろう。僕にこの世界で調べられないことはない。ただ、人の心の中は例外なんだ」
立ち並ぶ駒を動かしたニコルが、巡の終わりを宣言する代わりとして、手元のカードを裏返し、赤に変えたそれをフェレスの手元に移す。
「キミに欲がないとかは思わないよ。人間、欲がなければ生きられないものだ。それでも、
「母一人、祖母一人、子一人の家です。フォーチュネットの
「どうしてそうしなかったんだい?」
「夢を追え、母がそういってくれたからです」
駒に伸びたフェレスの手が止まる。
「……夢か」
フェレスの目が再び盤面に向けられる。しかしそれは盤面を見ていない。その先にある、
「食べることは心配するな、お前には小さく育ってほしくはない。父親が
「そんな、苦労に苦労を重ねた二人に
「僕の夢をかなえることこそ、母と祖母の二人に報いることだ。そう僕は思いましたから」
「……リルル嬢と愛し合い、結ばれる。それがキミの夢か。ま、フォーチュネットの家も大した資産家だ」
「リルルが貧しい家の娘であったところで、僕の想いはなんら変わりません」
「……そうだろうね。すまない、ボクはどうしても目に見える情報に
フェレスがわかりやすいくらいに頭を下げる。ニコルはその姿に複雑な思いを抱く――目の前にいるこの人物が二人の令嬢に
「今の発言はキミを
「大丈夫です。
「おっと、いけないいけない。百六階に到達する前に勝負が決まらないと意味がないからね。サクサクと進めようか、サクサクと。――どれ、一列前進して、前線で戦闘
盤の中央付近で双方の駒七つの横列同士が接触し、先手を取る形でフェレスは駒の行動を選択した。
「横に駒が三体並ぶと、防御力は二倍、削れる生命値は半分――赤青ダイスを一個振る、と」
フェレスの手が器の中に赤三面、青三面に
「よし、判定は成功か。
「どうぞ」
ニコルに背を向けている戦士の駒の一つ、その駒の像の台座に差されている四つのピンのうち、一つがフェレスによって抜かれた。
同じ行動が残りの六つにも行われる。フェレスは合計四つのピンを手元にせしめることに成功した。
「これで中央ではしばらく押し合いへし合いかな。これで左右の
残りのドラゴン、ケンタウロスといった移動力の高い
「さてさて、ここからどうなるか楽しみだ。ニコルくん、キミの責任は重いよ。二人のご令嬢方は、順調に速度を落としているようだしね」
「わかっています」
ニコルに
「僕は負けません」
迷いもなくダイスが器に放り込まれる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます