第01話「銃の山の温泉旅行」
「大当たりの温泉旅行、ご案内」
王都エルカリナから、南西に約二千カロメルト離れた地点――エルカリナ大陸からも遠く
その
その
張り詰めた一本の赤い
爆発の規模の割には不思議とそれほどの
およそ七十二時間が経過し、予定の
それは、針のように先端が
状況からして、それが噴火しながら火口から溶岩を流出させることで形成された火山であることは明白だった、しかし、目算しても優に六百メルトを超える標高のものが、たった三日間で作り上げられたという常識外のことに、地学を少しでもかじったことがある者はみな
その山には
取りあえずは当面の
メージェ島と火山島の
だから、誰もその火口の内部がどうなっているかを気づかなかったのだ。
まさしく
――そして。
その円筒形の火道の中に、一本の塔が身を隠すかのように建っていたことを。
「――ふわあああ」
もう少しで火口の外に差し掛かろうという高さの塔の屋上、ちょうど正午のために太陽の光が真上から降り
美しい人だった。
「――ああ、よく寝た」
どこか作り物めいたその顔立ちは、青年とも美女とも判断がつかない。美青年と紹介されればそう信じるだろうし、絶世の美女であると説明されれば納得してしまう、美の要素だけを抜き出し、人の手で作り出した気配がその全身からあふれ出る。
薄い
「ずいぶんと長い時間が流れたようだけれど、どれくらい
懐から小さな板を出し、その表面に軽く指を当てていく。
「この世界の星図はこれと、そして今の星の配置はこれ……ふむ、ふんふん、ふむふむ。――ボクが眠らされて、五百年が経過したのか」
ぼんやりと光る板がその模様を目まぐるしく変えていく。やがてその変化も落ち着いて、定まった表示にその人物はやわらかい笑みを浮かべた。
「どうやら、
首を
「ボクもあと五百年は眠り続けるはずなのに、早まったのはどういうわけだ…………ああ、なるほど。こういうわけなのだね」
板の
「もうすぐ滅びが来るためか」
板を懐に戻した。
「ツケの取り立てがやってくる足音は、もうそこまで聞こえて来ている。ま、無理もないかな」
腕を高々と挙げ、背を
「こんなケースはこんなケースで、面白い。じっくり観察させてもらうとしよう。失敗のデータを取るのも、研究の大事な一環だ。どうせ滅びるなら、参考になるくらい派手にぱっと滅んでほしいものだ。ねえ?」
◇ ◇ ◇
早朝の王都エルカリナの
「お――っ!! これはもじゃ子さん、一家四名様、二泊三日の温泉旅行券が見事大当たり――!!」
「……え?」
支柱に支えられ、取っ手を回して回転する八角柱の箱が穴から
天幕を張って設営された福引き
「はい、この封筒に一式の
「……わたしの
その言葉は口の中で声にせず、フィルフィナは中身の分厚い封筒を受け取った。
「……温泉旅行ですか」
朝市の買い物で集めた抽選券を握りしめた買い物客たちの列に押し出されるようにフィルフィナは、会場から数歩離れた。二等の賞品を当てたという喜びはほとんどない。ハズレの
一説には千年の時を生きるといわれる、遙かな
その一派としての、ある一族の王族という血筋に生まれついた少女。エルフとしてはまだ
一般的にエルフは人間とは
その理由は――。
「いいなー、お姉ちゃん、温泉旅行当たったんだ」
脇からした声にハッとした。その瞬間、普段は髪の中に埋もれている尖って長い耳がぴこ、とその先を一瞬だけ現した。
この街で
視線を向けると、まだ八歳くらいと
「坊や、温泉旅行が
「だって俺の家、みんなで旅行なんかいったことないんだもん。それにさ」
そんなに
「母ちゃん、最近腰が痛いっていってるし、温泉に
「ああ、そんな名前の温泉らしいですね」
「ま、しょうがないか」
子供はすり減りきった
「――坊や、ちょっと待つのです!」
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