「罰と罰」
自らの意思によってリルルがその親指で赤い突起を押し込んだ瞬間、少女と悪魔をつなぐ鉄縄が震えた。
黒く鈍い光に輝く鋼鉄の肌、それにぴたりと吸い付いた百個の小さな箱が反応し、破壊の歌を一斉に歌い上げた。
「――――――――っ!!」
デルモンが上げる悲鳴をその閃光と炎と爆音で
金属を
この時のため、リルルとフィルフィナが左手首に装備している銀の腕輪――黒の腕輪と
それは鋼鉄を切り裂く針を持った百匹の
爆発の炎と衝撃、そして
「ぐううっ!!」
破壊の力を内側の一点に向かって
「あ……あの、あの、あの馬鹿娘、本当に爆発させやがった!」
取り落としていた短剣を拾い、敵を探す――いない。
「どこだ!」
「あそこよ!」
頭を打ち付けた脳のしびれに顔を
「デルモン!」
爆発の中心となった場所には、ツルハシかなにかでメチャクチャに
恐怖と
「って、デルモン、起きやがれ!
「――まあね」
恐怖の
「いやあ、
その
「私にトドメも刺さず、あの連中、いったいなにがしたかったんでしょうね?」
「好き放題されたじゃねぇか! 馬鹿かお前は!」
バズが
「
「……私はね、あなた方に無理矢理起こされただけなんですよ。たまたま条件が
「俺たちの保護がなけりゃ、その体を実体化させておくこともできねぇくせに、いっぱしの
「あああ、もう、
「――チッ! とにかく岸に
「スィルはどうするのよ」
「ほっとけ! そこまで手は回らねぇよ!」
◇ ◇ ◇
「やはりあれだけで死ぬような
林の木の一本に上り、
「わたしたちへの被害を考えなければ、めいっぱいの爆薬を詰めてやったんですが。曳船の上での戦いは想定されていましたから、仕方がないといったところですか……」
「あんな奴等と
心からそう思う。命はひとつきりだ。
「どうやら体内の『
「その
次の戦いの場はおそらく王都の中、市街地戦になるだろう。鉄縄の長さを
「とはいえ、物理攻撃でどうにかなりそうなのがわかったのは
「……大丈夫そう?」
「お嬢様」
双眼鏡を目から離したフィルフィナが、足元の主に向かって
「わたしが立てた作戦で、今まで上手くいかなかった例が、ひとつだってありましたか?」
「――そうね」
リルルも微笑む。
そうだ。いつだって自分はこのエルフの少女に、相棒に支えられ続けてきた。
自分の異名『快傑令嬢』は自分だけのものではない。それはふたりでひとりの存在なのだ。
「我々も
「決戦が近いってことね……」
「そうです。もうこれ以上長引かせはしません。――そして、勝つのは、いつだってわたしたちです」
「うん」
少女と少女は、うなずき合った。
◇ ◇ ◇
アジトとはいっても、それほど大層なものではない。自宅に置いておけない人物を一時的に
そして、自宅に置いておけない人物、そこに置いておかないとならない人物が、いなかった。
「あのクィルクィナ……!」
リルルたちに
どこかにふらっと出かけた風でもない。二時間をそこで待ってみたが、
「妹のことなどどうでもいいというの!? ……最低限の装備は確保してあるから、戦えないことはないけれど……!」
思えば最初から非協力的な娘だった。爆弾を作らせても威力は期待の半分も出ていない。
「……探している
ここには自分の身元を示すものはなにも残していない。
「――リルルと対決してから何一つ上手くいっていない!
もう時間は残されていない。予定では、明日になればあの
その結果に、この王都で始まるであろう嵐の様を想像しても、エヴァレーの心は以前とは
自分は世界を広げようとしているのに、自分の世界は刻一刻と
◇ ◇ ◇
リルルたちもまた、自分たちのアジトにいた。
王都の
そして、屋敷に置いておけない危険なものが今、腕を
「……フィル姉様、これはいったいどういうこと」
「それはこちらが聞きたいのですよ」
素っ裸に
「――私、これとそっくり同じ光景を見たはず……」
数日前に双子のクィルクィナも同じ目にあった格好だが、姿形はまさしく
「どうしてあんな連中と行動を共にしているのです。わたしはもう
「バズもマハも世界を救うために行動している」
その泣き
「私はそれに力を貸しただけ。彼等の世界救済の方針は正しい」
「これはかなり
早々に説得をあきらめ、フィルフィナは頭を抱えた。
「フィル姉様こそ、その格好はなに。
フィルフィナが反射的に抜いた拳銃を、横にいたリルルがとっさに押しとどめた。
「……この洗脳をまともに
「そんなに……」
「まともに解けばの話ですけれどね。仕方ありません」
聞いていたリルルの産毛が総毛立った。意識よりも先に体の方が嫌な予感を覚えていた。
「これに頼るとしましょう」
フィルフィナが黒い腕輪からひとつのものを取り出し、リルルは自分の予感が的中したことを知った。
「待って、フィル、それは」
「もうこれしか手段がないのです。わたしもこれを使うのは、本当に、本当に嫌なのですが、やむを得ません。可愛い妹をこれで
リルルを
手の平と同じくらいの
その形が見せる
記憶飛ばしの
その道具の意味を理解しない者は、この場ではいない。クィルクィナもヒッと
「この拳鍔は精神構造に作用しますから、これでぶん殴れば洗脳が解けるかも知れません――いえ、その前にわたしの怒りが、この馬鹿妹をぶん殴りたいのです。洗脳が解けるかどうかは建前に過ぎません。さあスィル、姉が
「リ、リルルお嬢様ぁぁ! お願いだからフィルお姉ちゃんを止めてぇぇ! スィルを殺す気だよぉ!!」
「フィル、それはよしましょう。まだなにか方法があるわ。今は落ち着いてよく考え直して――」
「……お嬢様は、隅っこで引っ込んでてくださいませんか?」
「はい、わかりました」
フィルフィナが向けた横目の眼光の鋭さに、リルルは大人しく引っ込んだ。
「スィル、傷はなんとしてでも一日で元通りに治してあげます。いくらわたしでも
拳鍔を握り込んだフィルフィナが妹に向かって歩き出す。その後ろで震え上がったリルルとクィルクィナが、
「……待って、フィル姉様。今、洗脳が解けた。だからよそう」
「誰が信じるか」
エルフの三人姉妹、その
「傷の回復にも激痛が
フィルフィナは予告を実行した。
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