「独白の時間」
高い城壁は東から昇る朝日の光を
王都にも東部に貧民街が存在する。まるで、川の流れに寄せ集められた落ち葉が
真夜中の街。
「ご指定の
すねに傷どころではない。消えない切り傷を刻んでいる顔をフードの奥に隠した男が一団を代表し、目の前の細身の人影――おそらくは女の前で、似合わない
わざとらしいくらいにうやうやしく差し出されたその手に、ひとつの小さな箱が
「――――」
親指の先くらいの大きさをした青い球体。混じり気のない美しい光を放ち、それが女の手の平でわずかに転がる。女の目がそれを細く
「あの豚、少し
男の背後で笑い声が起きる。どれもこれもがまともな
「母親の方はどんなに痛めつけても
「楽な仕事でした。では、
「報酬?」
女の唇の
男たちが目を見張る前で、女の靴の
「ただのガラス玉じゃないの!」
肩の高さが身長になった男が、どう、とその場に倒れる。貧民街には似合いの
「いったわね! ちゃんと
「で……ですが!」
「こんなわかりやすい
「…………!」
答えは返ってこない。男たちは
女の腕がもう一度振るわれると、立っている男の中で最も女の近くにいた者が首を失った。
「役立たずが! 二重にしくじって! 今度失敗したら全員を殺す――そのつもりでいなさい!」
「……
『どうやら、青の瞳の確保には失敗したようだな』
『ベクトラル
「……それがコナス……!」
『あの騎士の小僧どころか、快傑令嬢とかいう娘にも振り回されているようだな』
「うるさい!」
再び旋風が巻き起こり、影の色をした蝙蝠が
『コナスが生きているとなると、結節の空間への道が
「待ちなさい! 早すぎるわ! 今、
女の声を無視し、蝙蝠の影は姿を消した。後には首を失った二つの人体が、いまだ血を
「……これだから
奥歯を
◇ ◇ ◇
診療室の窓から朝を告げる光があふれ、毛布にくるまったリルルはそれに目覚めを
「う……うう、う……?」
まだ起きない頭を振り、邪魔なメガネを取ろうと自然に手が
リロットの姿のまま一夜を明かすなど初めてのことだった。しかも、自分の屋敷ではない場所で。
「いけない……なにも
屋敷に戻っているだろうフィルフィナがどんな顔をして自分の帰りを待っているか、想像しただけで背筋が寒くなる。
「……すまないね、僕のために」
下から聞こえてきた声に、リルルの目が反射的に向いた。
「
「……コナス様!」
脚のない寝台で、毛布を
「お加減は……」
「傷は痛むね。気分はだいぶ、よくなったけれど。……また君に助けられるなんてね……君が僕に血をくれたのか……」
針が刺された
「私の血が使えましたから。よかった……血の相性が悪ければ、助けることはできなかったかも知れません」
「快傑令嬢リロットの血をもらえるとは、光栄の
「――お屋敷で、何があったんですか」
コナスの乾いた笑いが、止まった。
「私、燃えるお屋敷に飛び込みました。そこで、ご家来の方々が……」
「ああ、いわないでいいよ…………僕は見たからね……
少女の胸に、重いものが響いた。
「家来のみんなが
口が弱々しく動く。それでも伝えねば、という意志が言葉をつなぐ。
「僕が屋敷に戻るのを先回りして、家来たちを
「そんな…………」
人間がやることなのか、それは――リルルはそういいかけるが、口をつぐむ。
そう疑うようなことは、今までたくさん見てきた。それがたくさんあるから、自分はこのドレスを身にまとって戦い続けてきたのだ。
人が行うおぞましい行為から、人を救うために。
「それに……母が……」
――母?
リルルの思考が空転する。コナスの屋敷で行われた面会式、そこであったハーベティの顔を思い出すのに一分の時間を要した。
「……すまないね。君に助けられておきながら本当に勝手ないいぐさだけれど……十分でいい、一人にしてくれないか。……お願いだよ」
「は……はい……」
うつむいたコナスを一人にしておいていいのか――迷ったが、コナスの悲しさににじんだ声の前に、リルルは動かされていた。寝台から体を
「――――――――っ」
扉を閉めた
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