「わたしはリルル」
突進の勢いと重力の引き――ニコルともつれ合うように数百段の階段を、ものすごい回転数で転がり落ちるリルルの視界で、世界がそれこそ何百回と回転した。
階段の全てに体を打ち付け――それが途切れた瞬間、リルルの体もまた衝撃から解き放たれた。
「うわあぁぁぁぁ――っ!?」
階段を転がりきったと思ったら、空に投げ出されるような感触が全身を包む。皮膚の裏に寒気が走る。落ちきったはずなのに、つかまるところなどない無限の闇の先に落ちる、無限に落ち続けている――ここは何もかもが異常な空間だ!
「ニコ……ル……!」
リルルがそう名を呼んだ直後、
「く……ぅ、うう、う…………!」
リルルの手がニコルの手を
「や…………め、て…………!!」
光が存在しない闇の中で、何故ニコルの、自分の姿がくっきりと見えるのかはわからない。腕を
「やめて……ニコ……ル……! あな……たは、こんなことをして、いちゃあ……!」
喉にかかる指の圧迫がリルルの声を
恋する、愛しているはずの少女の命に手をかけて、今、その力のままに折ろうとしている――!
「く、ぅっ!」
突然、背中に衝撃が来た。無限と思われていた落下がそこで止まる。地面――いや、地面とは違う。『ここから先には落ちることができない』という
「ニコル!」
ほんの一瞬、その力が
素早く体を転がし、体を起こしたリルルが間合いを取る――どうやら、立てる地面がある。
目には見えない真っ平らな床が
「――ニコル! 私の声が聞こえないの!?」
無言を
背中は見せられない。背中を見せた瞬間、心臓を背中から貫かれるような予感があった。
ニコルが見せた、数十歩の間合いを一秒で詰める突進力――それから逃れる術はない!
「……そうね、無理よね……
リルルの口元に、ふっと、笑みが浮かんだ。
――
無から有が生まれるように、一つの認識が、リルルの心の中で咲いていた。
「ニコル、今までごめんなさい。ずっと、あなたに
少年の歩が、
「私は悪い子だわ。あなたはなんでも私に正直に告げてくれたのに、私はあなたに隠し事しかしてこなかった。だから、神様が私にこんな罰を与えたのよ。だから、今……」
「――――」
ニコルの次の歩が、動かない。歩もうとする足が震えて上がらない。
「――ニコル。私の大好きなニコル」
少女の手元には、もう、手段はただ一つしか残されていない。
この手に残された、
「今だから、今しかないから、あなたに見せる。
私の罪の形、あなたに吐いていた、嘘の全て――」
その切り札を切った結果がどうあれ、それを使う
だからリルルは、その手をかけていた。
その目に
「――ニコル、よく見て!」
メガネが、外された。
少女の瞳に
ニコルが、瞬いた。そのまぶたが瞬間閉じて、開く――この空間で初めて見せる、ニコルの人間らしい仕草。
少女のものを思わせる
「――リ……、ル……ル……?」
その瞳の紅さが、弱まる。
「――そうよ! よく聞いて、ニコル!」
ニコルが微かに見せた理性の輝きに、リルルは、
「――快傑令嬢リロットの正体は、この私! リルル・ヴィン・フォーチュネットなのよ!!」
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