姫と僕とカップ麺

Tonny Mandalvic

姫と僕とカップ麺

 大学生の僕は授業終わり、研究室でカップ麺を食べるのが趣味であった。

 学食に行けばいいものが食べられるのだが、混雑する食堂に行くのは好きではない。

 よって研究室で昼飯を食べることにしている。


 暇な友人たちが今日も昼飯を食べに来るはずだが、今日は誰も来ていない。

 研究室のパソコンで動画共有サイトを見ながら食べるカップ麺は至福の時である。


 今日はやきそば弁当にしよう。学食や購買で買うよりもカップ麺はスーパーで買ったほうが安い。そのことと、大学がスーパーから遠いので、大量にカップ麺をロッカーに入れているのだ。買ってきたカップ麺も少なくなってきたなと思いながら、僕は研究室の誰かが持ってきた電子ケトルでお湯を沸かし、やきそば弁当を作る。

 忘れてはいけない、紙コップにスープを入れてお湯を注ぐ。やきそば弁当のお湯を捨てる時に出るお湯を使うのが正当ではないかって?確かにそれが正当かもしれないがいいだろう。

 お湯を入れた後時間つぶしのため、動画共有サイトを見ながらやきそば弁当ができるのを待つ。。今日もくだらない動画ばっかり見ているしょうもない日々だ。面白い日なんて年に1回あればいいのである。そんな日が今日訪れるとは思わなかった。



「お昼忘れた。ってええ、藤崎しかいないの。」

 そんな声を出しながら研究室の姫がやってくる。

 男子にもよく声をかけてくれるし、研究室の行事にも積極的に参加してくれる、アイドルのような存在だ。こんな人は俺以外のだれかと付き合ってるだろうし、俺と付き合えないと思うのでので興味がありません。というか、趣味が合わなさそうなので、表面的にしか付き合ってません。

 なので彼女のことを心の中で姫と呼んでいた。

「誰もいないけど。いつもの弁当はどうした。」

 彼女はここで食べるときは弁当を持ってきていたはずだ。

「忘れた。」

「昼は購買で買うなり学食に行けばいいだろ。」

「財布に金入れるの忘れて定期しか持ってきてません。」

「電子マネーは。」

「定期券範囲内以外の移動しないから金はいってない。」

 どんな生活してるんだこの姫様は。

「あとでお金払うから何か食品を頂戴。」

「カップ麺しかないけれど。」

 と言って、緑のたぬきを渡す。

 次一緒の演習なので、5分かかる赤いきつねは時間切れになってしまう可能性があるので渡さなかった。

「カップ麺しかないの?」

「仕方ないだろう、日持ちがして調理しやすいものはカップ麺しかないんだから。」

 ずっと置いておく食品だし、時間と移動するのが面倒だからここで食べているのであって、電子レンジがあればパックの米とかの選択肢があると思うが、お湯しかないので、ここで食べられるものはカップ麺しかない。

 フリーズドライの宇宙食とか費用を無視すれば別だが。

「ほかに選択肢がないのだが、昼食なしでいいのか。」

「とはいっても、朝は忙しくて何も食べていないし。」

 本当にどういう生活をしているんだ。君は。

「その緑のたぬき頂戴。」

 くれといわれたので渡す。

 あまり彼女がカップ麺を食べているイメージがわかなかったので、純粋な疑問から、

「カップ麺って食べたことある?」

 と聞いてみる。

「そりゃあるでしょ。」

 そらそうだ。


 姫様が緑のたぬきを作る。

 この字面だけを見れば奇妙な光景に見える。

 僕は彼女のためにポットの湯を再度沸かしてやる。

 それが終わったら彼女と話すことはないので、イヤホンをつけて動画共有サイトを見ることにしよう。

 というかかかわっても何かいいことがあるわけではない。

 そのうちだれか来て姫と話をしてくれるだろうと思い、くだらない動画を見続ける。

 ところで湯切りを忘れていた。自分のやきそば弁当を食べなければ。ちょっと伸びているがちょうどいいだろう。

「なに聞いてるの。」

 姫様は暇だったのか、俺に絡んでくる。

 緑のたぬきに集中しろ。

「人様に聞かせられない音楽だ。」

 他人様に見せられるような音楽を共有スペースで聴くほうもどうかしているが、絡んだって仕方ないだろ。

 姫様は友人たちがいないのでお暇なようだ。

 そのうち友人たちがいらっしゃるだろう。

「藤崎がどんなことに興味があるのか知りたいし。」

 そんなに面白い人間ではない。

 あと淡い期待をしたって所詮俺の人生である。

 それなら期待をさせないでくれ。

 どうせこんなつまらない人生なのだからこの状況に乗っかることとした。

「スポーツ関係の動画だ。」

 女子に見せられる程度の動画を見せることとする。

 こういう時にスポーツを見るのが好きだった自分を感謝する。

「ふーん。漫画とかアニメを見ているのかと思った。」

 まあばれているか。そもそも隠すつもりもないのだが、マイルドに人に見せられるものをチョイスしているだけだ。

「そろそろお湯を入れてから3分経つから緑のたぬきができるぞ。」

「そうだね。食べよう。」

 まだ彼女の友人はやってこない。

 割り箸を彼女に渡す。

 割り箸がなければ間接キスだって思うけどそんなゲスなことは心の中に思っておくだけにしよう。

 姫様はふたを外して、

「いただきます。」

 俺なんかいただきますなんて言ったことはない。

 育ちが違うからな。仕方ない。

 姫様が緑のたぬきを食べる姿を見る。

 僕の視線に気づいた彼女は、

「何じろじろ見て。」

「いや、特に。」

 家族に姉や妹がいないので、自分の母親以外の女の人がカップ麺を食べるのを見るのが初めてだったのとあまりカップ麺を食べるイメージのない姫様がカップ麺を食べるのであるから、しっかり目に焼き付けておかなければならない。

 彼女にはその行動が怪訝そうに見えたのだろう。



 話すこともないので、僕はネットサーフィンに励むこととする。

 ネットサーフィンやるくらいならレポートの一つでもやれよと思う。

 彼女は何口か食べた後沈黙に耐えられなくなったのか、僕に話しかける。

「いつも藤崎がなんでカップ麺を食べているのか気になっていたんだ。」

「そうか。」

 だから淡い期待をさせないでくれ。

 お前には誰かいるだろう。

 俺はさっさと食べてしまう。昔から食事はあまり家族以外と食べないし、友人と食べることなんてほとんどない。これが久々かもしれない。

 姫様に期待してもしょうがないから話を変えよう。

「次の授業の準備についてどうなんだ。」

 当たり障りがなく共通の話題を話す。

 このような勉強の話はお互いの人間関係に踏み込まなくていいので楽だ。

 あと謎の自分の内面への踏み込みを避ける役割でも効果的だろう。

 沈黙があると俺の内面にふみこまれるので、それを回避するためにも雑談を続ける。



 そろそろ教室に行かなければならない時間だ。

「そろそろ行くか。」

 僕は彼女に声をかける。

 彼女はスープをシンクに捨て、準備をし始める。

 僕は彼女と一緒に授業に行く。

 ところで誰も今日は来なかったんだが休講か?

 そんなことを思いつつ教室に行くと、いつもの同級生たちがいる。

 僕は、定位置である後ろのほうに座り、姫様は別の友人グループの席に誘われるようにしていってしまった。

 そんなもんだ。

 期待したってしょうがない。




 翌日も僕は研究室で昼にカップ麺を食べる。

 今日は赤いきつねにしよう。

 赤いきつねの準備をしていると、姫様がやってきた。

 今日は仲間も一緒らしい。

「あ。今日も弁当忘れた。」

 そうか。そうきたか。

 その声を聴いた僕は金の回収に行こうとすると姫様から声をかけてきた。

「藤崎、今度はやきそば弁当を頂戴。」

 どうやら姫様はカップ麺がお好きなようだ。

 僕は餌付けをしてしまったらしい。

 今度はスーパーで赤いきつねや緑のたぬきを買う量が2倍になりそうだ。

 激めんワンタンメンも買わなきゃ。

「やきそば弁当は切らしているぞ。」

「じゃあ何があるの。」

「赤いきつねと激めんワンタンメン、黒い豚カレーうどん、紺のきつねそば」

「じゃあ藤崎と一緒の赤いきつねにする。」

 そういう期待させるようなことを言うな。


「でところで昨日と今日の分の金は。」

 赤いきつねを姫様に渡しながら彼女に伝える。

「今日も財布忘れた。」

 ほんとにどんな生活しているんだ。君は?

「回収しに来る?」

「次でいいよ。」

 彼女の家への誘いを断る。また純粋な僕をからかっているのだろう。

 どうして僕をからかいたいのかよくわからないが。


 次があるのかわからない約束をして、彼女がカップ麺を作るのを横目に、僕はいつも通り昼のリラクゼーションであるネットサーフィンにいそしむ。

 彼女はいつも通り僕とは別の世界の友人と話し続ける。



 赤いきつねと緑のたぬきが僕らを繋ぎ続ける。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

姫と僕とカップ麺 Tonny Mandalvic @Tonny-August3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ