第22話 ロリとデート
デパートに来るのは約一週間ぶりか。前は戦力強化が目的で大してショッピングを楽しむことはなかったが、今回は完全に遊びが目的。いろんな店を見て回ってリフレッシュすることにしよう。にしても、ゲームの中とは思えない店舗の数だ。館内マップを見ると、映画館やゲームセンターもある。ゲームの中でゲームって……。ツッコみどころは多いが、逆に言えばここまで手の込んだゲームは初めてだったので素直に感心した。隣を歩くマルちゃんも目についたお店を指差したりしてテンションが上がっているようだ。女子力の貧しい私はどんな店が人気なのか全くわからないので、そんなマルちゃんの斜め後ろにくっ付いて保護者のような一歩引いた歩きを見せる。
「クララさん! 私、ずっと前からここの饅頭を食べてみたかったのであります!」
私の袖を引っ張り、ぴょんぴょんと跳ねるマルちゃん。可愛すぎる。こんなの、買ってあげないわけがないじゃないか。いかにも老舗です、といった感じの味のある看板には『
「すいません、みたらし饅頭をひとつください」
「毎度ありぃ!」
店主のおじさんがショーケースから饅頭を取り出し、パックに詰める。その一連の動作をマルちゃんは目を輝かせながら見つめていた。まるで宝石みたいね。たかが饅頭一つでここまで喜べるだなんて、本当に純粋なんだな。
「美味しそうなのであります〜!!」
「よかったね!」
「はいぃ! ありがとうなのであります~!!」
饅頭を口へと運び頬張ると、とろけそうな表情で頬を押さえる。
「~~!!」
「お嬢ちゃん、そんなに美味しそうに食べてくれて嬉しいねえ。ほれ、これはサービスだ。もっとお食べ」
「わぁ~! 嬉しいのであります!!」
追加で渡された饅頭。マルちゃんは更なる幸せに包まれる。カフェのときとは真逆の表情が見れて、改めてここに連れ出してよかったと思った。そんな微笑ましい様子を横目に私はマルちゃんの代わりに店主のおじさんに頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いやいや、いいんだよ。こんなに美味しそうにウチの饅頭を食べてくれる子は久しぶりでね。こっちとしても舞い上がっちまったのさ」
おじさんは鼻の下を掻きながら答える。饅頭を食べるマルちゃんは私が見ても気持ちのいいものだった。作った本人からすれば、なおさら嬉しいはずだ。
「久しぶり……?」
「ほら、見てみろよ」
おじさんはそう言ってカウンターから出てくると暖簾を外し、外の様子を見せてくれる。沢山のプレイヤーがデパートの中を行き交っているが、春桜堂を前に足を止める人はほぼほぼ皆無だった。
「誰も看板すら見てくれませんね……」
「客足が減ってるんだ。もともとここはシティ・モンスターズの制作会社……シティ・コーポレーションの社長さんが和菓子好きってことでデパートに入る店の第一号だったってのによ。情けねえ」
「そうだったんですか!?」
「ああ。当初は店名も社長自らが考案してくださって、社長イチオシの店ってことで賑わってたんだが、このザマよ」
おじさんは寂しそうな瞳で反対側に連なる店のひとつを眺める。つられて私もその店を見てみると、これまた美味しそうなケーキ屋さんが繁盛していた。
「最近入ってきた新店舗さ。ウチの常連さんもほとんど持ってかれてしまった。悔しいが今の時代、和菓子じゃ洋菓子に勝てないんだ」
「思わぬライバルが現れたってことですね」
デパートは沢山の人が訪れる反面、それに比例して沢山の店が集結する激戦区になる。同じジャンルの店が一つのデパートに3つ4つあるなんてこともザラだ。その中で勝っていけるのであれば大きな利益になっても、負けていてはせっかく沢山来るお客さんの恩恵を受けられない。シビアな世界だ。
「そんなことないのであります!!」
横から追加分も完食したマルちゃんが割り込んできた。開いた口からほんのりみたらしのいい香りが漂ってくる。
「ここの饅頭は充分美味しいのであります! それにこんなに綺麗な丸形、他では真似できないのでありますよ!」
「そうだね。サービスしてもらったし、何か恩返ししたいなあ」
私とマルちゃんはしばらく思案する。しかし、いい案はすぐには出てこない。おじさんはその様子を嬉しそうに見つめていた。
「その気持ちだけで充分だよ。本当にありがとう。だが、きっとここらが潮時なんだろう。流石に俺も馬鹿じゃない。饅頭でケーキに立ち向かおうなんて思わんよ」
「そんな……」
マルちゃんは俯く。おじさんはマルちゃんの頭を優しく撫でると、区切りをつけたように両手を叩いた。
「ほら、これ以上君たちを拘束したら悪いよ。ゲーム、楽しんできなさい」
「私、異例のスピードでAランクに昇格して少しだけ有名なんです。私が本気で宣伝したら、きっとお客さんも増えると思います!」
「あ、それいい考えなのであります! 私もAランクだからそこそこ知名度あるのでありますよ!!」
私の提案にマルちゃんも勢いよく乗ってくる。それを見ておじさんは深々と頭を下げた。
「本当にありがとう。そこまでウチのことを気にかけてくれて。何とお礼を言ったらいいか……」
「頭を上げてください! お礼はあのサービスで充分ですよ。私としてもマルちゃんの笑顔が見れたので何かお返しをしたいだけです」
「そうと決まれば早速行動するのでありますよ!!」
マルちゃんは敬礼すると、そのまま店を飛び出した。
「あ、待って! すいません、失礼します!」
「ああ、行ってらっしゃい」
私は力強く頷いて、マルちゃんの後を追いかける。
マルちゃんの背中を追いかけ数分。公園にやって来た。予想以上にマルちゃんに体力があって、なおかつ足も速いと来たもんだから、私の体は味噌汁の中のわかめみたいにふにゃんふにゃんになる。
「は、速いよマルちゃん……。おばちゃん死んじゃう」
「何を言うでありますか! クララさんも充分若いではないですか!」
「ははー。そうだね」
私が若いんじゃなくて、お前が若すぎるんだよ。ロリロリな顔でロリロリロリロリロリロリロリロリしやがって。言いにくい!
「来年からは大学生。4年後には就職ですよ!? そんな体力では社会人は務まらないのであります!」
「……え、待って。マルちゃん今何年生?」
「高校3年生なのであります!!」
敬礼するマルちゃん。
「え、私高校2年生……」
固まるマルちゃん。
……。
年上かよおおおおおおおお!? そして何してるんだ高3! さっさとログアウトして勉強しろよおおおおおおお!!
「あ、間違えたのであります。ち、中学3年生でありました~。あ、あはははは~」
「だ、だよね~? 冗談だよね~?」
「そうでありますよ! クララさん!」
おい、どうするんだこの空気。最悪じゃねえか。高3を小学生くらいだと思い込んでお世話をしていたという恥を知って吐きそうだわ。
「と、とりあえず掲示板に饅頭の宣伝を書き込みましょうか……?」
「敬語やめろ」
怖っ。ボソッと言うの怖っ。
「そうだね。もうこの距離感で慣れ始めてたしね? いつも通りでいいんだよね?」
「はいっ! もちろんなのであります!」
満面の笑みで答えるマルちゃん。それも逆に怖かった。今日出会ったばかりなのに、もうマルちゃんの闇を知ってしまったな。普段は可愛いからいいんだけど。私たちはそれから掲示板に書き込みをして解散となり、マルちゃんを見送った後、ベンチに座った私はアーノンを呼び出した。
「アノマロカリス!」
「はいぃ、でやんす。……クララ嬢ぉ、どうしてマルちゃんとのデート中、ワチキをパワーリングに戻したでやんすか? ワチキもデパートを散策したかったでやんす」
呼び出されたアーノンは悲しそうにそう言う。
「……ごめん。今から大切な話があるんだ」
「ん、なんでやんすか?」
目を数回パチクリとさせるアーノンの横で私は静かに口を開いた。
「もう、【操獣】は使わない。アーノンとの関係もこれで終わりにしたいんだ」
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