第8話 私の深層心理

私は夢を見ていた。

塚本先生の家に招かれ、中へ入るとそのままキスをされる。

頭を左右に振る激しく貪るようなキスで、甘いキスとは全く違う。私はその激しいキスに応えるのがやっとだ。

そこでインターホンが鳴る。先生がモニターを見ると、そこには辻副院長の姿が見える。モニターを消し、先生は私を正面から抱きしめる。



そこで目が覚めた。スマホの目覚ましが鳴る。

今見た夢は私の欲望だったのだろうか。

今まで、塚本先生とは一線を超えたことはなかった。

ハグくらいだ。

先生は何故手を出さなかったのか。

考えても仕方がない。


今日は土曜日で仕事も休みだ。

目が覚めた時間は昼に近い。

ラフな格好に着替えて、自室を出た。

エントランスまで行くと、コンシェルジュが私のところへやってきた。


「ロビーに小川様がお待ちです。いかがなさいましょう。」


「通してください。」


気が引き締まった。


「山崎さん、こんにちは。押しかけるようですまないね。」


「いえ、お会いできて嬉しいです。」


「実は、外に塚本先生がお見えで。」


今朝の夢がフラッシュバックした。

先生に酷い事をされ続けていてもなお、深層心理では繋がりたいと思っているなんて。なんだか恥ずかしくなる。


 小川係長は私を誘う。


「詳しい話は、カフェでランチでも食べながらしませんか❔」


「はい。私の方も、お話したいことがありますし。」


私と小川係長は外へ出た。

塚本先生の姿はなかった。


小川係長と私は、テラスのあるレストランの中で昼食をとる。私はサラダプレート付きのパスタをオーダーし、コーヒーは食後にお願いした。


「塚本先生が山崎さんの家の外で待っているとは意外だったよ。」


「私もです。コンシェルジュには出禁をお願いしているので、そういう待ち方しか出来なかったのだと思いますが。でも、小川係長みたいに私のところへ戻って来てくれる人は皆無だったので、」


「山崎さんには詳しいことは言えないんだけれども、塚本先生がどうやって次々と相手を替えているかはわかった。でも、僕で失敗した。もしかしたら、また山崎さんのところに戻ってくるかもしれない。その時は…。」


「わかりました。気をつけます。」


 小川係長は一枚のメモを私に渡した。


「これが僕の電話番号だ。何かあれば、連絡をください。」


「わかりました。」



 話を終え、会計を済ませて外へ出ると、小川係長は私に握手を求めた。

 私が手を差し出すと、小川係長はぎゅっと手に力を込めた。


「全てが落ち着いたら、僕と付き合ってくれないでしょうか。」


私は卑怯者だ。

全てを先延ばしにした。


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