第26話 花を増やす以外にできること
村へと向かう道すがら、ジュリアンが私に謝ってくれる。
「すみません、急に人が増えてしまって。もう一日ぐらいは猶予があるかと思ったのですが、協会としても少し切迫感があるのかもしれません」
ジュリアンの申し訳なさそうな中に、苦悩がにじむ表情から、おそらく嘘を言っているのではないだろうと私は感じた。
「切迫感があるような、問題が発生しているんですか?」
「北西の国の状況が良くないようで。戦争が早まるかもしれない、と思っているようなんです」
カナード王国へ攻め込む準備をしているという話がある国のことだ。
花を増やすことができたので、早く竜を起こすことができるかもしれないと、協会としては気が急いているのかもしれない。
「なんにせよ、増やす必要があるまでは、村の家にいていただけますか?」
「はい、それは問題ありません」
むしろ少し暇になってしまうな、と思う。
考えてみれば、竜が目覚めて花を増やす必要がなくなったらどうするんだろう。今後のための種を確保する分を育てるのか、絶えないように育て続けることになるのか。
気にはなったが、そのあたりはジュリアンが考えてくれるだろうという気がする。
今自分が知りたいのは、今日以降の過ごし方だ。
「それにしても、花を増やす以外には私、あまりお手伝いできそうなことがないと思うのです。砦の掃除でもお手伝いしようかと思ったのですが、容易に出入りできないようですし……。何か私にできそうなことはありますか?」
結婚までしてもらって匿ってくれているのに、花を増やす以外には何もしていない。
ちょっと気が引ける。
なので聞いてみると、ジュリアンはびっくりした顔をした。
「あなたに掃除をさせようとは思いもしませんでした。主に砦の中を荒らしているのはオリヴェイル先生と私ですし。……そうですね、せっかくなので、時間があることですから、じっくりとあなたの魔法について研究してみてもいいかもしれません」
「研究ですか?」
「他にも草以外に増やせる植物がないか、確かめてみるのはどうでしょう? ソーンツェのような特殊な草が増やせるのですから、他にも何か増やせる植物があってもいいと思うのです」
それは私にとって心躍る提案だった。
「ぜひお願いします! あの綺麗な花以外は、花も咲かない雑草しか生えてこないのは本当に残念すぎて!」
もしかしたら、もっと私が役に立てるようになるかもしれない。
そうなれば草しか生やせないと笑われることもなくなるだろう。ソーンツェのような特殊な花を、人前で増やすわけにはいかないので、たぶん反論したくても実演できないから。
他のこともできるのだとわかれば、誰かに後ろ指刺される心配がなくなって、心穏やかに暮らせるだろう。
私の意気込みに、ジュリアンが微笑む。
「では今日からさっそく探してみましょうか」
ジュリアンはそう言って、私を道から外れた森へと誘導した。
「もしかすると、ソーンツェが芽吹くことのできたこの土地が、あなたの魔法に適している可能性もあります。森の中で、増やせたものを確認してみましょう」
ジュリアンが私の手を握る。
気負わない仕草に、私の心が少し跳ねた。
それだけで、周囲にわさわさと草が伸びていく。
日陰だからあまり生えていないように思ったけど、意外と草があったようだ。
「さ、確認しましょう」
促され、一つ一つ見ていく。
でも見始めてすぐに、私では草の種類がよくわからないことに気づいた。
「あの、ジュリアン様……」
確認をお願いできないかと言おうとしたところで、ジュリアンが「あった!」と立ち上がった。
「これを見てください。草に近いかもしれませんが、薬草です」
「えっえっ」
差し出されたのは、花こそないものの、針金のように細くてかたい茎を持つ植物だった。しずく型の葉が沢山ついていて、葉の色はやや黄色っぽい。
「これは?」
「簡単な傷薬に使うものですが、間違いなく薬草としても使える草です」
私は、自分の表情がぱっと明るくなるのを感じた。
「それじゃ、私、雑草以外も……?」
ジュリアンがうなずく。
「間違いなくあなたは、薬草を増やせるようです」
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