第5話 新天地へ
翌日。
私の起こした騒動と婚約破棄の連絡を受けた伯父は、怒りを私にぶつけた。
「婚約破棄されるような娘を家に置いておいては、我が家の名誉が地に落ちてしまいかねない! 領地の端にあるオークリーの別荘でしばらく頭を冷やしていろ!」
私はしおしおとうなだれる。
けれど顔を伏せた時に、思わず口の両端が上がってしまった。
いけないいけない。
喜んでいるだなんてばれてしまったら、「家で反省していろ!」と言われてしまう。
そうして私は、すぐに領地へ向かわされた。
別荘行きということは、伯父がいない。よって使用人の数も少ない。
監視の目がゆるいので、すぐにでも脱出できるだろう。
別荘に到着後、私は脱走の準備をした。
私は数日、部屋の中で涙ながらに刺繍をして、外出なんてしたくない……というふりをした。
『お嬢様は、婚約破棄されたのが悲しくて、部屋に引きこもっている』
そう思わせるために。
一週間ほどたつと、ベルを鳴らさない限りは、メイドが御用伺いに来ることがなくなった。
そこからさらに一週間。
メイドたちが油断しきったと確信したところで――別荘を抜け出した。
馬を一頭、厩舎から拝借し、メイドの黒のワンピースも拝借して扮装した。
そして夜明け前に抜け出したおかげで、ゆうゆうと別荘から離れることができたのだった。
そうして到着した一つ隣の町は、けっこう大きな所だった。
主人の使いという体で、持ってきていた宝飾品を売り、手に入れたお金で古着を買った。
その後はなるべくしっかりとした宿に泊まって着替えと休憩。
次の日は馬を売り、交通手段を乗合馬車に変えた。
こっちの方が、同行者も多くて何かがあった時に守ってもらいやすいし、貴族の娘が逃亡するにしては、最も使わなさそうな手段なので、見つかりにくいと思ったのだ。
そうして私は、親を亡くして親戚の家に行かなければならない娘、という設定で話しかける人に応対しつつ、旅をした。
オークリーの別荘近くの町からパトラ村まで、かなりの道のりがある。
川を渡ったり、山をぐるりと迂回するせいだ。その間ずっと馬車に揺られて、乗っているだけで途中でへとへとになりそうだった。
そして別荘を出発してから一週間後。
私は目的の村へやってきた。
パトラ村は、ざっと推測して人口は三百人くらい。
雑貨屋が一つ、宿はなくて、食事ができる店もない。
旧街道がここまで伸びているおかげで、乗り合い馬車もここまでは来るようだ。
疲れ切っていたけれど、本日の寝床を確保するためにも、私は募集の紙を持って、村長の元を訪問する。
一か八かでやってみるのだ。
すると――。
「おお、もう来たのか!」
白髭の細身の村長は大喜びだった。
「もう、ですか?」
「数か月はかかると思っておったんだよ。まだ募集をかけてそれほど経ってないからな。なんにせよ、もう夕方だ。対面は明日にして、まずはうちに泊まっていきなさい」
村長はそう言って、家に招待してくれた。
長旅でヘロヘロだった私は、素直に村長の家に泊まり、村長夫人の料理をお腹いっぱい食べさせてもらって、その日は早々に泥のように眠ったのだった。
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