破の段
シヨゥ
第1話
「型を破ることも大事だぞ」
道場で師範にそんなことを言われた。手合わせすること数度。何連敗目かした頃合いでのことだった。
「俺たちが型を守れと強く言い聞かせる。それはなぜか。考えたことがあるか?」
こちらが息を上げているというのに師範は疲れも見せずにそう問いかけてくる。それに対して首を振ると、
「型を教えることしかできないからだ」
と返ってきた。
「ではなぜその型を教えるのか。分かるか?」
首を振る。
「この型を守ることで必勝に近い戦績をたたき出してきたからだ。負けないとはつまり死なないということ。弟子をむざむざ死なすなんてことは誰もしたくない。だから型を教え、守らせる」
「では、なぜ型を破れと?」
ようやく息が整いそう投げかけてみる。
「簡単な話だ。同じ型を学ぶ者同士がやり合えば熟練度がものをいう。つまりはお前は俺に勝てないし、俺はさらにその上に勝てない。だから型を破ってでも必勝の道筋をつけることが必要になる」
「師範も?」
「ああ。教わった方を基本としてだいぶ崩してようやく勝ちをもぎ取った。同門の稽古で怪我することはあっても死ぬことはない。思いつく限り打ち込んで試してみればいい」
「分かりました」
「こういうことを言うのはお前が基本を体得していると判断したからだ。他のものに言うんじゃないぞ」
「ありがとうございます」
「それではもう1本」
「お願いします」
当然のごとく負けた。それでも先ほどよりは善戦した気がする。この繰り返しでいつか勝利をもぎ取れたら。そう思う。
破の段 シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます